不妊治療の先生に聞いてみた

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これまでと大きく変わることなく保険診療による体外受精を受けることができます。
【峯レディースクリニック 峯克也先生】

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保険診療による不妊治療・体外受精がはじまり2ヵ月が過ぎた2022年6月、峯レディースクリニックを訪ね、診療の様子や患者さんたちの声をうかがってきました。

これまでの体外受精と保険診療による体外受精の違いには何があるでしょう?
どのように治療を選択していけばよいのでしょう?

保険診療では、受けられない治療があるのでしょうか?など、さまざまな気になることをお聞きしました。

保険診療が始まって患者さんは増えましたか?

新規の患者さんは、従来から1日に4人までとしているので、大きく減ったり増えたりはしていないのですが、保険診療が始まって、「人工授精を受けたい」「体外受精を受けたい」と、希望する治療があって訪れるカップルが増えたように思います。

それも比較的若い年齢層が増え、なかでも20代のカップルが増えたことからも、これまでの不妊治療、とくに体外受精にかかる医療費が大きな負担になっていたのだと改めて思っています。

2022年度より保険診療になり、医療費の負担が軽減され、これまで経済的な理由から、不妊治療・体外受精に踏み切れなかったカップルが受診しやすくなったことは、とても良いことだと考えています。

保険診療がはじまって、診療の様子はいかがですか?

4月は凍結胚移植を保険診療で行う方が多く、5月の連休明けより保険診療で採卵を本格的に始めております。

ただ、2022年は、保険診療への移行年ですから、助成制度を1回は使うことができるため、保険診療ではなく助成制度を活用する人も多いです。

保険診療がスタートしてからは、初診の場合、一般不妊治療(タイミング療法、人工授精)を目的とするカップルも多く、体外受精については、これから徐々に増えていくと考えています。

ただ、保険診療による体外受精には年齢制限があり、43歳以上の女性は、保険診療で体外受精を受けられません。

そのため、年齢の高いカップルは「治療をしてはいけない。子どもを望んではいけないと言われているみたい」と見放されたと思われている人もいます。

年齢制限は厳しいと感じますが、これまでの助成制度でも年齢制限や回数制限が設けられていて、それと同様の内容になります。

また、皆保険制度は、一人ひとりが保険料を出し合い、助けあい、支えあうことで成り立っていますから、保険診療は自分の希望だけで進められないという窮屈さもあります。

その辺りも考えてみましょう、とお話して納得していただいています。

保険診療と自由診療、体外受精の治療方法に違いはありますか?

私たちがこれまで行ってきた治療方法や検査などのほとんどが保険診療か先進医療で認められたので、大きく変更する、違いが出るということはありませんでした。保険診療にするから治療方法や用いる薬を変えるとなると大変ですが、これまでと同様の治療を提供することができています。

ただ、薬の用い方や検査回数が決められている保険診療では、その制限を超えることができないため、少し工夫が必要です。

たとえば、低刺激法で、クロミフェンを用いて排卵誘発をした場合、保険診療では1日2錠を5日間が限度で、それ以上処方することができません。そのため、必要に応じてアンタゴニスト注射で排卵を抑制するなどの工夫をしています。

また、採血や経腟超音波も保険診療では頻回に行うことができませんので、自宅で自己注射を行うことなどで診察回数を減らす工夫をしております。

自己注射に不安を持たれる患者さんもおられますが、我々が指導をしっかり行いますし、自己注射用に開発されたペン型の製剤があります。ペン型の製剤は、薬剤の液量が少ないためか、痛みが少なく今までの注射よりもこちらの方が良いという声も多く聞きます。

自由診療では高額なペン型の製剤は使いづらい面がありましたが、これも保険診療のメリットと考えています。

保険診療による不妊治療

保険診療による不妊治療 スマホ用

採卵日の決定についても心配はありませんか?

経腟超音波検査、ホルモン検査の回数についても、1周期で行える回数に制限があります。そのため、低刺激の場合は月経6日目、高刺激の場合は月経8日目など排卵が起こらないタイミングでの診察日を後方へずらし、採卵を決定する付近の日に複数回行えるようにスケジュールしています。

こうすることで急なホルモン環境の変化にも対応し、排卵済みで採卵ができないということが起こらないように工夫しています。

しかし、それでも急に変化する人もいらっしゃるので、自由診療と比べると緊急採卵になるケースが増えたと感じています。

保険診療での妊娠例はありますか?

保険診療開始早々から、一般不妊治療、または2022年4月以前の凍結胚による妊娠例が出ています。

採卵からスタートした症例も妊娠例が出始めてきました。

私たちのクリニックでは、保険診療であっても、排卵誘発方法に大きな差がないため、質の良い卵子が確保できないとか、個数が少ないなどの心配も特になく、これまで同様に治療を進めることができています。

体外受精を続けている人は、保険診療で?自由診療に?

