公開日
年齢が高いから妊娠しない、何度胚移植しても妊娠しないでも、諦めないで!
PRP治療が妊娠への扉を開いてくれることもあります!
【高木病院不妊センター 小島加代子先生・野見山真理先生】
PRP治療の対象は?
私たち高木病院不妊センターでは、体外受精において、何度も良好な胚を移植しているにも関わらず着床しない人、なかなか妊娠しない人を対象にPRP(多血小板血漿)治療を行っています。
PRP治療が生殖医療に導入された当初は、子宮内膜が厚くなるとされていましたが、さまざまな論文や報告から、子宮内膜が厚くなるのではなく、着床しやすい環境に整える効果があるとされています。
PRPは、自分の血液から抽出される血小板を多く含んだ血漿(PRP)のことで、採血したその日に遠心分離機にかけて、分離された上清(上澄み)から抽出し、移植用カテーテルで子宮へと注入します。胚移植周期には、PRP治療を2回行ってから胚移植をします。
高木病院不妊センターは、PRP治療において、2019年10月に厚生労働省から認可を受けた九州初の治療施設で、同年11月からこの治療を実施しています。
PRP治療の効果は?
年齢が高くなると妊娠が難しくなり、その多くは、卵子の質の低下によるものと考えられています。
しかし、年齢を問わず、良好胚を移植しているのに着床しないことがあります。それが何度も続くと、胚だけの問題とは考えにくいのです。
そのなかには、子宮内膜に要因があると考えられるケースもありますが、女性ホルモン剤の投薬治療を行って、それでも着床、妊娠に結びつかないケースもあるのです。
そうしたことが繰り返されれば、患者さんも相当辛いでしょうし、私たち医師やスタッフも「どうして?」と、悩むことも多くあったのです
今は、着床の窓や子宮内フローラなど、胚を受け入れる子宮環境に関して、わかってきたこともだんだんと増え、できる治療も増えてきました。PRP治療も、その1つです。
PRP(多血小板血漿)には、PDGF(細胞増殖・細胞修復)、VGF(血管新生)、TGF(細胞増殖・コラーゲン分泌促進)、IGF(細胞増殖・遊走促進)などの成長因子が豊富に含まれ、難治性着床障害だけでなく、幅広い医療分野で用いられています。
たとえば、整形外科では靱帯損傷などの治療のために。歯科では、インプラント治療での骨再生治癒のために。美容医療では、肌再生治療のためになどです。不妊治療の分野では、子宮内膜を着床しやすい環境に整えてくれると注目されている再生医療です。
実際に、高木病院不妊センターでも、PRP治療後に着床、妊娠成立した人は多くいます。
ただ、反復不成功例の人がPRP治療を行って、万全を期して凍結融解胚移植をしても妊娠に至らないこともあります。治療費も高く、患者さんの落胆を考えると、私も辛く思いますが、PRP治療を行った1周期だけではなく、翌周期に凍結融解胚移植を行った人にも妊娠例があります。
ですから、PRP治療の効果はある程度、持続するものと考えています。
PRP治療の対象とこれまでの成績は?
