不妊治療の先生に聞いてみた

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PRP療法が、 妊娠の可能性を広げる。
【仙台ARTクリニック 吉田 仁秋 先生】

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着床しない。
卵子が育たない。
もう、諦めるしかないの?

「私は、もう何度も胚移植しているのに着床しない」
「私は、移植したくても、子宮内膜が厚くならなくて、何度も移植がキャンセルになる」
「採卵したくても卵胞が育たない。治療が先に進められない」

ー もう諦めるしかないの? ー

そんな悩みを抱えながら、体外受精の治療周期を受けているカップルがいます。

決して、多くはありません。でも、何度も何度もトライしているのに、一歩が先へ進まないのです。

諦めたくない。
どうすればいいのでしょう。

仙台ARTクリニックの吉田仁秋先生を尋ね、一歩を進めるために、赤ちゃんを授かるためのお話をうかがいました。

子宮内膜が厚くならない
だから妊娠できないの?

凍結融解胚移植をする場合、ホルモン剤を用いて子宮内膜を育てて、胚の発育程度と子宮内膜の状態、そして、ホルモン環境と時間を合わせて移植をする方法があります。たとえば、胚盤胞は、排卵から5日目、子宮内膜の厚さも排卵から5日目、そしてホルモン環境も排卵から5日目という状態をホルモン剤で再現して移植する方法です。

私たちのクリニックでは、移植時の子宮内膜の厚さは8mm以上をベストとしていますが、それに満たなくても、そのほかの状況が良い場合は胚移植をしています。それにより多くのカップルが赤ちゃんを授かっていますが、なかには子宮内膜が十分に厚くならずに着床しなかったり、移植がキャンセルになったりするカップルもいます。

しかし、一般的に着床しない、妊娠しない理由は、胚の染色体の数に問題があることが多く、一概に子宮内膜の問題とは言い切れません。

複数回移植しても妊娠できなかったら、次の治療は?

保険診療で体外受精ー胚移植治療を受ける場合は、先進医療となる検査や着床不全に関わる検査をお勧めしています。

良好胚(形が良く、スピードも順調に発育した胚)を2回以上移植しても着床しない、または妊娠が成立しなかったカップルを対象に、着床の窓を調べる検査、子宮内の感染やフローラなど状態を調べる検査、そして胚を受け入れる免疫に問題はないかを調べる検査などがあり、ご希望に沿って行います。

着床の窓がズレている方は、検査結果に沿って胚移植を行います。子宮内の検査で慢性子宮内膜炎が見つかれば抗生物質による治療を、ラクトバチルス菌が少ない方には増やす治療を行います。あらゆる検査や治療を行っても着床しない、妊娠が成立しないカップルは、胚の染色体に問題があるケースが多いので、染色体の数を調べるPGTーA(着床前胚染色体異数性検査)をお勧めすることもあります。

PGTーAによって正常胚(染色体の数に問題のない胚)を移植することで妊娠し、出産に至るケースも少なくありません。

ただ、PGTーAは保険が適用されないため体外受精治療周期も自由診療になるため医療費が高額になります。そのため、保険診療でできる間は先進医療による検査を併用して胚移植に臨むカップルが多いです。

着床しない、妊娠が成立しない要因を先進医療も用いて探り、また胚の染色体数の問題もない場合には、PRP療法をお勧めし、ご希望されるカップルに治療を行っています。

どのような方が傾向として多いですか?

これまで、子宮内膜が厚くならない場合は、最初にお話したようにホルモン療法を行って子宮内膜を着床環境になるように育てたり、その前の周期からピルを服用してコントロールするなどが主な治療法でした。それでも6~7mmと、なかなか厚くならないケースもあり、そうしたケースに対する効果的な方法を見つけるのは至難の業でした。そのほかのことは先進医療やPGTーAなどを組み合わせることで問題は解決していますが、解決されていないのは内膜の厚さなどを含めた子宮の問題だけです。

胚を凍結することはできても、胚移植をすることができない、または移植しても着床しない、その一歩が進まないのです。そして、その傾向としては子宮内の手術経験がある方が多いです。たとえば、中隔子宮で子宮内の壁を切除したとか、子宮内ポリープの切除、または流産などで子宮内膜を掻爬(そうは)したなどです。次の妊娠や妊娠継続をするためには、そうした手術は必要ですが、その後の着床に問題を残してしまうケースが少なからずあるということです。

妊孕性を考えた場合、どのような手術を受けることが大事かということも含まれます。そのため、妊活前に子宮内の手術が必要になった場合は、その後の妊娠も踏まえて不妊治療を専門に行う医師にセカンドオピニオンを求めることも大切になってくるでしょう。

PRP療法とは?

