不妊治療の先生に聞いてみた

funinclinic

公開日

先進医療ってなに?まずは、基本的な知識と情報を持つことが大事!
【オーク住吉産婦人科
オーク梅田レディースクリニック
オーク銀座レディースクリニック 北脇 城 先生】

記事画像

2022年に不妊治療の保険診療がスタートしたと同時に、体外受精治療に関わる先進医療も承認、認定されました。そして、保険診療スタートから1年が経過した今では13項目の先進医療が承認されています。

承認された先進医療には、それぞれに適応があり、また先進医療として行っている治療施設もあれば、行っていない治療施設もあります。

では、この先進医療とは、そもそもどのような医療技術なのでしょう。また、体外受精を受けるカップルが、多くの先進医療の中から、どのように選択していけば良いのでしょう。

そこで今回は、オーク梅田レディースクリニックの北脇城先生を訪ね、お話をお聞きしました。

自分たちに合った先進医療を選択するためにすること

先進医療は、保険が適用される治療ではありませんが、ある一定の効果があるとされる医療技術です。

現在、先進医療として承認されているのは13項目で、このうち11項目が多くの治療施設で受けることができ、2項目については実施する治療施設が限定され、臨床研究として実施し、さらに効果を評価している医療技術です。

この中から、自分たちに合った先進医療を選択するためには、まずは基本的な知識と情報を持つことが大事です。

その基本的なこととは、
1、体外受精治療をよく知ること
2、自分たちの状況をよく知ること

この2つに加えて
3、先進医療に関する情報を得ることが必要です。

1、体外受精治療をよく知ること

体外受精がどのようなカップルに適していて、どのような治療法なのかをよく知ることが大切です。

適応になるのは、卵管に閉塞や狭窄があったり、精子の数や運動率に問題があったり、タイミング療法や人工授精で妊娠が叶わなかったり、原因がよくわからないなどになります。

治療法については、多くの人がご存知かと思いますが、排卵誘発をして、採卵を行い、体外で卵子と精子を出会わせて、受精した胚を発育させて子宮へ戻し、妊娠を目指します。

2、自分たちの状況をよく知ること

自分たちカップルのどこに問題があって体外受精が適応になったのかをよく知ることが大切です。

体外受精によって、その問題となっていることを助けてあげれば妊娠は叶うと考えられるのですが、実は妊娠のメカニズムはとても複雑です。わかっている原因だけではなく、卵子や精子、胚の質の問題、子宮の問題など多岐に渡ります。

そのため体外受精を受けて、1回の治療周期で妊娠できるカップルもいれば、できないカップルもいます。

妊娠ができなかった場合、どこに問題があって妊娠が叶わなかったのか、治療過程のどこまでは順調だったのかを振り返って検討し、次の治療周期に活かすことが大切です。

3、先進医療に関する情報を得ること

先進医療は、保険診療で行うことのできる検査や治療にプラスして受けることができます。

標準治療として提供するには、現時点ではエビデンスが足りない、また各治療施設ごとで方法に違いや技術差がある医療技術については、厚生労働省・先進医療会議にて先進医療として承認されています。

先進医療の項目ごと、適応があるので、その適応に沿って医師から案内があり、患者さんが希望すれば医療技術が提供されます(下記表を参照)。

そもそも、先進医療とは何かを知っておきましょう

どこでも同じ先進医療が受けられる?

現在、先進医療として承認されている13項目のうち、11項目は先進医療Aとして承認され、2項目は先進医療Bとして承認されています。

先進医療は、産婦人科専門医、なおかつ生殖医療専門医が常勤している治療施設が、先進医療項目の中から選択して厚生労働省へ申請し、認定を受けた治療施設で保険診療と併用して実施することができます。

また、治療施設ごと、診療方針や治療法についてさまざまな考え方がありますので、実施している先進医療技術も、その費用にも違いがあります。

先進医療にかかる医療費は?

先進医療には保険が適用されないため、費用は全額自己負担となりますが、保険診療と併用して受けることができるため、保険が適用される医療費については3割負担、先進医療については10割負担となります。

先進医療のAとBとは?

先進医療は、将来、保険適用になる可能性がありますが、他の診療科同様、先進医療ではなくなる可能性もあります。

先進医療にはAとBがあり、先進医療Aは適応範囲内の医薬品を用いた医療技術で、先進医療Bは適応範囲外の薬を使っていたり、治療の有効性と安全性を評価するために更なる臨床研究を行う必要がある医療技術です。

そのため、先進医療Bについては実施できる治療施設が限定されていて、体外受精に関わる先進医療ではタクロリムス投与療法とPGTーAの2つがあります。

先進医療Bになっている医療技術について

タクロリムス投与療法は、免疫性の反復着床不全が疑われる症例に対して免疫抑制剤であるタクロリムスを胚移植前から用いて、母体が胚を異物として攻撃してしまわないようにする治療法です。このタクロリムスという薬は、もともと臓器移植の際に移植した臓器が受け入れられるように免疫を抑制するためによく用いられています。しかし、胚移植については適用範囲外なので、その効果を確認するために臨床研究が行われています。

そして、PGTーAは、胚の染色体の数を調べる検査です。胚盤胞の栄養外胚葉(将来胎盤になる細胞)の4~5細胞を採取して染色体の数を調べ、染色体の数に問題のなかった胚を移植することで、移植あたりの妊娠率の向上と流産率の低下が期待できます。年齢を重ねると、染色体の数に問題のある卵子になる確率が上がり、これが妊娠を難しくさせたり、流産を起こす要因になったりします。

