不妊治療の先生に聞いてみた

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PRP療法で妊娠の可能性を高める
難治性不妊症や子宮内膜が厚くならないカップルへの希望に
【つばきウイメンズクリニック 鍋田 基生 先生】

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体外受精で妊娠に臨むカップルは、「これで私たちにも赤ちゃんが授かる!」と考えていることでしょう。それもそのはず、日本では2021年の時点で、年間に生まれる赤ちゃんの11人に1人が体外受精によるというデータがあるのです。

しかし、体外受精をもってしても、なかなか妊娠が叶わないカップルもいます。その要因として、子宮内膜が厚くならないことや、要因がよくわからないけれど、何度と胚移植をしても着床しないケースがあります。

「胚のグレードは良いのに着床しない」 それが何度も続けば、期待と絶望のギャップに心も体も疲れてしまい「もう、赤ちゃんを諦めるしかないの?」と思うことがあるかもしれません。でも、つばきウイメンズクリニックの鍋田基生先生は「諦めないで欲しい」と話します。

これだ! これなら、きっと赤ちゃんが授かる!

これからお話する患者さんに、鍋田先生が初めて出会ったのは、前職の愛媛大学医学部附属病院にいる時のことでした。

この方は子宮頚がんを患い、手術を受けていました。浸潤癌のため本来なら子宮全摘出を考えるケースでしたが、周りに広がっていないため子宮を温存することができた方でした。ただし広汎子宮頚部摘出術により、患部である子宮頚管は広範囲に摘出されていました。これは、癌のある子宮頚部とその周辺を切除して、子宮体部と腟をつなげるという手術です。本来、子宮には子宮動脈から血液が豊富に運ばれてくるのですが、この方の場合は、手術の影響で子宮動脈からの血流がほぼありませんでした。

卵巣からも子宮へ血液が運ばれてきますが、子宮動脈には及びません。子宮への血流の本流が子宮動脈なら、卵巣からの血流は小川のせせらぎ程度です。

そのため子宮内膜が育たず、なかなか着床に適した厚さになりません。子宮内膜を育てるための薬を用いても、その効果を届けるのには、やはり十分な血流が必要です。

血流が悪いと子宮内膜が育ちにくくなる

一方、卵巣には問題もなく、卵子を採取することもでき、グレードの良い胚も育つのですが、子宮内膜の問題からか、何度胚移植をしても着床しませんでした。

この方が、つばきウイメンズクリニック開院後に転院されてきたのです。それから凍結融解胚移植を繰り返しましたが、着床しません。

何をしても子宮内膜が厚くならないのです。

患者さんも私も諦めたくありませんでしたから、「なんとかして!」「何か方法はないか?」と考える中、山王病院の堤治先生からPRP療法(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿療法)の話を聞きました。

その時にパッと患者さんの顔が浮かび、「これだ! これなら、きっと赤ちゃんが授かる!」と、高揚したのを今でも覚えています。

やってみよう! PRP療法への期待と可能性

PRP子宮注入法は、患者さん自身の血液中に含まれる血小板を抽出して子宮へ注入し、さまざまな成長因子を利用して、子宮内膜の厚さや着床する力を高めることが期待できる治療です。PRP療法については、胚培養士や看護師などのスタッフも知識が必要ですから、堤先生を招いて院内で勉強会を行いました。

そして患者さんに提案すると、「やってみよう!」ということになり、すぐに準備をはじめました。

とはいえ、血液を含め、細胞加工物を用いる治療にあたるPRP療法は再生医療法の治療ですから、実施には厚生労働省の認可が必要でした。そのため認可が降りて治療が実施できるまでの間、患者さんには治療を待っていただかなくてはなりませんでした。

実際につばきウイメンズクリニックでPRP療法をはじめたのは2019年11月、認可までに実に半年を要してしまいました。

妊娠した!その喜びと1つの発見

認可後、初めてのPRP療法の実施は、もちろん半年もの間待っていたこの患者さんでした。

ホルモン補充周期で、凍結融解胚移植を行い、その周期に2回(移植周期の月経10日目と12日目)、患者さんの血液からPRPを抽出して子宮へ注入し、胚盤胞1個を移植しました。胚のグレードは良く、その周期に血中hCGが陽性となり、その後、胎嚢も確認できました。

患者さんの明るい表情と喜びの声に、私もとても嬉しく思いました。

PRP療法からみえたこと

初めて行ったPRP療法で着床し、その後に胎嚢も確認でき、臨床妊娠になりましたが、残念なことに流産となってしまいました。

この患者さんの場合、術後の影響から子宮内膜が厚くなりません。これまでも子宮内膜が5~6mm程度で凍結融解胚移植を繰り返してきましたが、実はPRP療法後の子宮内膜の厚さも5.4‌mmと、さほど厚くなっていませんでした。

それでも「これにかけてみよう!」という思いと、PRP療法の効果への期待が、患者さんにも私にも強くありました。

導入当時は、子宮内膜が厚くなるということで知られていたPRP療法ですが、今では子宮内膜が厚くならないケース以外での反復不成功例への効果も期待できることが知られ、そのような内容の論文が数々報告されています。私の場合、これが初回のPRP療法の治療結果で、そこから効果の可能性を考えることとなりました。

そして、PRPの効果として、個人差はあるものの半年くらいは持続するのではないかといわれていましたが、その後、新型コロナウイルスの蔓延から、その患者さんだけでなく、多くの患者さんが一時治療をお休みすることになりました。

約2割の患者さんがPRP療法の対象

つばきウイメンズクリニックは、2015年に開院しています。これまで体外受精によって妊娠された方は約3000人いますが、その約45%は初回の体外受精ー胚移植で妊娠しています。

