公開日
「あきらめない」ためのPRP療法という選択肢
【蔵本ウイメンズクリニック 蔵本 武志 先生】

博多駅の筑紫口から徒歩4分。蔵本ウイメンズクリニックは、2027年春の竣工を目指して、増築と改築が進められています。現地で診療を開始したのは23年前、蔵本ウイメンズクリニックは、2026年で開院31年になります。
福岡市博多を玄関口に、近隣だけでなく九州全域や、福岡空港とのアクセスの良さから、全国津々浦々から赤ちゃんを授かりたいと願うカップルのために、長年にわたって診療を行ってきました。
この間に、生殖医療は飛躍的に発展をし、その発展とともに蔵本先生は歩んできました。新しい治療法が開発され、なかにはスタンダードになるものもあれば、エビデンスが曖昧で限定的なものなどもあり、流行っては廃れていく治療法もありました。
今回は、子宮内膜が厚くならない方、卵胞が育たなくなった方への治療法として「PRP療法への期待」とともに、「抱える難しさ」を率直にお話しいただきました。
そもそもPRP療法とは何か
PRP(多血小板血漿注入療法)とは、自分自身の血液から血小板を高濃度に抽出したもので、本来の血液の2~7倍の血小板が含まれています。
血小板には組織の修復や細胞の増殖を促す成長因子が豊富に含まれ、傷ついたものを再生させる力が期待されています。整形外科やスポーツ医療などでは以前から再生医療として用いられてきました。
生殖医療現場では、その応用が子宮や卵巣にも広がっています。PRPは自分自身の血液から作られるため、大きなリスクは少ないとされています。

妊娠を諦めないための治療
PRP導入のきっかけ
私たち蔵本ウイメンズクリニックでは、子宮PRPは2020年から、卵巣PRPは2025年から治療をスタートしました。
いい卵子を得るための卵巣刺激や培養環境の改善、子宮内の炎症や細菌叢の正常化など、やれることはすべてやっても、妊娠につながらないカップルもいます。
そうしたカップルが諦めることなく、お子さんを授かるための方法としてPRP療法に目を向けたことがきっかけでした。
子宮内膜へのアプローチ
「厚さ」と「質」
子宮PRPが対象になるのは、良好胚を何度移植しても着床しない、あるいは内膜がどうしても十分な厚さにならない方です。
興味深いのは、内膜の厚さ自体はそれほど変わらないケースでも、妊娠に至る例が見られることです。
これに対しては、厚みの数値だけでは測れない、内膜の「質」に働きかけている可能性があると考えています。
私たちのクリニックのデータでは、子宮PRP後に胚移植に至った症例のうち、約75%で妊娠反応(hCG陽性)が確認されています。
そのなかには、内膜が薄いまま出産した例もあり、厚さだけがすべてではないと実感しています。

卵巣へのアプローチ
スタートラインへ立つために
卵巣PRPは、卵胞がほとんど育たない、AMH値が極めて低いなどで、なかなか卵子が得られない方が対象になります。
体外受精では、卵子が得られなければ治療を先に進めることができません。なかには、卵子提供や養子縁組の話をされ、藁をもすがる気持ちで転院してくる方もいます。
25回以上採卵を繰り返し、やっと採れても変性卵で、辛い日々を送ってきた方もいます。
私たちは、そうした方たちの卵巣へのアプローチを行っています。
ひとつ印象に残っている症例があります。
30歳のときに早発卵巣不全と診断され、他院で14回採卵を試みても有効な卵子が得られなかった方に、当院で卵巣へのアプローチを行いました。
注入から1カ月で卵胞が2つ育ち、採卵、受精、移植を経て、出産されました。正直、私たちも驚きました。
PRPは、妊娠へのプロセスのひとつ
こうした結果がみられる一方で、PRP療法の効果を科学的に証明することは、簡単ではありません。PRPに含まれた成長因子は、子宮内膜や卵巣、卵胞に働きかける治療ですが、妊娠が成立するには、卵子や胚の質、子宮環境など、さまざまな要因が関係しています。たとえば胚の質については、子宮PRPを行った周期と行わなかった周期では、移植される胚自体が異なります。
PGTーA(着床前胚染色体異数性検査)を行い、染色体の数に問題のない胚を移植するという条件をそろえたうえであれば比較も可能ですが、現時点では十分に条件がそろわないため、その効果を切り分けて証明することができません。
卵巣へのアプローチについても同様で、もともと採卵できる卵子が1~2個というケースが多く、その胚に対してPGTーAを行うことも現実的ではありません。
PRP療法が不妊治療の現場で広がるうえでの課題
PRP療法は、将来的な先進医療としての可能性が議論されることもありますが、実際には実施にあたって再生医療等安全性確保法に基づく厳格な施設認可と設備基準が必要となります。
そのため、どの医療機関でも行える治療ではなく、限られた施設でのみ実施が可能です。
このように実施施設が限定されることもあり、他の先進医療と比べても標準化や広範な導入が難しく、制度上のハードルが高い側面があります。
そのことも、現時点で先進医療として整理されにくい理由のひとつになっています。

エビデンスを積み重ねるために
現在、PRP療法は自由診療です。自分の血液から作られるため安全性は高い治療ですが、効果には個人差があります。血小板や成長因子の量にも個人差があり、その違いが結果に影響している可能性があります。ただし、それらを詳しく測定しても「この数値なら効果がある」といった明確な基準はまだ確立されておらず、臨床での判断は簡単ではありません。
治療効果を科学的に示すためには、同じ条件・同じ方法で複数の施設がデータを蓄積し、専門家による検証を経て論文としてまとめる必要があります。単一の研究だけでは判断は難しく、複数の研究結果が積み重なって初めて信頼性が高まります。さらにその評価は国内だけでなく、医療先進国とされる各国での研究や国際的な論文も含めて総合的に検討されます。
しかし実際には、施設ごとに治療方法や対象となる患者の状態が異なるため、同じ条件で比較することが難しく、研究として整理しにくいという現状があります。また再生医療に分類される治療であるため、実施には厳格な基準と施設認定が必要で、行える施設も限られています。
こうした背景により、エビデンスを積み重ねていくには時間がかかります。それでも、より多くの方が治療の選択肢として検討できるようにするためには、症例の蓄積と研究の継続が必要だと考えられています。
それでも、選択肢として考えてほしい理由
PRP療法は、妊娠を望むすべてのカップルに必要な治療ではありません。
しかし、できる治療はすべて行ってきた結果、それでも採卵や着床に課題が残っている方、あるいは他に有効な選択肢が限られている方にとっては、可能性を広げる助けになることがあります。
費用は自費となり、実施できる施設も限られます。まだ発展途上の治療ですが、前に進みたい方のために、私たちはこの治療と向き合い続けます。
蔵本ウイメンズクリニック
蔵本 武志 先生
経歴
山口大学大学院修了 学位授与(医学博士)
資格
日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
母体保護法指定医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医
日本産科婦人科内視鏡学会評議員
日本受精着床学会評議員

