これら先進医療Bは、将来、先進医療Aとなって、多くの治療施設で行えるようになる場合もありますし、効果が認められて保険診療になる可能性もあります。これは、現在先進医療として行っている臨床研究を積み重ね、その評価によって決まります。

先進医療Bを受けたい場合は

タクロリムス投与療法とPGTーAは、現段階(2023年6月)では限定された治療施設で、先進医療として保険診療と併用して受けることができます。

では、その他の施設では受けることができないか? といえば、そうではありません。実際、オーク会でもタクロリムス投与療法も、PGTーAも行っていますので適応があり、希望すれば受けることができます。

しかし、先進医療Bを行う治療施設の中には入っていないので、治療や検査を受けたい場合には自由診療になります。日本では、保険診療と自由診療を同一周期に行う混合診療は認められていないため、これら治療や検査を受けたい場合には、自由診療で受けていただくことになります。

どのようにして先進医療を選択するか

先進医療の中には、初めての体外受精治療周期から選択できるIMSIやタイムラプスがあります。

IMSIは、顕微授精が適応するカップルになりますが、精子を通常よりも倍率の高い顕微鏡で観察して、頭部に空胞がなく、DNAに傷がないと考えられる精子を選ぶ技術です。タイムラプスは、受精から胚盤胞までインキュベーターから出すことなく観察し、胚培養ができるインキュベーターです。

また、なかなか胚移植に辿りつかない、胚盤胞まで育たないカップルや、胚移植はできるものの胚盤胞のグレードが低く反復して着床しない、妊娠が成立しないというカップルの場合は、いかにいい精子を選択するかも大切になってきます。

PICSIは、通常のスイムアップ法などで選別後、さらにヒアルロン酸を用いて精子を選別して、顕微授精を行う技術です。ヒアルロン酸を用いることでDNAに傷の少ない精子を選ぶことが期待できます。PICSIによって、これまで胚盤胞にならなかったカップルや胚盤胞のグレードの低かったカップルが妊娠し、赤ちゃんが授かるケースもあります。

そして、胚のグレードもそれほど悪くない、良好な胚を移植しているのに、反復して着床しなかった、妊娠成立しなかった場合に、次はどうしたら良いのかと悩むカップルも多いのではないかと思います。これについては、胚を受け入れる子宮に問題はないかを調べる検査と、移植方法に大別できます。

医師は、これまでの胚移植とその結果から、何が必要か、先進医療も含めて、次の治療周期を検討し、ご案内します。

患者さまからは、「その先進医療を受けたら、妊娠できるんですか?」とよく聞かれます。ただ、正直、それはわかりません。しかし、これまで行った治療では着床しなかった、または妊娠が成立しなかったわけですから、同じ治療を繰り返しても難しいかもしれません。

ただし、初めにお話したように、妊娠のメカニズムは大変複雑で、またカップルごとに、その状況には違いがあります。そのため、個々のカップルに合った方法は何かを探り出すことが重要です。

また、保険診療と併用して受けることができるといっても、先進医療にかかる費用は高額ですので経済的な負担もよく考えて受けていただきたいと思います。

先進医療として受けるか、自由診療として受けるか

先進医療は、エビデンスが不足しているとされていますが、保険診療が始まる前にも適応に沿って行われてきた医療技術です。保険診療がスタートしたことで、先進医療として行われるようになったわけですが、保険診療と併用するためには適応を守らなければなりません。

体外受精の回数制限は、年齢で区分されています。反復して着床しない、妊娠が成立しないという適応がある先進医療を受けるためには2回以上の胚移植の結果から検討されるため、厳しいのは40歳以上43歳未満の患者さまたちです。移植回数が3回という制限があるので、最後の1回の胚移植のためにできることは何かをよく検討しなくてはなりません。

先進医療を取り入れることも大切ですが、凍結胚がある場合は、そのクオリティも大切な要素です。

妊娠するか、妊娠が継続するか、その主な理由として年齢要因があげられます。女性の年齢が上がれば上がるほど、卵子の質の低下は顕著になり、それが胚の質へとつながります。ですが、妊娠に結びつく卵子がないとは限りません。

子宮環境に関連した反復して着床しないなどの適応のある先進医療については、この胚の質に問題がないことが前提になります。

しかし、胚の質について検査することは簡単ではありません。そのため、私たち医師は、これまでの治療経過や結果を検討し、先進医療を含めた治療方法を案内しています。

まずは、先進医療とは何か、またどのような医療技術が認定され、どのような適応、効果があると考えられているのかなどの基本的なことから情報を得ることが大切です。保険診療だから、どこの治療施設に行っても同じなんでしょう? お任せしていいでしょう? ではなく、自分たちに必要かどうか理解するために、まずは基礎的な知識を持つことから始めましょう。

医療法人オーク会 北脇 城 先生

資格

医学博士
日本専門医機構認定 産婦人科専門医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医

役職

日本生殖医学会監事
日本女性医学学会監事

経歴

京都府立医科大学卒業
同大学教授、附属病院長を経て、名誉教授
2022 年よりオーク会勤務

ホームページを開く

関連記事

最新記事