不妊治療の先生に聞いてみた

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タイミング療法と人工授精
【とくおかレディースクリニック 徳岡 晋 先生】

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自分たちで合わせるタイミング法と、クリニックでのタイミング法の違い

自分たちでタイミングを合わせる場合、排卵日を予想することが一般的です。

排卵日の予想は、多くの人が月経周期を参考にしていると思います。

生理周期の長さから14日を引いた日に排卵が起こると考えられるので、生理が順調に来ている方は月経周期が約28~30日なので、排卵日は14日前後にあたります。

周期が長い方は、例えば月経周期が35日の場合、排卵日は21日前後に起こることが予想できます。

他には、自分で体温を測って基礎体温の変化から排卵のタイミングを測定する方法もありますが、「体温は低温期、排卵前のわずかな下降、そして高温期への上昇、生理直前の下降」といった教科書にあるような綺麗な2層のグラフとは異なり、実際の基礎体温はギザギザとした変動があります。

患者さまからも「基礎体温が変動してギザギザです」という質問をよく受けるため、体温や周期から排卵日を正確に測定するのは非常に難しいと思います。

不妊専門クリニックで排卵日を予想する場合、卵胞計測と血液検査を組み合わせておこないます。

卵胞計測は、超音波検査によって卵胞を観察し、今の卵胞が何ミリの大きさになっているのかを確認し、その大きさや卵胞の数、成熟度を評価し、排卵のタイミングを予測します。

血液検査は、排卵を促すLH(黄体形成ホルモン)の値が重要です。低い値はまだ排卵が起こっていないことを示し、その後、LHサージ(LHの分泌量が急増)が起こり、排卵を促すトリガー(引き金)となる値が、通常25程度です。LHが25を超えると、大体36時間後に排卵が起こると予測されます。

尿中のLHレベルをチェックする、市販で購入可能なLHチェッカーがありますが、それを併用しても、排卵日の予測は確実ではない面があります。やはり、クリニックでの卵胞計測が一番重要です。

卵胞の直径は、自然な場合には16ミリから18ミリ程度ですが、排卵誘発剤のクロミッドを使うと、それ以上の大きさにならないと排卵はしませんので、18ミリから24ミリ程度の大きさになるまで待ちます。

それにプラスしてタイミングをとっていただくのですが、排卵を確実に促すためのトリガーとして、HCGの注射を使うことがあります。その他に、保険適用ではないのですが、鼻からのスプレータイプのスプレキュアやブセレキュアも使用して、排卵を確実に促します。
ですから、自分たちでできるタイミングと医師によるタイミング療法の違いは、排卵日をより確実に予想できることと、薬で排卵日を調整することもあるということになります。

シリンジ法

シリンジ法は専用の器具を使用して自分たちで精子を腟内に注入する方法ですが、注入する際には、細菌感染に注意しなければなりません。男性も女性も意識的に清潔にされていると思うのですが、性交渉をはじめ腟内に異物を導入する行為は無菌ではないため、注意が必要です。
気を付けていてもどうしても細菌や 異物が混入する可能性があり、それが女性の腟内に注入されることで腟炎や頚管炎、子宮内膜炎などのリスクが生じ、妊娠を妨げる可能性があるため、あまりお勧めはしたくないです。

また、シリンジ法は性行為よりも女性にとって多少なりとも痛みが伴うと考えられるため、注入する際は腟粘膜を傷つけないように気をつけなければなりません。

2022年の4月から不妊治療が保険適用になり、タイミング療法や人工授精なども保険診療で受けることができるようになったので、シリンジ法ではなく、より安全で確実な方法で精子を子宮内膜まで注入することが可能ですので、シリンジ法を試すなら病院やクリニックにかかった方がよいと思います。

人工授精について

人工授精とは、精液を調整(洗浄・濃縮)することで集めた精子を、女性の排卵に合わせて子宮腔内に直接注入する方法です。精子が子宮腔内まで到達しない可能性を排除することが出来ます。

人工的に精子を子宮腔内へ入れますが、に受精から着床に至るまでの過程は自然妊娠と同じです。

人工授精1回あたりの妊娠率は10%前後ですが、女性のご年齢や、精子の状態によって変動します。

おおまかな人工授精の流れは、以下の通りです。
①月経1~5日目に超音波検査を行い、その周期に発育する卵胞数を測定します。
②おおよそ月経9~12日目に卵胞の発育を確認して排卵日を予測し、人工授精を行う日を決定します。
③おおよそ月経12~14日目に精子の提出あるいは院内採精をし、人工授精を行います。
④おおよそ月経19~21日目に排卵の確認を行います。

人工授精自体は保険適用で5,460円ですが、検査代や薬代等も含めると1万円~1万5千円くらいが一般的です。2回目以降は検査代がかからないので、7千円前後になるかと思います。

タイミング療法から人工授精へのステップアップのタイミング

タイミング療法から人工授精へのステップアップの提案は、治療の期間で決めております。その期間を決める上で参考になるのが、AMH検査の値です。AMH値が低い方には、何周期ものタイミング療法はおこなわず、早めに人工授精にステップアップする傾向があります。

AMH値が低くなくても、妊娠を早く望むのであれば、早い段階でもステップアップしていいと思います。

妊娠するためには、子宮の中に精子がしっかり入ることが必要です。子宮に入ってから卵管に進み、卵管の膨大部で卵子と受精しなければなりません。つまり、卵子と精子が出会い、受精卵になることが大事なので、多くの先生は、タイミング法やシリンジ法にあまりこだわらない方が良いと考えております。

人工授精から体外受精・顕微授精へのステップアップのタイミングは?

こちらもAMH検査の値を参考にする他、一般的には4~6回くらい人工授精をしても受精しなかった場合にステップアップを勧められることが多いです。なぜかというと、人工授精で妊娠した人の約9割は6回までで妊娠しているからです。

逆に言うと、人工授精を7回以上行っても、妊娠する可能性は低いという事になります。

もちろん妊娠する可能性が0というわけではありませんが、人工授精では解決できないなにかがあると考えられるため、追加で検査をしたり、体外受精・顕微授精へステップアップするということが多いです。

特に、時間的な余裕がない場合や、卵管に詰りがあるといった人工授精では解決できない問題がある場合には、最初から体外受精・顕微授精を勧めるということもあります。

しかし、いくら妊娠率が高くなる見込みがあったとしても、患者さまの気持ちを置いてきぼりにしてどんどん治療を進めていっても、患者さまが戸惑って足踏みしてしまうことがあります。

自己流でやっても妊娠しにくいから勇気を出して来院してくれたのに、治療についていけないと「やっぱり自分たちで頑張ろう」となり、それで妊娠が遠のいてしまって、結果として妊娠できなかったら本末転倒です。

ですから患者さまの気持ちに寄り添い、治療をうまく進めていくことを大切にしております。
そのための根拠としてもAMH値を知っておくことは、治療の判断材料として非常に有益だと思います。

とくおかレディース
徳岡 晋 先生

経歴

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  • 防衛医科大学校卒業
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  • 同校産婦人科学講座入局
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  • 防衛医科大学校附属病院にて臨床研修
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  • 自衛隊中央病院(三宿)産婦人科勤務
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  • 防衛医科大学校医学研究科(医学博士取得課程)入学
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  • 学位(医学博士)取得(平成12年)
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  • 平成12年 木場公園クリニック (不妊症専門) 勤務
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  • とくおかレディースクリニック開設

資格

日本生殖医学会 認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会 認定産婦人科専門医

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