不妊治療の先生に聞いてみた

funinclinic

公開日

移植に進めなかった時間を前に動かすために
― PRPという選択肢 ―
【ファティリティクリニック東京 小田原 圭 先生】

記事画像

クリニックに訪れるカップルが、検査や治療に至る背景や状況はさまざまです。その進め方も一様ではなく、すぐに妊娠につながるカップルもいれば、時間をかけて向き合う必要があるカップルもいます。

私たちは、生殖医療専門医を中心に、不妊認定看護師、管理胚培養士、心理カウンセラー、遺伝カウンセラーなど多職種が連携し、一組ひと組、一人ひとりの状況に寄り添いながら、チームで支える体制を整えています。

体外受精で胚移植まで、あと一歩なのに「子宮内膜が薄い」という理由で、移植に進めない…。
胚はあるのに、移植できない時間が続くことは、赤ちゃんを授かりたいと願うカップルにとって、とても辛いものです。

このようなケースは決して多いわけではないようですが、医療現場では薬を変えたり治療法を工夫したりすることで、移植へ進めるようカップルを診ています。しかし、あらゆる手を尽くしても、その一歩の扉を開くことが難しいカップルもいます。

医師として「何かできることはないのか」、その葛藤の中で、ファティリティクリニック東京の小田原圭先生が向き合ってきたのが、PRP子宮内注入法です。結果が約束される治療ではありませんが、今回、移植へ進む可能性を模索する中で小田原先生に見えてきた現場の手ごたえ、そして医師の思いをお伝えいたします。

がんばっても内膜が厚くならない、という現実

体外受精には、いくつものプロセスがあります。
卵胞発育、採卵、受精、胚培養、胚凍結、そして、その一つひとつを積み重ねた先にあるのが、胚移植です。
卵胞発育では、複数の卵子を得るために卵巣を刺激します。刺激方法は年齢や卵巣機能の状態などによって異なり、発育する卵胞数や採卵できる卵子の数には個人差があります。

受精については、採卵当日の精子の数や状態などをもとに、通常の媒精(cーIVF:ふりかけ法)、または顕微授精(ICSI)が選択されます。受精が完了した胚は、インキュベーターの中で育てられます。
私たちのクリニックでは、全胚凍結を基本としているため、採卵を行った周期とは別の周期に胚移植を行います。
この胚移植は、体外受精の中でも集大成ともいえるプロセスです。

しかし、良好な胚があっても、子宮内膜が薄く、今周期は移植に適さないと判断されることがあります。
その場合、次の移植周期では、

●
ホルモン補充周期で薬の種類や量を調整する
●治療法を自然周期に切り替える

などによって、内膜が厚くなり移植が可能になるケースも少なくありません。
一方で、さまざまな方法を試しても内膜がなかなか厚くならず、何周期も移植できないまま時間だけが過ぎてしまうケースがあります。

体外受精を受けているカップルの中で、こうした状況に悩む方は、ごく一部です。
内膜が厚くならない要因として、流産手術の既往や、年齢によるホルモン変化などがあげられることもありますが、体質的なものや、はっきりとした理由がわからないケースも珍しくありません。

それだけ、着床に関しては、未だ解明されていないことが多いという現実があります。
薬の調整、治療法の変更、着床の窓や子宮内フローラの検査など、やれることはすべてやっている。それでも内膜が厚くならず、移植へと進めないカップルもいるのです。

胚はあるのに移植できない
その辛い時間を希望へつなげるために

内膜が整わない状態が続き、何カ月も移植できない周期を重ねると、心も体も疲れ切ってしまいます。

「胚はあるのに、お迎えできない」

その状況の中で、悩み、自分を責めてしまう女性もいます。
そうしたカップルを前に、何か手立てはないのかと考えていたときに出会ったのが、PRP子宮注入法でした。効果や安全性について検討を重ねた上で導入を決めました。

何をしても内膜が厚くならず、移植に進めない時間を過ごしてきたカップルにとって、内膜を厚くする可能性のあるPRP治療は、次の一歩へとつながる選択肢のひとつと、私たちは考えています。

PRP子宮内注入法が移植への扉を開く

血小板は、傷ついた組織に集まり成長因子を放出して修復を促します。
PRPとは、自分の血液から抽出した血小板を高濃度に濃縮したもので、成長因子を豊富に含んでいます。このPRPを患部に用いることで、自己治癒力を高めることが期待できます。 たとえば、整形外科では慢性的な関節痛などの改善、歯科では抜歯や歯周病などの治療に、そのほかにもさまざまな診療科で新しい治療の選択肢となっています。 

自分の血液から抽出されるため、副作用はほぼありません。
現在、着床に関する治療は、移植周期の方法や薬の選択、量の調整が主です。着床環境に関する検査は先進医療にあります。

しかし、これらは検査であって治療ではありません。問題はないかと調べ、そこから着床環境の改善へ生かす、また移植するタイミングの参考などになるわけです。

一方、PRPは、子宮内膜が厚くなる、また着床環境の改善が期待できる治療法です。
これまで移植ができずにいたカップルもPRPによって妊娠への期待を高めることができるのです。

