不妊治療の先生に聞いてみた

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難治性不妊の治療をもっと受けやすく!
PRP療法で高まる妊娠と生まれてくる命への期待
【山王病院:女性医療センター/リプロダクション・婦人科内視鏡治療部門 堤 治 先生 久須美 真紀 先生】

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国内でいち早く難治性不妊に対するPRP療法に取り組んだのは、山王病院女性医療センター/リプロダクション・婦人科内視鏡治療部門でした。

すでに整形外科や歯科では再生医療として取り入れられ、自分にもともと備わっている修復力や治癒力をサポートする効果が期待されています。生殖医療分野では、薄い子宮内膜を厚くし、着床率を高めることが期待されるという論文が世界各地で発表、報告されるようになり、難治性不妊(良好胚を3回以上移植しているにも関わらず着床しないこと)に期待できる治療として、2018年1月、日本で初めて山王病院が臨床研究をスタートさせました。この研究の効果が認められ、2019年3月には再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき、関東信越厚生局に受理され、本格的にPRP療法をスタートさせました。その後、山王病院の研究報告を元に、多くの不妊治療施設で各厚生局から受理されPRP療法を行っています。今では、堤先生を中心に産婦人科PRP研究会も発足し、多くの治療施設が参加しています。

これまで良好胚を数回移植しても着床しなかった、妊娠が成立しなかったなどの難治性着床障害で辛い思いをされてきた人にとって、PRP療法は赤ちゃんを授かるための選択肢の1つになっています。今回は、山王病院女性医療センター/リプロダクション・婦人科内視鏡治療部門での取り組みや今後の展開など堤先生と久須美先生にお話を伺いました。

子宮内膜が薄い人ばかりではなく広く着床環境に問題を抱えた人に

PRP療法は、自分の血液から抽出した多血小板血漿(PRP)を子宮に注入することで、PRPに含まれる成長因子が子宮内膜に働き、着床しやすい環境に整えると考えられています。

私たちが2018年に行った臨床研究では、42歳までに採卵した凍結胚のある子宮内膜が7mmより厚くならない難治性不妊の人を対象にした32例でPRP療法ー凍結融解胚移植を行いました。同じ人の内膜の厚さを比較するために、1周期目のホルモン補充療法で子宮内膜の厚さと2周期目のホルモン補充療法ーPRP療法での子宮内膜の厚さで計測したところ、PRP療法後に内膜が厚くなる人が多く有意差を認めたのですが、なかには厚さに変化のない人もいました。妊娠例については、内膜が厚くなった人ばかりでなく、厚くならなかった人にもありました。

PRPにはPDGF(細胞の増殖や軟部組織の修復を調節する)、TGFーβ(細胞の増殖やコラーゲンの分泌を促進する)、VEGF(血管新生を促進する)、EGF(上皮細胞の増殖や分化を刺激し、血管新生を促進する)などの成長因子が含まれていますが、どの成長因子が、どのように子宮内膜に作用しているか、どのような機序なのか詳しいことはよくわかっていません。

しかし、内膜は厚くならなくても、着床環境が改善されて妊娠に結びつくことが示唆されています。そのため本格的にPRP療法をスタートさせるときには、その対象を子宮内膜が薄い人ばかりでなく、着床環境に問題があると考えられる人にも広げ、治療を提供しています。

PRP療法を受けやすくするために!
先進医療への認可を目指す

現在、PRP療法は自由診療でしか受けられません。そのため、PRP療法を受ける体外受精治療周期には保険が適用されず、かかる医療費は全額自己負担となってしまいます。

PRP療法の医療費も決して安くはありませんし、体外受精も保険が適用されなければ、医療費の総額は大変高額になります。そこで私たちは、PRP療法を先進医療(厚生労働大臣から認可された保険診療外の高度な医療技術:保険診療と併用して受けることのできる自由診療の医療技術)として認可してもらうための準備をしています。また、さらに治療が受けやすくなるように、きちんと治療実績を重ねて、数年後の保険適用化を目指しています。