高木病院不妊センターでは、40歳以上の患者さんが3分の1を超えています。20年前と比べると患者さんの数も増えましたが、特に40歳以上の患者さんが2倍以上になり、それだけ妊娠が難しい患者さんが増えたともいえます。
年齢が高くなれば、卵子の質の低下や染色体の数に問題のある胚が増え、胚の発育や着床に影響を与え、また流産も増えます。これはPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)によって、染色体の数に問題のない胚を移植することで妊娠が期待できるでしょう。
PGT-Aは胚に問題があると考え、胚からアプローチする方法です。
では、良好胚を何度も移植しているにも関わらず着床しないのは、胚だけの問題か?といえば、そうではないようです。
私たちは、これまで138周期、115人にPRP治療を行いました。
患者さん115人あたり、臨床的妊娠(胎嚢が確認できた妊娠)は26人(22.6%)、生化学妊娠(化学流産)を含めると38人(生化学妊娠 38.0%)になります。
臨床的妊娠をされた人のうち7回以上胚移植を繰り返しても妊娠されなかった人が5人(19.2%)、44歳以上の人が3人(25.0%)そのなかには45歳という高年齢の人もいます。また、PRP治療後の次周期で妊娠した人は5人(13.2%)でした。これまで着床しない、生化学妊娠も流産も経験されず、辛い思いをされてきた反復不成功例の人たちばかりです。
このような体外受精ー胚移植を繰り返しても妊娠しなかった人たちが、妊娠して、赤ちゃんを授かることに、私たち医師をはじめとするスタッフもPRP治療に手応えを感じています。
凍結融解胚移植とPRP治療
高木病院不妊センターでは、PRP治療は、主に凍結融解胚移植周期で行っています。
凍結融解胚は、初期胚の場合もあれば、胚盤胞の場合もあります。また、移植周期はホルモン補充周期か、自然周期になります。
凍結融解胚盤胞移植の場合のPRP治療のスケジュールは、ホルモン補充周期か、自然周期か、または人によって、通院日や回数に違いはありますが、月経開始から2~4日目に1回目の受診をしていただきます。PRP治療は、月経周期の10日目前後に1回目、12日目前後に2回目のPRP投与を行います。間隔としては、1回目投与から約2日後に2回目の投与となり、当日から2日後にエコー検査で子宮内膜の状態や厚さを確認して、約6日後が胚移植日になります。
PRP治療を行うにあたって、特に大きな注意はありませんが、妊娠判定日までは性生活を避けていただくことや、ホルモン補充周期の場合は薬を忘れないようにしていただくことなどを伝えています。
すべては患者さんのために
良好胚を移植しているのにも関わらず妊娠が成立しない場合、胚の問題はPGT-Aをして、染色体に問題のない胚を移植することで妊娠が期待できます。
子宮の問題については、着床の窓の検査をすることで胚移植をするタイミングがわかり、子宮内フローラや慢性子宮内膜炎などの検査で、子宮の環境を知ることができます。そして、着床環境を整えるPRP治療と、できることが増えてきました。
「ここまでやったけど、赤ちゃんが授からなかったんだから…」「もう年齢的に難しいのかな…」と治療を諦めてしまいそうなカップルも、いろいろな治療で赤ちゃんを授かるケースが増えています。
では、どの検査を、どの治療を選択すれば良いのかとなると、その優先順位や組み合わせは、カップルごとに違います。また、検査や治療の費用は高額ですが、妊娠への期待も高まっていますから、諦めずにトライしてほしいと思います。
これまで紹介してきたPRP治療については、何度も何度も胚移植をされてきた人が、初回のPRP治療で妊娠している症例は少なくありませんし、翌周期の胚移植で妊娠されている人もいて、そのなかには、年齢の高い人もいます。
体外受精を受けられるカップルのなかでも、対象となる人は少ないのですが、PRP治療導入前であれば、繰り返し胚移植をするか、諦めるかだったかもしれません。また、通院されている病院やクリニックでPRP治療を行っていなくても、ぜひ、医師に相談してみてください。
高木病院不妊センターでは、PRP治療だけを受けに来る人もいます。そして、PRP治療だけを受けられて、もともと通われている病院やクリニックで胚移植をして、妊娠した人もいます。
妊娠しない理由がよくわからないまま、何度も胚移植を繰り返しているのなら、いろいろな情報を仕入れながら、医師に相談しましょう。
すべては、赤ちゃんを授かりたいと願うカップルのためにある検査や治療です。
高木病院 不妊センター 小島加代子 先生
専門医
医学博士
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
経歴
佐賀医科大学卒業
福岡シミュレーション医学センター長
国際医療福祉大学大学院教授
佐賀大学医学部臨床教授