受精力アップへの期待と精子選別法!
マイクロ流体技術を用いた精子選別デバイス・「SwimCount™ Harvester」の実態を尋ねて
【おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮 大野田 晋 先生】
クリニック開院は2022年5月ですが、先生のキャリアは長く、患者さんからの信頼も厚く、年間の治療実績も患者数も増え続けています。そこには、開院当初の3つの特徴が功を奏しています。それは、通院負担を減らすために、患者さまの通院しやすい場所と診療時間を提供すること。あらゆる不妊治療を選択肢として、オーダーメイドに対応すること。
そして、不育症診療や出生前診断についても、幅広くサポートしていくことです。
体外受精を受ける時に、オプション診療としてマイクロ流体技術を用いた精子選別法があることをご存知でしょうか?保険診療での先進医療として認められていることから、希望される方も多くいらっしゃることでしょう。
先進医療では、先に認可されたザイモート(ZyMot)が有名ですが、同じ方法でも新しく認可されたデバイスにスイムカウントハーベスター(SwimCount™ Harvester)があります。では、本製品にはどのような特徴があるのでしょう。
本日は、メッドテックパートナーズ(株)創設者の2名の代表取締役とともに、埼玉県大宮市にある「おおのたウィメンズクリニック」を訪ね、院長先生と胚培養士さんにクリニックで実際の使用感などについてお話を伺いました。
生殖医療における精子選別の大切さ
生殖医療の現場では、私たち専門医はじめ胚培養士や看護師も、女性中心に診ることが多いため、卵巣や排卵、卵子への注目が先行し、男性側の精子にはあまり重きを置かずにきた経緯があるかと思います。
もちろん、乏精子症や無精子症などの場合、泌尿器科生殖医療専門医に診ていただくことはあります。ただ、体外受精で通常行われている媒精や顕微授精でできる受精卵に関しては、卵子の要素にスポットをあてた治療や診療スタイルが主でした。
精子側を考えれば、不妊症の原因の半分は男性不妊にあることが周知され、その中には精子の質の問題も含まれています。
例えば、受精した後に胚盤胞まで到達しない、移植をしても着床しない、着床しても流産してしまう場合には、卵子か精子、受精卵に染色体異常がある可能性が考えられます。
もともと卵子にはDNA修復機能があり、異常がある精子と受精した場合でも、胚の修復が起こると考えられています。しかし、それに追いつかないほどの異常があれば上手く受精から胚の成長、着床まで繋がりません。そこで精子の質が大切なのはいうまでもないことです。
最近、精子所見が全体的に悪くなってきている傾向があったり、普通に診療する中でも結果が今までのように伴わなくなったりしている状況もあります。その原因を探るのには、男性不妊の専門医が診ることが一番で、そこから治療可能なことも見えてくるでしょう。
精液中には精子が何千、何億とあり、集団やグループのイメージがありますが、顕微授精では、そこから胚培養士が精子を1つ選び、卵子に注入します。どのような集団であっても、良い精子を選ぶということは、結果を出す上で非常に重要です。
卵子の質の重要性が大事であるように、精子に対しても、まずは私たちにできる安定した選別法や、直接卵に入れる精子をどのように選ぶかが大事なのではないかと思うのです。
その点、マイクロ流体技術を用いた精子選別法は、精液にある精子の集団を最初ににかけて成熟した精子を抽出できるので評価しています。
マイクロ流体技術Swim Count™Harvesterの仕組みと意義
精子調整では、一般的に密度勾配遠心法が利用されます。これは、精液に含まれる運動性の低い精子を取り除き運動性の高い精子を集めるために、精液を遠心分離機にかけ濃縮洗浄する方法です。
その後、クリニックによっては、さらにその中からより運動性の高い精子を集めるために、スイムアップ法を行うこともあります。
一方、マイクロ流体技術を用いた精子選別法は、精子の持つ運動性を利用し、より良い精子を回収します。方法は、正常な精子の頭部がギリギリ通れる大きさの膜が貼られている専用デバイスを使います。これにより、DNAの異常が多いとされる頭部の大きい精子は除外されるとともに、遠心分離機を用いないため、懸念される遠心分離によるダメージも抑えることができ、より良好な成熟精子が抽出される仕組みになっています。この様子は下図にも示すように、胚培養士にとっては簡便で誰でも使いやすいものです。
顕微授精の際は、抽出された精子を胚培養士が形態学的に選択し卵子に注入します。つまり、このデバイスを用いることで、デバイスによる機械的な選択と、胚培養士による人為的な選択の2工程を経ることができるため、より良い精子を選ぶ保障が高まるものと思っています。