そのために、産婦人科PRP研究会では、会員施設からPRP療法に関する治療報告をいただいて多施設研究を進めています。より多くの症例からPRP療法の治療効果が認められて先進医療になり、さらにその数年後には保険診療になれば、難治性不妊のカップルが早くにPRP療法に辿り着き、赤ちゃんに会える日を引き寄せることができるのではないかと考え、日々努めています。

ただ、PRP療法を行うための認可申請には資料づくりや、認可を受けるまでのやりとりに時間もお金もかかります。

これが先進医療となり、また将来的に保険診療となった場合、認可申請にかかる医療者側の負担を軽くすることも、必要とする患者さんが治療を受けやすくするために大切なことだと思います。

PRP治療の方法

PRP療法を受ける人にはなにか傾向はありますか?

PRP療法を受けた人のなかに、子宮に関する手術歴がある人が多くいました。たとえば、子宮内膜ポリープ手術、子宮筋腫切除術や子宮動脈塞栓術などの病気によるものと、流産処置、中絶処置で掻爬術によるものなどがあります。

流産などの掻爬術によって内膜に傷がついてしまったり、癒着してしまったり、また内膜が厚くなりにくくなるなど着床環境に問題を起こすことがあります。

このほかでは、子宮の形態異常(中隔子宮、双角子宮、単角子宮など)も要因になります。これらは、子宮の血流や血管新生の程度が関係しているのではないかと考えられ、なかでも中隔子宮は、子宮鏡を用いた中隔切除術が可能です。

このようなことが要因、原因となることから、子宮関連の手術は妊娠する力(妊孕性)を温存して手術をすることが、産婦人科医に必要とされるところだと思います。山王病院では、子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫などは、より侵襲性の低い子宮鏡シェーバーを使って手術をしています。

子宮鏡シェーバーは、大変細いので子宮頸管を拡張する必要がないこと、そして、ループ電極のように電気で切開しないため、内膜の熱損傷がないことなどがメリットです。

私たち山王病院では、PRP療法が必要な人に治療を提供することと同時に、それ以前に必要となる手術については、妊孕性を温存するように行っています。

年齢的な傾向はありますか?

私たち山王病院でPRP療法を受ける人は38歳以上が多く、平均では40歳くらいになります。妊娠しない原因は子宮や着床の問題よりも胚の質の問題のほうが多いと考えられますが、なかにはこれまでPGTーAを行い、正常胚を数回移植しても着床しない人にPRP療法を行ったところ妊娠が成立したというケースもあります。

年齢が高くなれば、胚の染色体数の問題から妊娠が難しくなるケースが多くなるのですが、子宮の病気や流産などの手術歴がある人も多いため、治療歴などを確認しながら、あらゆる可能性を考えて治療を進めなければなりません。

年齢の若い人は、比較的クリアカットに不妊原因、体外受精になる原因があることが多く、短期間で妊娠し、出産されるケースが多くあります。しかし、なかには複数回胚移植をしても妊娠成立しないケースもあり、そうしたカップルには、PGTーAで胚の染色体数を調べる検査と同時に着床環境を改善するためにPRP療法をお勧めすることもあります。子宮内膜も厚く、慢性子宮内膜炎などもなく、手術歴もなく、子宮内環境も特に問題がないのに…とご本人たちも悩ましいと思います。

子宮内膜が厚くなりにくい人にはなにか傾向はありますか?

体外受精をしている人で、子宮内膜が厚くなりにくい人でも、ホルモン補充をすることで厚くなるようなら心配はありません。

現在、治療しているかどうかに関わらず子宮に手術歴がある場合は、それが要因になって子宮内膜が厚くならず妊娠が難しくなっている可能性があります。また月経血量が少ない人は、内膜が薄い可能性があります。ただ、これらにも個人差があり、内膜が薄くても着床する人はいますので深く思い詰める必要はありません。しかし、以前と比べて経血量が少なくなってきた人は、今よりも積極的な方法で妊娠にトライしていただいた方がいいと思います。また、「以前と比べて月経血量が少なくなった」ことは医師に伝えておきましょう。

PRP療法は、難治性不妊のファーストチョイスになりますか?