累積妊娠率は、妊娠された方のうち、2回目までに約70%、3回目までに約86%になります。

2回目の胚移植で妊娠しなかった場合は、着床環境を良くするための治療や着床障害に関する検査などを十分に行って、3回目の胚移植に臨みます。

たとえば、ホルモン療法や血行を良くするためにLーアルギニンなどのサプリメントを用いる、または着床の窓の検査、子宮内フローラや慢性子宮内膜炎の検査や治療、そのほか免疫異常による着床障害の検査や治療などです。それらが功を奏して3回目の胚移植で妊娠され、累積妊娠率は約86%となります。

体外受精の累計妊娠率

これら子宮内膜や着床環境に関する検査や治療を施し尽くして、それでも妊娠しない患者さんが「PRP療法をやってみようか、どうしようか」と選択を迷います。

PRP療法のご案内は、2回目の胚移植後に他の検査や治療とともにしますが、子宮内膜が厚くならない患者さんには、それよりも早めにご案内することもあります。

ただ、医療費が高いこともあり、他の検査や治療を選択し、それでも妊娠しない場合にPRP療法を選択するケースが多いです。

PRP療法を全員が選択するわけではありません。その理由は、後ほどお話します。

PRP療法の成績

2019年11月からPRP療法を開始し、これまでに行ったのは88周期で、そのうち22%の方が妊娠反応が陽性になり、12・5%の方の胎嚢が確認できています。

「もう諦めるしかない? でも、諦めたくない」との思いを抱える患者さんに新しい命が授かる可能性が広がるのです。そのまま体外受精ー胚移植を続けていても、妊娠が望めなかったかもしれない患者さんですから、とても意義のある、大切な治療法だと考えています。

PRP療法への期待

PRP療法は、誰にでも必要な治療ではありません。しかし、PRP療法によって赤ちゃんを授かることができるカップルもいます。

今ではPRP療法を行う治療施設も増えていますが、必要なカップルにとってアクセスしやすい治療とまではいえません。つばきウイメンズクリニックでは、不妊治療にPRP療法が導入された当初の頃から実施していますが、四国地方で受けられる治療施設は限られています。

このように子宮内膜が厚くならないことから胚移植に至らない方、また何度も胚移植をしているのに着床しない方がPRP療法を受けたくても、なかなか思うようにはいかない環境があるのです。

ところが、子宮内膜が厚くならない方や何度胚移植をしても着床しない方の中には、先進医療を含む他の治療が適さないために胚移植を繰り返しても妊娠が大変難しく、その間に年齢も重ねてしまい、ますます妊娠が難しくなることも考えられますので、通院されている治療施設でPRP療法が実施されていない場合でも、まずかかりつけ医または当院まで相談してきてください。

私たちのつばきウイメンズクリニックには産科もあり、体外受精から妊婦健診、そして出産までお付き合いするカップルもいます。

また、地域に連携してあらゆるケースの患者さんをケアできるよう、私たちもさらに努めていきたいと思っています。

元気な赤ちゃんが生まれてこその体外受精です。ですから、体外受精が保険適用になり治療が受けやすくなったように、なかなか妊娠が難しいカップルが、もう少し体外受精を受けやすい環境になり、赤ちゃんが授かることを願っています。

初のPRP療法を受けた患者さんのその後‥‥

さて、話を少し戻しましょう。

つばきウイメンズクリニックで初めてPRP療法を受けた患者さんは、1回目のPRP療法ー凍結融解胚移植では残念ながら流産になってしまいました。

その後、新型コロナの蔓延もあり、治療再開に多くの時間がかかりましたが、妊娠は成立した初回の経緯などから、再度、凍結融解胚移植周期でのPRP療法を希望され、その実施周期でめでたく妊娠が成立し、無事に女の子が生まれ、もう2歳になります。

さらに嬉しいことに、2人目を希望されて通院を再開しています。

がん治療からの体外受精ということで特殊なケースと考えがちですが、子宮内膜が厚くならない、厚くならないけれど妊娠が期待できる良い症例だと思います。

私は、赤ちゃんを授かりたいと願う患者さんの思いを諦めたくありません。みなさんも、ぜひ、参考にしていただいて、より良い治療を受け、可愛い赤ちゃんをその腕に抱いて欲しいと願っています。

また、患者さんがより良い治療を選択しやすい、受けやすい環境になるようにと願ってやみません。

つばきウイメンズクリニック
鍋田 基生 先生

経歴

  • 2001年
  • 久留米大学医学部医学科卒業
  •  
  • 愛媛大学医学部産科婦人科学入局
  • 2004年
  • 市立八幡浜総合病院産婦人科
  • 2010年
  • 愛媛大学大学院医学系研究科 博士課程修了
  •  
  • 愛媛大学医学部附属病院 講師 生殖医療部門主任
  • 2011年
  • 愛媛大学医学部附属病院 産婦人科副病棟医長
  • 2013年
  • 愛媛大学医学部附属病院 産婦人科外来医長
  • 2014年
  • 愛媛大学医学部学部内非常勤講師
  • 2015年
  • 医療法人ヒューマンリプロダクション  つばきウイメンズクリニック 理事長・院長
  • 2018年
  • 松山地方裁判所・松山簡易裁判所  民事調停委員
  • 2019年
  • 兵庫医科大学医学部産婦人科 非常勤講師
  • 2024年
  • 福岡大学医学部産科婦人科学講座  臨床教授
                       

資格

日本産科婦人科学会 認定産婦人科専門医
日本生殖医学会 認定生殖医療専門医

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