不妊治療の先生に聞いてみた

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海外では広がっている遺伝子パネル検査
遺伝子レベルで不妊症をチェックする検査です。
【オーク住吉産婦人科
 オーク梅田レディースクリニック
 オーク銀座レディースクリニック
 田口 早桐 先生】

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妊娠、不妊に関係のある遺伝子をまとめて調べる検査

当院では不妊症の原因となる遺伝的要因を調べるための遺伝子パネル検査を実施しています。
遺伝子パネル検査とは、特定の症状や状態に関連する遺伝子に変異がないかどうかを調べる検査です。1個の遺伝子だけを調べるのではなく、ガンだったらガンに関連する複数の遺伝子が「ガンパネル」としてセットされており、一括で調べることができます。

検査に用いられる遺伝子の数は多いもので2000、少ないと500程度で、その症状に関連する頻度の高いものが入っています。

不妊症については男女別に分かれており、女性の場合、55個の遺伝子および性染色体の全体が検査対象になっていて、原発性卵巣機能不全(POF)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(カルマン症候群など)をチェックできます。

男性不妊については40個の遺伝子とX染色体、Y染色体の異数性(Y染色体微小欠失を含む)が検査対象で、カルマン症候群といった低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の有無を調べることができます。

遺伝子の変異が見つかったら必ず治療が必要というものではない

不妊についての遺伝子パネル検査は日本ではまだほとんど知られていませんが、海外では一般的になっています。
当院は欧州生殖医学会(エシュレ)の男性不妊パネルの発表を聞き、いち早く導入を決めました。また、米国生殖医学会では無精子症の男性に対してY染色体検査の実施を推奨するなど、海外では不妊に関連する遺伝子検査が広がっています。

ただし、検査で遺伝子の変異が見つかったからといって100%症状が出るわけではありません。というのも症状の幅が広いので、調べた遺伝子のひとつに変異が見つかったとしても必ずしも対処や治療が必要でない場合もあるからです。現時点でこの遺伝子に変異があったらこういう症状が出るというように、すべて解明されているわけではありません。遺伝子同士が影響しあって特定の症状が出るなど、決して単純な世界ではないからです。

ただし、将来を見据えてご自分がどんな症状を発症する可能性があるのかを前もって知ることのできる遺伝子パネル検査は大きな意味を持っていると言えるでしょう。

卵子凍結や精子凍結で将来の機能不全に備える

たとえば仮に卵巣機能不全に関連する変異遺伝子が見つかった場合、早発閉経を引き起こす可能性があります。よく35歳を過ぎると妊娠率が下がると言われますが、早発閉経の場合はもっと早くに妊娠しにくくなることもあります。
ですから遺伝子パネル検査をして卵巣機能不全がわかったら、万一に備えて卵子凍結をして卵を保管しておくのが有効な対処法です。

早発閉経は決して珍しいものではなく、結構な頻度であるので、将来的に子どもがほしいと思っているなら前もって調べておく意味はあるでしょう。

実際になかなか妊娠しないとなってから来院してAMHの値を測定して早発閉経がわかった場合とはその後の治療法はまったく異なるからです。すでに早発閉経の状態になっている場合には、まずもって卵を採るのが困難です。自然排卵の可能性は低いですし、薬を使ったとしても卵が育つとは限りません。いつ訪れるともわからない採卵の機会を待つしかない状況になってしまうのです。

こういう点で、万一に備えることのできる遺伝子パネル検査は大きな安心につながるでしょう。
男性不妊パネルで遺伝子の変異がわかった場合も同様です。卵子凍結と同じように、精子を凍結しておく対処法があります。以前は精子凍結は融解がうまくいかないと言われたりしましたが、現在は問題なく戻せます。若くて健康なうちに精子を採取し凍結保存しておけば、いざというときに利用することができるわけです。

プレコンセプションケアを受けたいと来院する男性が増加

最近は東京都でプレコンセプションケアの費用を助成する制度がありますが、その影響か女性だけでなく男性もプレコンセプションを受ける方が増えています。

少し前までは男性がひとりで不妊治療クリニックに足を向けるなんて考えられませんでしたが、今は普通に来院されます。男性の意識が変わっているのでしょうね。時代の変化を感じます。

遺伝子検査というと難しい検査のように感じられるかもしれませんが、血液検査か経口スワブ検査でできます。ただし、検査結果が出るまでに少し時間がかかります。費用は女性不妊症パネル、男性不妊症パネルいずれも ¥125,710(税別)です。

遺伝子検査ですから、将来的に子どもを持ちたい思ったときのために備える検査ともいえます。仮に自分が子どもを持てるかどうか不安がある、身内に気になる遺伝性疾患があり妊娠に不安があるといった場合に、遺伝子レベルでチェックできる方法といえます。

日本国内ではまだスタートしたばかりで今はまだよく知られていませんが、今後、海外のように広がっていく可能性はあります。興味のある方はお問合せください。

オーク住吉産婦人科
田口 早桐 先生

経歴

川崎医科大学卒業、兵庫医科大学大学院卒。専門は「抗精子抗体による不妊」。
学位論文はIdentification and Characterization of a sperm Peptide Antigen Recognized By a Monoclonal Antisperm Autoantibody Derived from a Vasectomized Mouse.(掲載誌 Biochemical and Biophysical Research Communications.)
府中病院を経て、医療法人オーク会勤務。
体外受精に関して、排卵誘発法を含めた治療戦略をしっかり立てることが大事との信念で、個人個人の状態に合わせた方針を決めることに力を注ぐ。

資格

日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
母体保護法指定医
臨床遺伝専門医制度委員会臨床遺伝専門医
日本再生医療学会会員

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