不妊治療の先生に聞いてみた

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移植しても妊娠できなかったカップルへ
PRP療法が赤ちゃんをその手に抱く大きな期待に!
【エフ.クリニック 藤井 俊策 先生】

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胚移植を繰り返しても妊娠が成立しない原因には、胚の染色体の問題、子宮の問題、免疫の問題などがあります。

年齢が上がれば、卵子の質や精子の質の低下から妊娠が難しくなるケースが増えてきますが、なかには子宮の問題や免疫の問題から妊娠が難しいケースもあり、それは年齢に関係なく起こります。

今回は、とくに子宮の問題に注目し、なかでも着床環境改善のためのPRP療法について、青森市のエフ.クリニック 藤井先生を尋ね、詳しくお聞きしました。

子宮内膜が薄い人の治療は、実は、とても難しい

PRP療法のもともとの適応は、子宮内膜菲薄症例です。つまり、子宮内膜の薄い人が適応対象となっています。

私たちのクリニックでも、子宮内膜が薄い人の反復着床不全の人が数名いて、治療に困難を感じていました。

内膜が薄いため、エストロゲンを補う量を増やしたり、複数の薬を併用したり、また、ビタミンCやE、低用量アスピリンやアルギニンなどを試したりと、試行錯誤を繰り返していました。

しかし、なかなか妊娠という結果に結び付かず、「もう、手詰まりだ」と感じていました。

PRP療法については、不妊治療に取り入れられるようになった初期(2019年頃)から関心を持っていましたが、厚生労働省「再生医療等委員会」より施設認定を受けるための申請手続きが大変で、それに関わる費用も高額で躊躇していました。けれど、赤ちゃんが欲しいと通院される患者さんたちを目の前に、「これは、やるしかない。できることがある、方法があるのなら、試してみよう」と考え、2020年1月から申請の準備を始め、8月からPRP療法を開始しました。

その1症例目の患者さんが妊娠された時には、本当に嬉しくて、PRP療法を始めて良かった、と心から思いました。

とくに治療の効果がわかりやすかった妊娠例を紹介しましょう。43歳で子宮内膜が薄く6mm未満、反復着床の既往は2回でした。PRP療法は、移植周期に2回、治療周期10日目と12日目に自己血から抽出したPRPを子宮へ注入しました。PRPの初回投与時の子宮内膜は5.6‌mmでしたが、2回目の投与時は6.6‌mm、最終的には7.5‌mmになり妊娠し、出産しました。

子宮内膜が薄い以外には、明らかな問題がなく、PRP療法が功を奏したのだと考えられます。

PRP療法が適応対象になる人にも変化が

PRP療法が不妊治療に取り入れられた当初は、子宮内膜が7mm未満で、形態良好胚盤胞を2回以上移植しても着床しない、反復着床不全の人が対象でした。

2022年から不妊治療に保険診療が適応されるようになりましたが、PRP療法は保険適用外で体外受精治療周期が自由診療となり高額な医療費がかかります。どの程度の効果が期待できるのかも未知数だったので、数あるアドオンのなかでも、最初から患者さんに勧める治療というわけにはいきませんでした。

そのため、着床の窓や細菌フローラ、慢性子宮内膜炎などの検査や治療を行っても、まだ着床しない、妊娠が成立しない場合に、PRP療法を案内していましたので、PRP療法を開始した1年は着床不全の回数が多い患者さんが大半でした。しかし、2年目になると、県内の他施設からPRP療法を目的とした患者さんたちの紹介も増え、子宮内膜はさほど薄くないが、着床しない、妊娠が成立しないケースも治療の対象になってきました。なかには、人数は多くありませんが、反復着床不全でさえないけれど、PRP療法を希望する患者さんも紹介されています。それは、「とにかく、できることはなんでもやって、万全を期して胚移植に臨みたい」という思いからでしょう。

実際に、複数回移植しても妊娠しないことが適応条件になる検査や治療では、卵子が採取でき、移植可能な胚があることが前提となります。そうした患者さんのなかには、これまで胚が育たず移植可能な胚が得られない人もいれば、そもそも、なかなか卵子が得られなかった人もいます。それが、ようやく胚が得られた、胚が凍結できたとなれば、この1回の胚移植に万全を期して臨みたいという思いは、多くの患者さんも同様なのではないでしょうか。

これまでの実績では、今、お話したようなPRP療法を希望したカップルもいましたが、大半は子宮内膜の薄い人、複数回移植しても着床しない、妊娠が成立しない人が対象となっています。

PRP療法の着床率と妊娠率

2020年8月からPRP療法を開始し、結果がわかっている治療周期に限定して成績を出してみました。PRP療法後、胚移植を受けた患者数は、ちょうど100名で、平均年齢は38歳でした。

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胚移植回数は平均3.2回、適応の6割以上が子宮内膜の薄い人で、PRP療法を受けた半数以上が他院からの紹介でした。実際、PRP療法の適応対象となる人はそんなに多くありません。

実施した半数は他院からの紹介で、私たちのクリニックでPRP療法だけ受け、その後の胚移植は、それぞれのクリニックで行い、その結果を報告していただいています。

このようにPRP療法が適応対象となる人、また実際に受ける人は、体外受精を受けるカップルの中の一部ですが、手詰まりを感じるほど治療が難しい人たちで、これまでの胚移植周期では妊娠できていない人たちです。

これらを踏まえて、もう一度成績をみてみましょう。患者さん100人に対して、PRP療法121周期、凍結融解胚移植は単一胚移植で114周期を行いました。

PRP療法後に凍結融解胚移植を行った患者100名のうち、着床したのは46名で着床率は46%、このうち生化学的妊娠が6名いましたが、臨床的妊娠率は40名で妊娠率は40%でした。その後、5名が流産となり、流産率は12.5%で、そのうち4例は染色体の数の問題でした。

