不妊治療の先生に聞いてみた

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PRP治療がつなぐ妊娠への一歩
難治性着床障害に悩むカップルへ
【天の川レディースクリニック 理事長 中村 公彦 先生】

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天の川レディースクリニックかたの院は、京阪交野線・交野市駅から徒歩約3分の利便性の高い不妊治療専門施設です。また、京阪枚方市駅に直結するひらかたサンプラザにはひらかた院があり、アクセス面でも通いやすい環境です。自然妊娠の可能性を重視しつつ、必要に応じて腹腔鏡・子宮鏡手術などに対応。さらに、血液データに基づく栄養解析やサプリメントの提案も行い、「妊娠」だけでなく健やかな「出産・育児」まで見据えた一貫した治療計画を提供しています。

体外受精における胚移植は、「今度こそ赤ちゃんに会えるかもしれない」という希望を胸に臨む瞬間です。
けれども、判定が陰性だったり、妊娠しても流産につながってしまったりすると、心も体も少しずつ疲れてしまいます。
何度も挑戦しているのに結果が出ない「反復着床不全(RIF)」。
その壁を越えるための選択肢として、近年注目されているのが「PRP子宮注入法」です。自己の血小板を活用する「PRP治療」は、形成外科や美容医療、歯科などの分野ではすでに広がりを見せていますが、不妊治療の領域ではまだ一般的とはいえません。
安全性や有効性の検証、患者さんの経済的な負担が重くなるなどの課題もある中で、今後どのように広がっていくのでしょうか。
今回は、PRP子宮注入法の効果や有用性、治療の可能性について、天の川レディースクリニックの中村公彦先生にお話を伺いました。

私たちがPRP子宮注入法をはじめた理由

天の川レディースクリニックでPRP子宮注入法を導入してから、5年が経ちました。これまで多くの反復着床不全(RIF)のカップルに治療を行い、さまざまなケースに向き合ってきました。胚移植を繰り返しても着床に至らない場合、その要因の多くは胚にあると考えられます。たとえば、染色体の数的異常です。
ただし、原因がすべて胚側にあるわけではありません。子宮内膜の厚さや環境、着床の窓など、子宮側の要因が関係しているケースもあります。これら要因に対応する治療で、妊娠に至るケースも少なくありません。
しかし、こうした治療を行い、なおかつ質の良い胚盤胞を移植しても妊娠に至らない難治性着床障害のカップルもいます。
体外受精を受けるなかでも、難治性着床障害に該当するのはごく一部ですが、その一握りの方々にとってPRP子宮注入法は有効な治療だと考えています。当初は子宮内膜を厚くする効果が期待されていましたが、私たちは「厚さ」だけでなく、着床環境を整える効果にも注目しています。

PRP子宮注入法の成果

天の川レディースクリニックでは、RIFの患者さんを対象に2020年からPRP子宮注入法による胚移植をはじめ、2024年までにちょうど100周期を実施しました。
対象となっているのは胚移植回数が約4回のカップルです。つまり4回、胚移植を行っても着床しない、妊娠成立しなかったカップルを対象に、平均で約51%の妊娠率という結果が得られています。これまで移植を繰り返しても妊娠しなかったカップルばかりで、PRP子宮注入法による胚移植を行わなければ、次の胚移植でも妊娠しなかったかもしれません。これまで、ほぼゼロに近かった妊娠の可能性を希望につなげることができる治療法として、手応えを感じています。

PRP子宮注入法が示す新しい可能性

私たち、天の川レディースクリニックの体外受精における妊娠率は、どの年齢でも全国の平均に比べて高い結果を出しています。35歳未満は約60%、35歳以上は50%以上、40歳以上も35%以上です。
2022年以降は、体外受精が保険適用となり、一定の枠組みの中での治療をしなければなりませんが、そのなかでも個々に合わせた治療を行うことで、体外受精の妊娠率を維持することができています。
RIFの患者さんについては、保険適用前も後も、妊娠が難しいことに変わりはありません。さまざまな工夫、また先進医療を併用することなどで妊娠ができる人もいます。そのため、実際にPRP子宮注入法を受けるカップルは多くはありませんが、この治療によって希望を持って治療が受けられると考えています。
それが、PRP子宮注入法による妊娠率に現れているのでしょう。
ただ、PRPがどのように作用しているのか、子宮内膜にどのような変化をもたらしているのかを知ることは難しいです。これには、さらに多くの研究と発表が待たれるところです。
PRPに含まれる成長因子は、子宮内膜に働きかける直接的な作用と、そこから起こる内膜の変化が胚を受け入れるためのシグナルになって、胚と子宮内膜のクロストークを再構築するという間接的な作用もあるのではないかと考えています。クロストークとは、胚と子宮内膜が互いにシグナルを送り合い、着床を促すプロセスを指します。
実際、PRP子宮注入法によって子宮内膜が厚くならないケースにも妊娠例があります。また子宮内膜が厚くなったケースでも劇的な変化があるわけではありません。PRP子宮注入法は、子宮内膜の環境を整え、胚を受け入れやすくすることが期待されます。内膜が厚くならなくても妊娠に至るケースがあるのは、直接的、間接的に子宮環境を改善する効果と考えられます。

