不妊治療の先生に聞いてみた

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不妊治療と年齢は切り離せない
保険でも自費でも納得できる治療を
【オーク住吉産婦人科
 オーク梅田レディースクリニック
 オーク銀座レディースクリニック
 田口 早桐 先生】

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「不妊治療では年齢がすべて」と話す田口先生。
「年齢と不妊治療」を取り上げた今回のテーマに対し、ズシリと胸に響く言葉です。では、先生が日々患者さんと向き合い、治療を続ける中で考えているのは何でしょう? 最近の傾向なども含め、お話をうかがいました。

妊娠と年齢の深い関わり

不妊治療において年齢はとても大切な要素です。年齢がすべてといっても過言ではありません。

年齢が高くなるにつれて妊娠の確率は低下しますが、具体的には30代後半から下がり始め、40代になると一段と妊娠しにくくなります。ですから、なるべく早めに治療を始めることが妊娠への近道といえます。

保険診療で生じた年齢の変化

保険診療のスタートに伴い、不妊治療を受けるご夫婦の年齢は多少下がりました。やはり、体外受精などの高額な治療は若いご夫婦には負担が大きかったと思います。子どもは欲しいけれど治療費を捻出するのは難しいから、もう少し自分たちで努力して様子をみようというご夫婦も多かったでしょう。そうした方たちにとって保険診療のスタートは治療への後押しになったに違いありません。以前は人工授精をずっと繰り返す方もいたのですが、今は人工授精を何度かしたら体外受精にステップアップする方が多いです。

一方で保険の適用外となった43歳以上の方、移植3回までと厳しい条件のついた40歳~43未満の方たちは複雑な思いがあるでしょう。同じように保険料を支払っていながら厳しい制限を課せられたわけですからね。不公平感を感じる方もいるようです。

また、40歳以上の方の場合、移植3回で妊娠しなかったら、もう妊娠は無理と思う方もいるようです。3回という制限があるのは、そういうことではとおっしゃる方もいます。

40歳未満で移植6回
40歳以上で3回の矛盾

現在、保険治療の適用になるのは40歳未満で移植6回まで、40歳以上43歳未満で移植3回までとなっています。年齢が高くなるにつれて妊娠率は下がるという事実を踏まえると、むしろ逆なのではと感じてしまいます。40歳未満で移植6回までなら、40歳以上で12回となるのが自然ではないでしょうか。それが現状はまったく逆で、年齢が高くなると保険の適用を受けられる回数は半分に減ってしまう。治療回数が減ればできることは限られてしまいます。

とはいえ現状の決まりですから仕方ありません。保険診療に限定していえば、この移植3回の範囲内でできる限りの治療をして妊娠を目指すことになります。

保険診療で生じた卵の選別

保険診療がスタートし、移植回数に制限がついたことで、治療法にも大きな変化がありました。

卵の選別です。

当院では、以前から採卵した卵はすべて凍結することを基本に治療をしてきました。仮にグレードの低い卵であっても妊娠することがあるからです。ですが、移植3回までで妊娠を目指すとなった時に、少しでも妊娠の可能性が高いであろう卵を選んで凍結する方法にシフトしました。いわゆるグレードの高い卵のみを選びだし、グレードの低い卵は破棄するのです。

例えが適切かわかりませんが、受験の足切りのようなものです。偏差値60以上に受験機会を与えて60未満には受験機会を与えない。でも実際どうなのかというと、偏差値60未満でも受験当日に良い成績をおさめることはありえますよね。妊娠にも同じことがいえて、グレードの低い卵でも妊娠することはあるのです。確率でいうと、受験のそれより高いと言えます。

ただ、限られた回数で結果を出すために、妊娠に結びつくかもしれない卵をグレードが低いという理由で破棄しているのが現状です。

同じ治療を繰り返すより
違うアプローチで妊娠を目指す

移植3回だったら3回でいかに妊娠を目指すか。1回1回の治療がとても大切なのはいうまでもありません。1回、2回、3回と漫然と同じ治療を繰り返すのではなく、適宜検査を受けてみるなどアプローチを変えるのも大事だと思います。

当院では「着床しなかったときの考え方」という説明をホームページに載せているのですが、2回移植して妊娠しなかったら着床不全の可能性を踏まえ、PGT-Aをお勧めすることもあります。ただし、PGT-Aをするためには着床間際の卵が必要なので検査のハードルは高めです。

他の方法として血液検査で免疫力を確認することもあります。免疫力が高すぎると着床しにくいからです。あとは血液凝固であるとか甲状腺、子宮内膜のERA、慢性子宮内膜炎の検査をすることもあります。こうした検査を通して着床しない原因を探り、もし原因がわかったら治療するなり、移植日をずらすといった対策をします。

ただし、検査をすれば必ず原因がわかるわけではありませんし、もしかしたら着床を妨げているかもしれないというレベルです。さらに患者さんによって必要だと思われる検査は異なるので、主治医とよく相談したうえで、ご希望があれば検査を受けてみるといいでしょう。多くの場合、検査は自費になりますから、しっかり納得したうえで受けるようにして下さい。

自費診療ならではの利点

保険診療で残念ながら妊娠に結びつかなかった場合、大半の方は自費診療に移行されます。ただ、保険診療よりもだいぶ負担が大きくなるので、経済的に厳しいと感じる方も多いと思います。

当院は銀座のほかに大阪にもクリニックがありますが、銀座の患者さんの半数は最初から保険を使わずに自費診療を選択されます。

自費診療を受ける方は、前もってかなり調べていたり、明確にこういう治療を受けたいという希望のある方が多い印象です。ご主人のお仕事の都合で病院に通うのが難しい場合など、保険診療よりも自由のきく自費診療を選択する方もいらっしゃいます。当院は土日祝日も診療に当たっていますが、これはもともとお仕事の関係などで平日の通院が難しい方たちのために設定したものです。保険診療でも土日祝日に通院することは可能ですが、休日診療の料金を別途いただいています。

今注目されている検査

不妊治療とは直接関係ありませんが、最近の傾向として保因者スクリーニングを受けるご夫婦や未婚でも精液検査を希望する男性が増えてきました。

保因者スクリーニングとは劣性遺伝子を調べるもので、夫婦双方に同じ劣性遺伝子があると、1/4の確率でその病気のお子さんが生まれるというものです。現在、大半の病気は遺伝子の疾患であることがわかっているので、ご夫婦で検査をすると、お子さんがかかる可能性のある病気があらかじめ把握できるわけです。

また、男性で精液検査を受ける方も増えてきました。既婚、未婚にかかわらず、自分の状態を知っておきたいということのようです。若い時のほうが状態がいいという理由で精子を凍結保存する方もいらっしゃいます。

オーク住吉産婦人科
田口 早桐 先生

経歴

川崎医科大学卒業、兵庫医科大学大学院卒。専門は「抗精子抗体による不妊」。
学位論文はIdentification and Characterization of a sperm Peptide Antigen Recognized By a Monoclonal Antisperm Autoantibody Derived from a Vasectomized Mouse.(掲載誌 Biochemical and Biophysical Research Communications.)
府中病院を経て、医療法人オーク会勤務。
体外受精に関して、排卵誘発法を含めた治療戦略をしっかり立てることが大事との信念で、個人個人の状態に合わせた方針を決めることに力を注ぐ。

資格

日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
母体保護法指定医
臨床遺伝専門医制度委員会臨床遺伝専門医
日本再生医療学会会員

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