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さらに適応別に妊娠率をみてみましょう

PRP療法の適応別に妊娠率をみてみると、子宮内膜が薄い人の着床率は47.6%、妊娠率は42.9%に対し、内膜が薄くない反復着床不全の人の着床率は38.2%、妊娠率は32.4%でした。症例数が少ないので、有意差があるとはいえませんが、子宮内膜の薄い人が高い傾向にあります。また着床不全の既往回数と妊娠率の関連は、子宮内膜が薄い人の場合にはありませんでした。

しかし、内膜の薄くない反復着床不全の人の場合は、既往回数が多いほど妊娠率が有意に低下し、既往回数が7回以上の人では妊娠が成立しませんでした。

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PRP療法を行った2周期以内にも妊娠例が

PRP療法を行った周期の凍結融解胚移植で妊娠が成立しなくても、その後2周期以内の凍結融解胚移植で妊娠した例が7例(PRP療法後の2回目の凍結融解胚移植)ありました。これを含めると1回のPRP療法での妊娠率は48%となります。

PRP療法後の2回以上の凍結融解胚移植で妊娠したのは8例ありますが、3回目以降の治療周期では妊娠は成立していません。このことから、PRP療法の効果は数カ月は持続するのではないかと考えられます。

妊娠の期待を高めることと可能性を広げること

PRP療法によって子宮内膜が厚くなる人が多いのですが、なかには厚くならなくても妊娠する人もいます。子宮内膜は薄くないけれど、繰り返し着床しないという人もPRP療法によって妊娠しています。そのため内膜の厚さだけで、PRP療法の効果を予測することができませんが、厚さ以外でその効果となる評価基準を決めるのは、今の段階では難しいと考えています。

また、着床率や妊娠率については、手応えを感じています。PRP療法を受けた人の過去の凍結融解胚移植は合わせて476周期ありましたが、その間に一度も着床しなかった難治性不妊ばかりです。臨床試験を行ったわけではないので、確かな根拠を持っていえるわけではありませんが、PRP療法は、かなり有効な治療だと考えています。いわゆるゼロだった着床率が46%になり、妊娠率は40%になっています。

しかし、残念ながらPRP療法でも効果を期待できない症例があることもわかってきました。たとえば、頻回の内膜掻爬術の既往がある人、あるいは多発性子宮内膜ポリープを通電切除した人など、超音波検査で明らかに子宮内膜に傷がある、薄すぎる場合はPRP療法を行っても改善した兆しが超音波でも確認できません。いくら再生医療とはいえ、子宮内膜の基底層の幹細胞が失われてしまうと効果はないのだと思います。

つまり、内膜を厚くする部分がほぼなかったり、深い傷があったりすると、再生するものがないわけです。たとえば、内膜7mm未満を8mmにすることは期待できても、ゼロを1にすることはできないのです。

PRP療法への今後の期待と展望

子宮内膜へのPRP療法が報告されたのは、2015年です。すでに8年が経過し、有効性を示す報告が蓄積されています。

しかし、PRP療法は保険適用外のため、治療を受けるとなると不妊治療周期に関わる全ての検査や治療に保険が適用できず自由診療になってしまい、医療費が大変高額になります。

再生医療が先進医療と同じような扱いであれば、保険診療と併用することができ、医療費の負担も減り、PRP療法が受けやすくなるでしょう。

ただ、他の診療科では自由診療で行われているPRP療法を、産婦人科だけ先進医療扱いにするのは無理があります。これは、ルールの問題なので、なんともし難いのですが、不妊治療の周期という制限は婦人科特有のもので、ほかの診療科には類はなく、理不尽さを感じます。

PRPの効果は、ある程度持続する可能性があるので、凍結胚移植周期とは別の周期にPRP療法を実施し、PRP療法は自由診療だが、凍結融解胚移植は保険診療で行うという考え方もあります。

また、年齢を重ねたことによる卵子の質の低下、それに招かれる流産の増加には成す術がありません。

たとえば、不妊治療を繰り返して年齢を重ね、40代半ばにPRP療法を行い、ようやく初めて妊娠できたのに、胚の染色体異常による流産になってしまった患者さんがいました。もう少し早くPRP療法を受けることができていたら、赤ちゃんが授かっていたかもしれないと考えると、患者さんも悔しく思うのはもちろんのことですが、私も大変悔しい思いをします。

確かに医療費は余計にかかりますが、妊娠は時間との戦い、特に女性にとっては有効に使わなければならない時間です。ですから、適応の範囲内で患者さんが希望すれば、速やかに治療をすることができ、かつ経済的な負担を軽減する体制が必要だと思います。

PRP療法は、子宮内膜が薄い、また子宮環境などから、良好胚を繰り返し移植しても着床しなかった難治性着床不全に対し、妊娠の可能性を高めることが多いに期待できる治療だと考えています。

PRP療法を臨むカップルが、すぐに、そして、よりよい環境で治療を受けることができるように、治療実績を積み重ね、またその効果を検証しながら、今後も進めていきたいと考えています。

エフ.クリニック
藤井 俊策 先生

経歴

  • 1986年
  • 弘前大学医学部卒業
  • 1990年
  • 弘前大学大学院修了
  • 1991年
  • 青森労災病院医長
  • 1992年
  • 弘前大学病院助手
  • 1995年
  • 弘前大学病院講師
  • 1999年
  • Adelaide大学(文科省在外研究員)
  • 2003年
  • 弘前大学大学院医学研究科准教授
  • 2010年
  • むつ総合病院産科部長
  • 2011年
  • エフ.クリニック院長

資格

医学博士
日本専門医機構 認定産婦人科専門医
日本生殖医学会 認定生殖医療専門医

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