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保険診療でも勉強は欠かせない
「自分事として治療に臨むこと」が大切
【とくおかレディースクリニック 徳岡 晋 先生】

「1日でも早い妊娠を!」をクリニックの指針に掲げ、日々診療に当たっています。そのために、検査から治療までをしっかり丁寧に診て、初診から一年以内には卒院できるよう治療計画を立てます。そこで大事なのは、患者さまのご希望を尊重しつつ、個々の症状や状況に応じた治療をいかに組立て、提案していくかです。2人目をご希望されての来院も多いです。毎月、体外受精の勉強会も開催していますので、ぜひこ参加ください。
保険診療によって30代前半での体外受精が増加
2022年に保険診療がスタートして以降、今まで不妊治療や体外受精をしてこなかった30代前半の若い世代が体外受精をするようになってきました。
2023年に体外受精で生まれたお子さんは約8.5万人で過去最多を更新しました。この増加は2022年に保険診療がスタートしたことが大きく影響していると考えられます。出生児の12%くらい(約8人に1人)が体外受精で生まれたという計算になります。体外受精が始まった当初は40人くらいのクラスで1人が体外受精で生まれた子どもと言われていましたが、現在はクラス内の複数のお子さんが体外受精で生まれているという割合になっています。
30代前半の多くは1~2回目の胚移植で妊娠
保険診療のスタートは患者さまにとって画期的な変化でしたが、保険でできることは限られています。また保険で胚移植できるのは6回まで、40歳以上では3回までと年齢制限があります。この中でいかに妊娠を目指すかなのですが、年齢が若い方、30代前半から半ばくらいの方の多くはだいたい1回目、2回目の胚移植で妊娠されます。
当院では初診の際に、お子さんを何人希望されているのかといった今後のライフプランについてうかがいます。20代、30代であれば「2~3人はほしい」という方が多いのですが、40歳を目前に控えていれば「まずは1人授かりたい」という感じです。いずれにせよ、のんびり構えてはいられませんから、早めに治療計画を立てて治療に進むことになります。
30代前半~半ばくらいの年齢に限ってみると、当院では中等度の卵巣刺激をするので10~15個くらいの卵が採れます。そのうち5~8個が胚盤胞まで分割、移植へと進む形だと1回目、そこで結果が出なくても2回目で妊娠するケースが多いです。このように妊娠される方は一般的な治療過程で妊娠し、早期に卒業していかれます。
自己注射が普及通院回数は少なく
とはいえ保険診療が始まった当初は苦心することもありました。保険下でのエコー検査は1周期2~3回までと決まっているので、それ以前のエコー回数より減らさなければならなかったからです。患者さんの年齢・状態を確実に掌握して工夫を重ねて乗り越えて行きました。
また、自己注射が普及したことによって患者さま自身で簡便に複数回の注射を打てるようになったので、卵胞刺激のためだけに来院する必要がなくなり、それによってもエコー回数を減らせました。
患者さまにとってはこれも保険診療のメリットと言えるでしょう。仕事をしながら治療している方が多いので、来院は少ないほうがいいでしょうしね。
6回の移植をどう使う?
転院も考慮すべき?
40歳未満であれば保険診療で移植できるのは6回ですが、この6回という回数をどう使用したらいいのか、迷われる方もいるでしょう。もちろん最初の1~2回で妊娠したらベストですが、3回、4回と進んだときに、同じクリニックで治療を続けてもいいのかと考えることもあるでしょう。
先にお話ししたように保険診療では、治療法と治療回数に制限があります。そのため、治療内容は似たようになりますが、ドクターやラボの技術は歴然と異なります。この技術面を患者さまが見分けることは難しいと思います。
私自身も当院の技術には絶対の自信を持っており、患者さまお一人おひとりに合った治療を提供するように努めていますが、なかには他院への転院をお勧めするケースもあります。
最近の例でいうと、年齢は35歳で刺激をすれば卵は10~15個くらいは採れる、そのうち8割は受精する、ただし胚盤胞になると分割がすべて止まってしまうという方でした。1回、2回と同じことが続いたので、3回目は自然周期にして卵の数を減らしてみたのですがやはり妊娠しない。その時点で次の方法が考えられなかったので、他院の先生に電話をして相談してみました。結果、予測できる原因はあるけれど、原因を解明したところで妊娠できるかどうかは難しいというものでした。
最終的にこの方は6回のうち3回を残してその先生に紹介する形を取りました。患者さまは当院を気に入ってくださっていたのですが、ラボのスタッフと一緒に丁寧に説明をして、納得され転院となりました。
保険診療では転院時紹介状が必須
保険診療で転院する場合、必ず紹介状が必要なので、転院希望の方は必ず医師にお伝えください。患者さま側から「転院したいので紹介状を書いてください」とは言いにくいかもしれませんが、断ることなく応じてくれるかと思います。
また、保険診療での治療をご希望なら回数に限りがあります。他院で5回移植をした後に転院してくる方もいるのですが、それだとあと1回しか残っていません。5回移植をしても妊娠しなかったということは何かしらの問題が考えられるのですが、残りの1回でその原因を予測して妊娠にこぎつけるのは、正直かなり難しいと言わざるをえません。
治療計画の説明を聞くときには、ご自身で保険制度や体外受精についてある程度の知識は持っておかないと、後から「こんなはずじゃなかったのに」となってしまいかねません。そのため、当院では月に1回、妊活勉強会を開催しており、患者さまの理解を深めています。
保険でできることは同じでも実力差はある