PRP効果はどのくらい続くのか

PRP子宮注入法は、胚移植周期の10日目と12日目、または11日目と13日目の2回行っています。
基本的には、注入した周期に作用し、効果があると考えていますが、注入した周期以降の胚移植での妊娠例もあります。症例数は多くありませんが、約20%が妊娠しています。
子宮内膜は、月経時には剥がれ落ち体外へ排出されますので、胚移植周期に注入したPRPの効果が持続してのことなのかは判断が難しいと考えています。
個人差もあるとは思いますが、次に胚移植を行う時には、再度、PRP子宮注入法を検討されるカップルも少なくありません。

PRP子宮注入法とPGT-A

先ほども紹介したように、PRP子宮注入法によって、これまで妊娠できなかったカップルの約51%が妊娠しています。しかし、このうちの約30%が流産し、出産へはつながっていません。
PRPにより子宮環境が改善されても、胚に問題があれば、残念ながら流産が起こる可能性が高くなります。流産を防ぐためには、PGTーA(着床前胚染色体異数性検査)の併用を検討することも大切です。
PGTーAは、胚盤胞の栄養外胚葉(TE:将来胎盤になる細胞)から5~10個程度を採取して、染色体の数を調べ、染色体数に問題のない胚を移植することで妊娠を目指します。
ヒトの染色体は46本ですが、なかには45本や47本など、多かったり少なかったりする胚があります。こうした問題のある胚のほとんどは着床しても流産になったりするため、流産を防ぐためにPGTーAによる胚移植が行われています。
これまでの複数回、胚移植を行っても着床、妊娠しなかったカップル、複数回の流産や死産を経験したカップルのうち、いずれも妻の年齢が35歳以上が対象となります。
PRP子宮注入法を行っても流産になるカップルは、PGTーAを併用することで、流産を防ぐことが期待できるでしょう。

広がってほしい!
PRP治療の選択肢

PRP子宮注入法は保険適用外の自由診療となるため、保険を使うことができません。治療費の全額を患者さんカップルが負担しなければならず、経済的な負担は大きくなります。そのため、治療をためらうカップルも少なくありません。
保険が適用になり、不妊治療の医療費は安くなりましたが、PRP子宮注入法など保険が適用されない治療が必要な難治性着床障害のカップルにとっては、特定不妊治療助成事業があった頃に比べると医療費負担が増大しました。これに、PGTーAを併用するとなったら、さらに負担が重くなります。
このような経済的な理由から、PRP子宮注入法を受けることをためらってしまうのでしょう。
もう少しPRP子宮注入法にかかる医療費が抑えられるようになれば、患者さんにも勧めやすくなり、今よりも短い治療期間で赤ちゃんが授かるのではないかと思い、期待しています。

PRP卵巣注入法について

PRP卵巣注入法については、早発閉経などで卵胞発育が極めて難しい症例に対して、無細胞化PRP(血小板の中に含まれる成長因子だけを取り出したもの)を用いています。
早発閉経の場合、卵胞が発育してくる周期がまばらになっていることが多いので、周期ごと丁寧に卵巣を見ていく必要があります。
委縮して硬さが増している卵巣に注入するのは難しく、本当にPRPが注入できているのかを確認することができません。そのため、私たちは卵胞が育ってきた周期の卵胞へ注入し、次周期以降の卵胞発育に期待しています。この治療については、日本IVF学会雑誌(2024年9月)に私たちも論文を発表しています。海外ではすでに卵巣PRPに関する報告が多数ありますが、今後は国内からの発表も増えていくことを期待しています。

さいごに

PRP子宮注入法は、まだ研究が必要な側面もありますが、反復着床不全に悩むカップルにとって有効な治療法の1つであると考えています。
私たちは、1組でも多くのカップルに赤ちゃんを授かっていただけるよう、これからも日々取り組みを続けていきます。
クリニック1階には、患者さん専用のカフェ Cafe Via Lattea があります。診察のあとにホッと一息つける空間で、心も体も少し和らげていただければ幸いです。

天の川レディースクリニック 理事長
中村 公彦 先生

略歴

昭和62年 島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
平成6年 京都大学医学部医学博士 取得

資格

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
日本生殖医学会 生殖医療専門医
母体保護法指定医

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