これまで体外受精を受けてこられた人も、4月からは保険診療で治療を続けられている人が多いです。治療方法に大きな変更点はないので、医療費の負担が少ない保険診療で受けたほうがメリットも大きいと思います。

保険診療で受けようか、自由診療で受けようかと悩まれるのは、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)を受けている人たちです。

PGT-Aは保険診療にはならず、2022年6月時点でも先進医療と認められていません。そのためPGTーAを希望される場合は、自由診療で体外受精を受けることになります。

自由診療の場合、医療費は全額自己負担となりますが、それでもPGT-Aを受けたくて自由診療を選択するカップルもいれば、PGT-Aは受けずに保険診療で体外受精を受けるカップルもいます。どちらを選択するかは、さまざまな考え方がありますし、経済的理由もあるでしょう。

特に流産を経験されている人は、悩みどころだと思います。

また、女性が43歳以上のカップルは、自由診療で体外受精を受けるケースもあれば、年齢制限、回数制限のない保険診療による人工授精に治療を切り替えるケースも出てきています。

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スタッフのみなさんの様子はいかがですか?

保険適用化に伴って一番大変だったのは、受付や医療事務のスタッフだと思います。保険適用化については、受付や医療事務のスタッフが、すごく勉強してくれたので、順調に保険診療が始めることができました。

患者さんへの医療費の請求に間違いがあってはいけませんし、2022年度中の1回は、助成金を申請して治療を受ける患者さんもいます。そのため申請書などもあり大変だと思います。また今後は、生命保険に関する書類なども多くなりそうです。レセプト業務だけでも大変ですが、スタッフは本当によくやってくれています。

培養室については、これまでとあまり変わりはありませんが、保険診療では扱い方が変わる培養液もあるので、注意しながら進めてくれています。

受付、培養、看護と本当によくやってくれているので、保険診療をスムーズに行うことができています。

それぞれの仕事がしっかりできていないと、患者さんたちも不安になりますので、スタッフたちには感謝しています。

初診から体外受精をしたい、採卵を続けて受けたい、などの要望はありますか?

保険診療では、希望すれば体外受精を受けられるわけではなく、その治療を行うための理由、医学的根拠が必要になります。卵管が閉塞していたり、精子の数が少なく自然妊娠や人工授精などの一般的な不妊治療の効果が望めない人、人工授精などを行っても妊娠に至らなかった人、女性の年齢などを鑑みて医師が機能性不妊と診断したカップルなどが理由になります。

体外受精を希望されても、検査結果や状態から人工授精が適応とされるケースもあります。その後、数回人工授精をしても妊娠しなければ、体外受精に治療を切り替えることになるでしょう。

年齢によっては、検査やこれまでの性生活などから体外受精が適応になるケースもあります。

ただ、人工授精での妊娠の可能性がないとも言い切れません。治療方法には適応がありますから、それは保険診療や自由診療の区別なく、一人ひとりの患者さんをしっかり診ていきたいと思います。

また、採卵を繰り返し行い、良い受精卵を複数貯めておきたいという希望もありますが、保険診療の中では難しいケースも少なくありません。年齢が高くなり、保険診療の年齢制限が近い場合など、なるべく採卵をしてと考える人もいて、その気持ちもわかります。

医学的根拠があれば、採卵を繰り返すことは認められることもあるようですが、それには明確な判断基準がありません。

そのような中で採卵を繰り返してみたものの、保険診療として認められなかったとなれば、その周期の全てが自由診療になってしまいます。

その辺りは、今後の課題で、1つのクリニック、また医師の裁量ではなく、保険診療としての明確な基準があれば、患者さんも、私たち医療を提供する者も戸惑うことがないでしょう。

保険診療による不妊治療はメリットが多いですか?

これから保険診療による妊娠率が出てくるので、現段階で一概にメリット、デメリットを十分にお伝えすることができませんが、医療費の負担が軽減されたことは、みなさん、喜んでいます。

保険化により増えたご負担といえば、夫婦同席で治療計画の説明を聞いていただくことが挙げられます。

特に体外受精の場合は治療開始時に必ず同席で治療計画を立てなくてはなりません。同席は、おふたりにとっては大変なことですが、女性に治療を任せずに男性も治療に積極的に参加するようにという国からのメッセージであること、ビデオ通話でも同席と認められることを説明すると、みなさん理解して、都合をつけてくれています。

生活スタイルはさまざまですから、ビデオ通話が認められるようになったように、今後も、仕事と治療を両立しやすい体制が徐々に整えられていくのではないかと思います。

不妊治療は、子どもを授かるための治療です。

病院に行くことをためらう気持ちもあるかと思いますが、思い悩んでいないで、相談だけでもいいので、来ていただければ力になれることがあると思います。

峯レディースクリニック 峯 克也 先生

専門医

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
臨床遺伝専門医制度委員会臨床遺伝専門医
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)
東京都難病指定医
日本受精着床学会評議員

職歴

木場公園クリニック
新宿ARTクリニック

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