子宮PRP療法は、患者様自身の血液から抽出した高濃度の血小板(PRP)を注入する方法です。血小板には、細胞の成長を促す物質や免疫に関わる物質が含まれるので、PRPを子宮内に注入することで、子宮内膜が厚くなり、胚が着床しやすくなる可能性が高くなると考えられています。また、患者様自身の血液から抽出するため、アレルギー反応などの副作用が起こる可能性が低いこともメリットとしてあげられるでしょう。

妊娠へ、そして赤ちゃんを授かるための一歩をPRP療法が先へ進めてくれる、そして、それが赤ちゃんへとつながる可能性を広げてくれるかもしれません。

実際には、エコー検査の所見などで子宮内膜が厚くなるケースもあれば、厚くならないケースもあります。では、厚くならないケースは着床しないのか、妊娠しないのかというとそういうわけではありません。

2021年から18症例、22周期に子宮PRP療法を行って、その後の妊娠反応陽性率は45%(胚移植あたり)、臨床妊娠率も36%(胚移植あたり)になり、生産率も50%(妊娠あたり)です。これまで、何をしても妊娠しなかった、移植さえできなかったカップルに赤ちゃんが授かっています。

だから、「諦めないでほしい」と、そう思っています。

卵巣PRP療法は、いかがですか?

卵巣については、AMH値、FSH値、これまでの採卵数や卵巣のエコー検査からPRP療法をお勧めしています。卵巣PRP療法は、PRPを卵巣に注入することで卵巣予備機能の改善効果が期待でき、採卵数の増加や良質な卵子が採取できる可能性が高まります。

月経周期初期のエコー検査で、これまで胞状卵胞が見えなかった方でも見えるようになり、卵胞が育つケースや、採卵ができる様になるケースもあります。ただ、子宮PRP療法に比べて症例数は少なく、2022年から卵巣PRP療法の認可を受けて実施していますが、これまで8症例です。まだ、有意性があると言えるほどにはなっていません。

また、月経が停止している期間が長かったり、閉経間近だったりすると、PRPの効果を期待するのが難しいケースもあります。1を3にすることは期待できても、0(ゼロ)を1にすることはできません。今の適応では、卵巣PRP療法は困難な症例も少なくありません。

卵胞が育たない場合は、諦めるか、他の方法で赤ちゃんを授かるしかありません。たとえば、卵子提供を受けるとか、養子縁組をするなどになります。

しかし、自分の卵子で赤ちゃんを授かりたいと思うのが本来ですので、本当に難しくなってくる前の段階で、卵巣PRP療法が受けられたらと考えることもあります。PRPは医療費の問題から躊躇するカップルもいらっしゃいますし、その前に排卵誘発法やホルモン療法などの工夫を十分にするべきだと考えています。

今後、子宮や卵巣PRP療法が必要になる方に特長はありますか?

これは!という自覚症状はありません。ただし、月経が停止している期間が長かったり、月経から月経の間が長かったり、また月経血量が少なくなってきたなどの場合は、なるべく早く婦人科を受診してください。

子宮内膜の厚さの問題もさることながら、排卵にも問題がある場合もありますので、自分の月経の様子を知ることが一番だと思います。

PRP療法を受けた患者さんたちからは、どのような声が上がっていますか?

PRP療法によって妊娠ができたカップルは、大変喜んでいます。当院の患者様だけでなく、他院での治療歴が長く、「なんとかお願いします」と転院されてくるカップルも少なくありません。

子宮PRP療法、卵巣PRP療法とも、先進医療となって保険診療と併用できるようになれば、私たちも患者様にお勧めしやすくなりますし、カップルもPRP療法が受けやすくなるでしょう。

自由診療となると、やはり医療費の負担も高くなりますし、着床しないという方には、PGTーAを先に選択することが多くなります。

今は、PRP療法を行う治療施設も増えてきていますので、学会での発表なども増え、有効性が積み上がっていけば、よりよい環境でPRP療法が受けられるようになっていくと考えています。

体外受精を受けられる患者様のなかでも、多くのカップルが必要となる治療ではありません。しかし、これまで何をしても妊娠できず、辛い思いを重ねてきたカップルに赤ちゃんが授かっているのですから、PRP療法は大きな福音となり、妊娠の可能性を広げる治療だと考えています。

私たちは、これからも患者様と向き合い、寄り添いながら、1周期1周期を大切にして治療に努めて参ります。

仙台ARTクリニック
吉田 仁秋 先生

経歴

  • 1980年
  • 獨協医科大学 卒業
  • 1980年
  • 東北大学医学部 産婦人科学教室入局不妊・体外受精チーム研究室へ
  • 1991年
  • 医学博士号取得
  • 1991年
  • 米国マイアミ大学 生殖内分泌学講座留学
  • 1993年
  • 竹田綜合病院産婦人科部長
  • 1996年
  • 東北公済病院医長
  • 1998年
  • 吉田レディースクリニック開設
  • 2007年
  • 吉田レディースクリニック ARTセンター開設
  • 2008年
  • 東北大学医学部産婦人科 臨床准教授(元兼任)
  • 2016年
  • 仙台ARTクリニック開設

資格

日本産科婦人科学会 認定産婦人科専門医
日本生殖医学会 認定生殖医療専門医

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