数回良好胚を移植しても妊娠が成立しない場合、胚の問題か?子宮の問題か?と考えます。胚の問題については、PGTーAを行って染色体数に問題のない胚を確保できれば、移植あたりの妊娠の期待が高まります。子宮の問題については、着床の窓の検査、慢性子宮内膜炎や子宮内フローラの検査などをに行い、検査の結果によって、必要な治療を受けることで妊娠の期待が高まります。しかし、胚か子宮のどちらかに問題を抱えているとは限りませんし、どちらの検査でも問題が見つからないケースもあります。

つまり、これまで良好胚を移植しても妊娠せず、その後、さまざまな検査を受けても「なぜ、妊娠成立しないのか、よくわからない」場合は、PRP療法を治療のファーストチョイスと考えてもいいと思います。何より自分の血液からつくるという安全性、短時間で抽出し、簡便に子宮へ入れることで、着床環境を整えることが期待できるからです。

慢性子宮内膜炎は主として細菌性の感染が想定されており、通常は抗生剤で治療可能です。難治例があり、多剤を使用する事は耐性菌問題もあり、治療に難渋するケースがあります。慢性子宮内膜炎をPRP療法で治療可能であることを示唆する報告があります。

慢性子宮内膜炎は、自覚症状がないことがほとんどですので、不妊治療をはじめてから見つかったという人も少なくありません。着床障害に悩む人の約42%に慢性子宮内膜炎があるといわれているので、数回胚移植をしても妊娠成立しない場合は、早めに慢性子宮内膜炎の検査を受けたほうがいいでしょう。慢性子宮内膜炎があると、月経血量が減る人もいるという報告もあるので内膜がうまく厚くならない人もいるようです。また、子宮内膜の脱落膜化(内膜が着床しやすい状態になること)を妨げるという報告もあることから、着床の窓にズレを生じさせる可能性もあります。

そのため、慢性子宮内膜炎については、きちんと治療をして胚移植に臨んでいただきたいと思います。

着床しにくいかな

PRP療法を先進医療に!

2023年2月現在、PRP療法を受ける場合は、体外受精の治療周期は自由診療になり、医療費の全額が自己負担になってしまいます。難治性不妊に悩むすべてのカップルがPRP療法によって赤ちゃんが授かるわけではありませんが、これまでお話したようにこの治療を必要としている人は、年齢が高い傾向にあります。また、年齢に関係なくPRP療法を必要とされる人にとって、もう少し受けやすい治療にするために、まずは先進医療にすること、そして数年後には保険診療にすることを目指しています。

赤ちゃんを授かりたいと願うカップルが、どのような状況であっても、一組ひと組に向き合って適切な医療を提供することを考え、取り組んでいます。

山王病院 名誉病院長
女性医療センター/リプロダクション・婦人科内視鏡治療部門長
堤 治 先生

経歴

東京大学卒、医学博士
前山王病院病院長
元東京大学医学部産婦人科教室教授
元東宮職御用掛
米国国立衛生研究所(NIH)留学
前日本受精着床学会理事長
元日本産科婦人科内視鏡学会理事長
元アジア・パシフィック産科婦人科内視鏡学会理事長
産婦人科PRP研究会代表世話人
日本生殖医学会代議員
中日友好病院(北京)名誉教授
国際医療福祉大学大学院教授

専門医

日本専門医機構認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医
日本内視鏡外科学会技術認定医
母体保護法指定医師

山王病院
女性医療センター/リプロダクション・婦人科内視鏡治療部門
久須美 真紀 先生

経歴

東京大学卒、同大学院修了
医学博士
前東京大学医学部附属病院助教
国際医療福祉大学 臨床医学研究センター准教授

専門医

日本専門医機構認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医

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