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モザイク胚しかなかったら、どうすればいいでしょうか。
【峯レディースクリニック 峯克也先生】
PGT(着床前診断)とは?
PGTは、体外受精を行い胚盤胞へ育った胚の栄養外胚葉(将来胎盤になる細胞)の6~10個程度を採取して、染色体を検査することです。
日本では、日本産科婦人科学会による多施設共同の臨床研究の研究分担施設として認定を受けた病院、クリニックなどで、対象となるカップルが検査(PGT-A、PGT-SR)を受けることができます。この検査から問題のなかった胚を移植することで、流産を減らし、移植あたりの妊娠や出産の可能性を高めることが期待できます。
対象
1、体外受精-胚移植の反復不成功のカップル/直近の胚移植で2回以上連続して臨床的妊娠が成立していない
2、習慣性流産のカップル/過去の妊娠で臨床的流産を2回以上反復し、流産時の情報が得られている
3、染色体構造異常をもっているカップル/転座、逆位、重複などの生殖に影響する染色体構造異常がある
PGT(着床前診断)には、PGT-A、PGT-SR、PGT-Mがあります
Aは、aneuploidy(異数性)の略で、受精卵の染色体の数を調べ、異常がない受精卵を子宮に移植することで、流産を減らし、胚移植あたりの妊娠率や出産率を高めることを目的としています。
SRは、Structural Rearrangemen(構造異常)の略で、夫婦の染色体の形の問題から、胚の染色体にも同様の問題が生じ、流産を繰り返す場合に対象となる検査です。
Mは、Monogenic(単一遺伝子)の略で、重篤な遺伝性疾患を持つ子どもが生まれる可能性がある夫婦を対象に行う検査です。重篤な遺伝性疾患には、デュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD).筋強直性ジストロフィーLeigh脳症.副腎白質ジストロフィーオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症などがあります。
PGT-Aの結果は、どう出てくるの?
検査結果は、A、B、C、Dの4つに分類されます。
A 適(最適)/移植に問題を認めない/正倍数性の胚
B 適(準)/正倍数と異数性の細胞が混在。移植することは可能であるが、解析結果の解釈に若干の困難を伴う/モザイク胚
C 不適/移植には不適切と考えられる/異数性の胚
D 判定不能
以上の4段階で判定され、Aと判定された胚を優先して移植し、妊娠を目指します。
女性の年齢が高くなるに従って、卵子の質は低下することがわかっています。PGT-Aの結果も、女性の年齢が高くなるに従って、異数性のC判定胚が増える傾向にあります。
モザイク胚も移植してみる
「PGT-Aの結果、Aの正倍数性の胚がなく、モザイク胚だけだったらどうしましょう?」というご質問をよく受けます。
もしも、モザイク胚しかなかったら、それは移植を検討してみてもいいのではないかと思います。もちろんA判定となる正倍数性の胚を得るため採卵を再度行うことも間違ってはいません、しかしながら次の採卵で正倍数性の胚が得られるとは限りません。年齢が上昇するとそのチャンスは減ります。
モザイク胚とは、正倍数性の細胞と異数性の細胞が混在している胚のことをいいます。PGT-Aでは、将来赤ちゃんの胎盤になる細胞を6~10個採取しますが、たとえば採取した6個の細胞がすべて正倍数性ならA、採取した細胞のうちの3つは正倍数だったけど、ほか3つは異数性だったらモザイク胚でBになるわけです。
胎盤になる細胞がモザイクであっても、赤ちゃんになる細胞は正倍数かもしれません。なぜなら、染色体数などの問題のある胚は外側に掃き出される傾向があるからです。また、細胞分裂を繰り返すうちに異常な細胞は死滅し淘汰され正常細胞に置き換わる可能性もあります。その場合は、赤ちゃんに染色体数の問題はなく、妊娠して、出産できる可能性もあります。
その辺りを考慮して、モザイク胚しかないのであれば、妊娠、出産の可能性はあるので移植してみるというのも1つの方法です。
モザイク胚を移植するのに、注意することは?
モザイク胚を移植を検討する場合の注意点として、
1、どのくらいの割合でモザイク胚になっているのか
2、何番目の胚に異数性が認められたか
3、複数の染色体に異数性が認められたか
などです。
1、どのくらいの割合でモザイク胚になっているのか
モザイクの割合が40%以下の低頻度モザイクでは着床率は50%程度、モザイクの割合の高い高頻度モザイクでの着床率は20~40%程度といわれております。モザイクの割合によって妊娠率は変わりますので低頻度モザイクであればより積極的に移植を検討しても良いと思います。
2、何番目の胚に異数性が認められたか
1番や3番の染色体のモザイクがあっても妊娠が成立した場合は、胎児にモザイクが存在する可能性はほぼないと考えられますので胚移植の優先順位は上がります。妊娠が成立した場合は、異常な細胞は淘汰された可能性が高いと考えられるからです。14番や16番などの染色体の場合はより慎重になる必要があります。これらの染色体は流産の際に認められたり、異常を持ったまま生まれてくる可能性もあるからです。どの染色体にモザイクが検出されたかによっても評価は変わります。モザイク胚を移植後し妊娠となった場合は羊水検査も選択肢の一つとなります。
逆に18番、21番などの大きな番号で異数性が認められた場合、生まれてくる可能性があります。移植に踏み切った場合は、NIPT(新型出生前診断)も視野に入れてみましょう。
移植を検討?
移植したらNIPTも?
3、複数の染色体に異数性が認められたか
3つ以上の染色体にモザイクを認めた場合の妊娠継続率は10%以下とされており、モザイクが複数の染色体で認められた胚は移植の優先順位が下がります。
妊娠は難しい?
このように、モザイク胚といっても、さまざまなタイプがあります。PGT-Aを行ってもすべてが明らかになるわけではありません。好ましくない結果や悩ましい結果が出ることも踏まえたうえでPGT-Aを行うことが大切ですし、B判定の胚を移植する際は医師と十分に話し合いましょう。
峯レディースクリニック 峯 克也 先生
専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
臨床遺伝専門医制度委員会臨床遺伝専門医
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)
東京都難病指定医
日本受精着床学会評議員
職歴
木場公園クリニック
新宿ARTクリニック