この技術は先進医療に認定されているため、保険を利用して治療する時には、最初の体外受精で受精率や胚の成長、胚盤胞到達率や着床しても流産してしまうなどの症例下で使われています。したがって、当院では現在、体外受精2回目以降の方におすすめしています。
また、一般的に行われている密度勾配遠心法での精子調整では、遠心機にかけることでDNA損傷などが懸念されていますから、ダメージを抑えて成熟精子を選ぶという面でもこの方法のほうがより良い精子を選べると考えています。
本当に誰でも使いやすいです。
精子の所見でも、こちらで上手くいく方がけっこういます。
実際の使い方と参考となる臨床成績
前ページの図にもあるように、使い方はとても簡便で、患者さんの精液が準備できたら専用のスポイトでデバイス本体の注入口に注ぎ入れ、精子調整用の培養液をもう一方の注入口から注入後、インキュベータ内で培養し、時間が経過したら抽出します。
当院はこの製品を導入してから間もないため、まだ症例数が少ないのですが、メーカーからの資料データには密度勾配遠心法との比較があり、その有意性が記されています。
胚培養士の声
培養室長の三輪胚培養士も話します。
やはり使いやすさの面では、かなり評価できると感じています。
実際に選別された精子は成熟していると考えられるものが篩にかけられて選別されていることから、次の段階で私たち胚培養士が精子を選ぶときの安心感と合理性に繋がっています。
具体的に、それから得られる胚の個数が増えるとかグレードが高くなるというようなことは、まだ実感はないですが、スイムカウントハーベスターと胚培養士によって選別を重ねることで、先生からも結果として妊娠して出産まで至ったとお聞きすると、なんらかの有意性を実感します。今後、使用した時と使用してない時で、明確な差が出たとしたら、保険診療の技術に含まれることもあるかもしれません。
それよりも私が強く感じたのは、使いはじめた頃のメーカーの対応の良さです。使用を始めた当初は、この製品は海外で製造されている製品のため、輸入時の安全性や安定供給に心配をしていましたが、代表のクラウスさんや、加藤さんが的確に対応してくれ、安定供給されていますし、使い方の説明も非常に丁寧です。
研究データなども迅速にフィードバックしてくださるのも非常にありがたいです。
これからの展望
自由診療での使用はともかく、現在、保険診療での顕微授精時に先進医療として使っています。しかし、良い精子を選択出来得る可能性がある点から、人工授精でも体外受精の媒精時にも使える技術・製品かと考えます。
現状の顕微授精に対しては、不安を感じられている患者さんは少なくありません。さらに遠心分離機で精子を選別する…といった方法をご説明すると、より心配になってしまう患者さんもいらっしゃいます。
ですので、マイクロ流体技術を用いた選別法のように、まずは機械式で選別していくほうが精子の力を測る上でも患者さんにはわかりやすいかと思います。
メーカーから
大野田先生、培養室長の三輪様には、開業時より交流を持たせていただいており、先生方の生殖医療への熱意と真摯な姿勢には、常に敬意を抱いています。
このたび、世界で先行発売された本製品を評価いただき、先進医療Aのデバイス認定へ進めていただいたことは、より良い医療技術を患者様に届けるという強い信念のもとであったと存じております。
スイムカウントハーベスターは、デンマーク企業が開発した製品です。彼らは同じ膜技術を活用し、男性自身が精液を分析し、自然妊娠の可能性を評価する簡易診断キットを欧米で長年提供してきました。
これらは米国FDA・欧州CE認証を取得済みで、スイムカウントハーベスターも確かな知見と実績に基づいて開発されています。本製品が、日本においても新たな生殖補助技術の選択肢となることを願っています。
おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮
大野田 晋 先生

経歴
東京慈恵会医科大学 医学部医学科 卒業
東京慈恵会医科大学附属 柏病院
東京慈恵会医科大学附属病院
国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター
茅ケ崎市立病院 産婦人科
東京慈恵会医科大学付属 第三病院
獨協医科大学埼玉医療センター リプロダクションセンター、産婦人科、遺伝カウンセリングセンター
みなとみらい夢クリニック
おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮 開院 院長
資格
日本専門医機構 認定産婦人科専門医
日本生殖医学会 認定生殖医療専門医