繰り返しになりますが、保険でできる治療内容は同じでクリニック間の差別化は難しいとはいえ、ドクターの卵巣刺激能力とラボの実力には確たる差があります。どこのクリニックも横並びということはありません。
保険診療によって 金額の上限は一定になりましたが、実力は千差万別です。経験がすべてとは言いませんが、細かな部分での対応や能力は先生個人毎に違いますし、生殖医療を何も知らない人が急に入ってきてできる世界ではありません。

患者さまがその違いを見分けるのは難しいと思いますが、保険だからどこでも同じ医療が受けられるわけではなく、歴然とした実力差はあります。長らく生殖補助医療を専門にしているクリニックはその年数だけの経験や実績があるので、クリニックを選ぶひとつのポイントといえるでしょう。
また、技術面からは外れますが、知人からの口コミ、口コミサイトでの評判からクリニックを選ぶ方も多いようです。実際、当院に来院される患者さまのなかには「口コミが良かったから」とか「ホームページに掲載されている妊娠率が高かったから」という方が多くいらっしゃいます。
保険診療スタートにより出現したデメリット
保険診療スタートによるメリットがある一方でデメリットを感じることもあります。それが一部の患者さまに見られる勉強不足です。
保険が適用されたからやってみるかと、何の知識も持たずに来院される方たちも中にはいるのですが、自分のこと、自分たち夫婦のことですからね。やはり、不妊治療とはどんなものなのか、体外受精とはどういうものなのかといった大枠は勉強してから通院することをお勧めします。
また、自治体によっては独自の助成制度が整っていて、東京都では検査や先進医療でも援助を受けられます。もちろん必要があればぜひ利用されることをお勧めしますが、使えるなら何でもかんでもやればいい。使わなきゃ損みたいな感覚での利用には疑問を覚えます。全部保険でまかなってほしい、あるいはプレコンセプションも使いたいと、ただ制度をめいっぱい利用するほうに頭が行ってしまい、妊娠出産というラインからずれてしまうケースも見られます。
実際、そういう方で目立つのが、後から「こんなつもりじゃなかった」「知らなかった」となるケースです。ご自分のからだのことなのに、すべてドクターにお任せで、何も勉強していない。年齢が上がると妊娠が難しくなることも理解していない。しかし、妊娠出産、そして人生設計は言うまでもなく自分事です。自分の大切な人生に関わることですから、ご自分でしっかり勉強すべきでしょう。他人事、人任せ、病院任せにするのではなく、自分事として治療に臨んで欲しいですね。
妊娠適齢期は変わらない
40代での妊娠は難しい
もう1点、保険診療のデメリットとは少し異なりますが、40歳以上の方たちの治療は正直難しいです。30代の方たちは特別な要因がある場合を除いて保険診療で早期に妊娠にいたり、卒院していきます。しかしながら40代に入ると妊娠が難しくなるのに加え、保険を使える回数も3回と半減してしまいます。個人的には40代の人こそ6回にしてほしいと思いますが、3回の胚移植では妊娠にいたらず、自費診療に切り替わっても治療を続けている方が少なからずいます。
だからといって「自費診療ならこんな方法があるからやりましょう」「次はこの方法を試してみましょう」などと、長く引っ張るのも違うでしょう。
先進医療のようにさまざまな方法は出てきましたが、何十年も前から妊娠適齢期は変わっていません。35歳の壁は未だに存在しています。出産にしても妊娠にしても同じです。社会の変化によって結婚年齢やお子さんを求める年齢は変わりました。平均寿命も87歳(女性)と伸びました。しかしながら妊娠に適した年齢はずっと変わっていません。いくら不妊治療の世界が進歩したといっても40代半ば以降の妊娠は極めて難しいと言わざるをえません。
保険診療がスタートして以降、43歳以上で不妊治療をする患者さんは減ったように感じます。年齢的に保険が適用されないという費用的な面もさることながら、公の制度で年齢による線引きをされたため、「もう妊娠は難しいのだろう」とあきらめた方もいるのでしょう。
実際、40代での妊娠は難しいのですが、望むような結果が得られなかったときに、いつどこで治療を終わりにするのか。体外受精から人工授精にステップダウンするなど試行錯誤しながら幕引きをするケースも多いです。
凍結卵の利用率はわずか5%
その理由とは?
若い時に採卵して凍結しておく卵子凍結という方法もありますが、実際に卵子凍結を利用している方でもいざ妊娠を目指すとなると、凍結卵ではなく新鮮胚を希望する方が多いです。というのも凍結卵を使うと保険適用外なので自費診療になってしまうのです。ですから凍結卵は使わずに1から保険診療をスタートする方がほとんど。東京都の卵子凍結助成金制度が始まったのが2023年10月からとはいえ、報道によると凍結卵の使用率は5%程度とのことです。
さらに凍結卵を融解した際の受精率は新鮮卵に比べて低いというのもひとつの要因でしょう。現在のところ凍結卵を使用した際の妊娠率は統計として出ていないので、これから数が増えれば成績も上がってくるかもしれませんが今は未知数です。
保険診療ができる方は凍結卵を使わずに6回はチャレンジして、もし、自費に進んだら凍結卵を使って、となるのかもしれませんが、今のところ、そこまで進んでいる方はほとんどいないので、この少子化の時代、慎重に推移を見守っていく必要性を感じます。
とくおかレディース
徳岡 晋 先生
経歴
防衛医科大学校卒業
同校産婦人科学講座入局
防衛医科大学校附属病院にて臨床研修
自衛隊中央病院(三宿)産婦人科勤務
防衛医科大学校医学研究科(医学博士取得課程)入学
学位(医学博士)取得(平成12年)
平成12年 木場公園クリニック (不妊症専門) 勤務
とくおかレディースクリニック開設
資格
日本生殖医学会 認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会 認定産婦人科専門医
























