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「元気な赤ちゃんをこの手に抱きたい」
妊娠前遺伝子診断(保因者スクリーニング)はこれから妊娠を望むすべてのカップルにお勧めな検査です。
【オーク住吉産婦人科
オーク梅田レディースクリニック
オーク銀座レディースクリニック
田口 早桐 先生】
妊娠前遺伝子診断(保因者スクリーニング)とは?
どんな場合にお勧め?
最近、「プレコンセプションケア」の必要性が指摘されています。簡単にいうと性や妊娠に関する正しい知識を身につけ、将来にわたる健康管理につなげるというものですが、その一環としてお勧めしたいのが、妊娠前遺伝子診断(保因者スクリーニング)です。
妊娠前遺伝子診断とは遺伝子に関係する疾患を調べる検査です。この検査をすると、将来的にお子さんが発症する可能性のある疾患の有無を調べることができるため、これから妊娠を望むカップルすべての方にお勧めの診断です。なかでも、ご家族や近親者に遺伝性疾患を患った方や、遺伝性疾患が原因で亡くなった近親者がいる場合や、もしくは、あなたかパートナーが遺伝性疾患を患っていたり、発症していないものの変異遺伝子を持っている保因者である可能性が高い場合は強くお勧めします。
親が保因者なら子どもの発症確率は25%、50%の確率で発症するものも
ヒトの遺伝子は2本で1組になっており、子どもは父親と母親から遺伝子を1本ずつ受け継ぎます。仮に父親と母親が二人とも疾患を引き起こす突然変異の変異遺伝子を1本持っていて、子どもが両親からこの変異遺伝子を受け継いだ場合、病気が発症してしまいます。つまり両親は変異遺伝子を1本持っているだけなので発症はしないけれど、2本そろったお子さんは発症してしまう。発症確率は1/4、保因者になる確率にいたっては1/2です。
また、赤緑色覚異常や血友病など、X連鎖劣性遺伝の遺伝性疾患の場合、母親が保因者であれば、父親が変異遺伝子を持っていなくても男の子は1/2の確率で発症し、女の子は1/2の確率で保因者になります。
果たして自分が、もしくはパートナーが保因者なのか正常な遺伝子だけを持っているのかは、外見や通常の検査ではわかりません。直接遺伝子を調べることで初めて判明するのです。
決して他人事ではない、遺伝子変異は誰もが持っている。
妊娠前遺伝子診断では、2000種類にも及ぶ遺伝子について検査します。これにより、遺伝性疾患の原因となる変異をかなりカバーすることができるので、検査した本人が遺伝性疾患の保因者であるかどうか、また、お子さんが遺伝性疾患を発症する可能性があるかどうかを調べることができます。
このスクリーニングでわかる具体的な病名をあげると、筋ジストロフィー、難聴、網膜色素変性症など、それから酵素が足りなくなる病気もたくさんあります。
実際当院での保因者スクリーニングの結果を見ても、誰もが2〜6個の変異を持っています。
この数字を見ると、遺伝性疾患の保因者が決して特別でなく、身近なものだとわかります。このような高い確率を踏まえ、米国産科婦人科学会では妊娠を望むすべてのカップルにこの検査を受けることを推奨しています。
こどもに疾患の可能性ありとわかったらどうする?
日本では現在、赤ちゃんが生まれるとかかとから採血をして病気を持っていないかを調べる「新生児マススクリーニング検査」を行います。この検査で病気が見つかった場合、実は親が疾患の保因者だったというケースが多いので、妊娠前にわかる妊娠前遺伝子診断をすることであらかじめ備えることができます。
一口に遺伝子疾患といっても、命にかかわるような重篤なものから、早めの処置や服薬などで改善されるものもあります。
たとえば、先天性代謝異常のように、出生後すぐに治療を始めることで正常な発達が期待できる遺伝性疾患もあります。
仮に重篤な疾患になりうると判明した場合、お子さんを持つこと自体を躊躇される方もいるかもしれませんが、PGT-Mという選択肢もあります。
PGT-Mは体外受精でできた受精卵(胚)がある程度分割成長したところで一部の割球(細胞)を取り出して染色体や遺伝子の異常の有無を調べ、正常な胚を移植するものです。
対象となる疾患や実施できるクリニックは限られますが、筋ジストロフィー(一部)や血友病、軟骨無形成症などが対象になっています。
検査方法、費用、デメリットも要チェック
検査方法は血液検査もしくは口腔粘膜を採取して行います。結果がわかるまでに約1か月半ほどかかります。
費用はおふたりで17万円くらい、お一人の場合は12万円くらいです。将来に備えてとお一人で受ける方もいらっしゃいます。
ただし、妊娠前遺伝子診断でお子さんに遺伝性疾患の可能性はないとわかった場合でも100%発症しないということではありません。新生変異というものがあり、子どもの代で遺伝子や染色体が変化することがあります。
たとえ検査をしても、このような突然変異は防げないことも覚えておいてください。
オーク住吉産婦人科
田口 早桐 先生

経歴
川崎医科大学卒業、兵庫医科大学大学院卒。専門は「抗精子抗体による不妊」。
学位論文はIdentification and Characterization of a sperm Peptide Antigen Recognized By a Monoclonal Antisperm Autoantibody Derived from a Vasectomized Mouse.(掲載誌 Biochemical and Biophysical Research Communications.)
府中病院を経て、医療法人オーク会勤務。
体外受精に関して、排卵誘発法を含めた治療戦略をしっかり立てることが大事との信念で、個人個人の状態に合わせた方針を決めることに力を注ぐ。
資格
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
母体保護法指定医
臨床遺伝専門医制度委員会臨床遺伝専門医
日本再生医療学会会員