これまでの結果から見えてきたこと

私たちのクリニックでは、PRP子宮注入法を2021年から始め、これまで42症例行っています。
治療を受けた人は28~49歳と幅広く、平均年齢は約41歳で、比較的年齢の高い方が多いのが特徴です。このうち、子宮内膜の厚さの改善を目的としてPRPを受けたのは36症例で、もともと内膜の厚さに大きな問題がなかった症例は6症例でした。

内膜が薄い人の33症例(約92%)で内膜が厚くなり、16症例(約49%)で妊娠反応陽性でした。
また、内膜の厚さに問題がなかった症例では、全員の内膜の厚さが保たれ、その半数で妊娠反応陽性でした。
胚移植では、子宮内膜の厚さは一般的に7mm以上がひとつの目安とされています。それ以下の場合は移植を見送ることが多く、極端に薄い場合には、移植に進むことが難しくなります。PRP子宮注入法を希望されるカップルの多くは、子宮内膜がなかなか厚くならず、これまで何度も移植を見送ってきた方や、良好胚を複数回移植しても妊娠に至らなかった方です。

また、PGT(染色体の数や構造を調べる検査)を行ったカップルでは、正常胚(染色体に問題のない胚)だからこそ、「できるだけ良い環境で戻したい」と考え、PRP子宮注入法を選択されるケースもあります。
内膜の厚さについては、多くの症例で、PRP後にこれまでよりも厚くなる変化が見られています。

結果が約束されない治療だからこそ

一つひとつの胚は、どのカップルにとっても貴重で大切です。
内膜が薄すぎるために何周期も移植を先送りしてきたカップルにとってPRP子宮注入法は大きな支えになっていると、日々の診療の中で実感しています。

特に印象に残っているのは、乳がんの治療前に胚凍結を行った患者さんのケースです。
流産手術の経験があり、ホルモン補充周期でも自然周期でも子宮内膜の厚さは3mm台にとどまっていました。
良好胚を複数凍結できていたものの、胚移植を2回行っても着床には至らず、患者さんと相談のうえ、PRP子宮注入法を行いました。

PRP後、大きな変化ではありませんでしたが、内膜の厚さは4mm台になりました。数値だけを見ると十分とは言えませんが、着床環境が整えられた可能性を考え、その周期で胚移植を行いました。

その結果、着床が確認され、無事に出産されました。

この経験から、PRPには内膜の「厚さ」だけでは測れない変化がある可能性を示していると感じています。

必要な医療を必要な人へ

不妊治療が保険適用となった現在、受診されるカップルの多くは、保険診療を利用して治療を受けています。私自身も、保険の回数が残っているのであれば、金額的な負担を抑えられる保険診療を基本に体外受精を考えるべきだと思っています。

一方で、自由診療が必要になる場面もあります。たとえば、PGTを希望される場合や、子宮内膜がなかなか厚くならず、PRP子宮内注入法を希望されるカップルです。

体外受精を受けるカップルの中でも、ごく一部ですが、内膜が整わない状況で、採卵からすべてが自由診療になることは、患者さんにとって大きな負担になります。PRPだけでなく、ごく少数であっても、必要な医療が必要とする人に提供できるような環境づくり、仕組みが広がっていくことを期待しています。

卵巣PRPに感じているもうひとつの可能性

卵巣へのPRP治療についても、大きな可能性を感じています。

特に、年齢が若くAMH値が低い、いわゆる早発卵巣不全の患者さんにとっては、希望となり得る治療だと考えています。
年齢が若い方は、卵子の数が少なくても、妊娠につながる力を持った卵子を持っている可能性があります。PRPによって、一つでも多くの卵子を得ることができれば、妊娠に近づくことができる。その可能性に、私は期待しています。

希望をつなぐために私たちができること

クリニックで診療を続ける中で、強く感じるのは、患者さん一人ひとりが、それぞれ異なる背景や悩みを抱えているということです。
とくに大きな問題もなく、治療によって妊娠し、お子さんが授かるカップルが多い中、内膜が厚くならない、卵子がうまく育たない、胚の発育が順調でないなど、さまざまなことを乗り越えて妊娠判定を迎えるカップルもいます。
その結果が陰性だったことをお伝えする瞬間は、正直つらいです。患者さんにとって一番つらい出来事であることは間違いありませんが、医師としても、何度経験しても慣れるものではありません。

それでも、その結果を受け止めながら、この方に次に何ができるのかを考え続けるしかありません。おふたりの目標である妊娠は、その先に繋がっています。それぞれに合った治療を模索し続けることが、私たちにできることだと考えています。

ファティリティクリニック東京
小田原 圭 先生

略歴

  • 2013年
  • 昭和大学医学部 卒業
  • 2015年
  • 昭和大学医学部産婦人科学講座 入局
  • 2021年
  • 昭和大学 大学院博士課程修了
  • 2021年
  • 昭和大学医学部産婦人科学講座 助教
聖マリアンナ医科大学病院
生殖医療センター助教(癌生殖国内留学)
  • 2024年
  • ファティリティクリニック東京
  • 2025年
  • ファティリティクリニック東京 院長

資格

日本専門医機構認定 産婦人科専門医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医
日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医

関連記事

最新記事

タグ一覧