不妊治療の先生に聞いてみた

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保険診療での先進医療、どんな人におすすめですか?
【峯レディースクリニック 峯克也先生】

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不妊治療に保険が適用されるようになって1年が過ぎましたが、保険診療は治療費が安くなる一方で、混合診療が認められていないという問題点もあります。保険適用前から治療していた人にとってはもどかしく感じることもあるでしょう。それをカバーするのが先進医療だといえます。比較的新しい検査や治療方法でも、この先進医療に認定されているものであれば、保険診療と併用して受けることができます。

東京・自由が丘にある峯レディースクリニック、峯先生のところでは、どのような方に先進医療を行っていて、どのような効果が期待できているのでしょう。 先生が力を入れている不育症の検査や治療の話と合わせ、詳しくお話を伺いました。

先進医療が導入されて医療側の変化は?

当院でも、もちろんご説明後、患者さんのご希望があれば先進医療の検査や治療を受けることが可能です。先進医療は、保険適用で体外受精を受けながら受けることができる医療技術(検査方法や治療法など)のことで、ゆくゆくは保険診療に組み込むかどうかが検討される診療項目です。医療上の効果が認められているエビデンスに基づいた医療技術が対象となっています。

当院でできる先進医療は、タイムラプス、ERA(子宮内膜受容能検査)、EMMA/ALICE(子宮内細菌叢検査)、PICSIです。

保険診療と合わせて受けることができますが、先進医療にあたる費用は自費で全額負担になります。

医療費負担は、不妊治療の標準治療については3割で受けることができ、経済的に少し楽になります。

自由診療で行っていた時代は、患者さんからたくさんの検査や治療を希望されることがありました。希望に沿い過ぎれば高額な費用がかかったり、肝心の治療に取り掛かるまで検査でかなりの時間を割くことになったり、本当に患者さんの為になっているのであろうかとジレンマを抱え、悩んでいました。

それでもご希望に添うようにしていた部分が、保険診療と先進医療の制度のおかげで、医療者側も患者さんに決められた診療枠内での保険診療、かつエビデンスある先進医療ということで選択肢も絞られ、治療をお勧めしやすくなりました。

タイムラプスは、ほぼ全例の患者さんが希望されます

保険診療で体外受精の治療を受けられる際、先進医療の中でも患者さんのほぼ全例がタイムラプスを希望されます。

タイムラプスは、インキュベーターに内蔵されたカメラによって培養中の胚を一定間隔で自動撮影する培養器です。

メリットとして、胚培養士がインキュベーターから胚を取り出すことなく観察できるため、胚へのダメージをより少なく、より安定した評価が可能となることがあげられます。

正常な受精がきちんと起きたかどうか、1点を見て判断するのは難しいことでも、タイムラプスであれば連続した画像で観察でき、「この時は前核が見えていた」とか「ここでは細胞が2個だったのに後で3個になった」など、より詳細な情報を得ることができます。

何よりも、胚を観察するためにインキュベーターから何度も出し入れしなくて済む利点は大きく、胚に負担をかけることなく、ベストな環境のまま観察できることは大きなメリットですね。

成長過程の画像提供もできますから、これらをご説明すると、ほとんどの患者さんが納得されます。

医療者側としては導入費用が高いという面もありますが、先進医療が認められていることで今後さらに普及しつつ、患者さんにとっても喜ばれる技術だと思います。

結果がどうであれERAは受ける意味のある検査

ERAは子宮内膜を採取し、次世代シークエンサーを用いて遺伝子の発現を解析し、内膜組織が着床に適した状態であるのかどうかを評価する検査です。いわゆる着床の窓が合っているのかを調べるものですね。

当院では良好胚を2回戻しても着床しない、または妊娠成立しない反復不成功の患者さんにおすすめしており、そのなかで9割くらいの方は受けることを希望されます。

検査を受けた方の約25%、4人に1人くらいは着床の窓がずれていたという報告があり、当院でもその程度の印象はあります。4人に3人はずれていないということになりますが、それでも受けた意味はあると思っています。というのは、着床の時期がずれていないという情報が得られ、胚移植のタイミングは今のままで良いことが確認できるからです。

EMMA、ALICE検査は結果が実感しにくいのが難点

EMMA検査とALICE検査は子宮内の細菌叢が正常なのか異常なのか、またその菌の組成を判断する検査です。これも反復不成功の患者さんにご説明をしていますが、当院では「どうしても受けたい」という方以外は積極的にはおすすめしていません。トリオといってERA・EMMA・ALICEの3つの検査を同時に受けることもできるのですが、これだと結果が出るまで1カ月程度かかってしまいます。

また、私の個人的な印象として、ERAに比べてEMMAやALICEは実感がしづらいと感じています。EMMAで子宮内の細菌バランスが悪いと評価された場合、腟剤を使って改善していくことになりますが、その腟剤は日本で販売されていないので、個人輸入という形で購入していただくことになるのもおすすめしにくい点です。

ALICEで感染性慢性子宮内膜炎がわかった場合は抗生剤を使って治療していきますが、これが着床や妊娠にすぐつながっていくかどうか実感するのは、正直、難しいと考えています。

薬を使って数カ月後に再検査をしてみるという意見もありますが、そこでまた費用と時間がかかってしまうので、治療を行った方の場合、当院では再検査はおすすめしていません。

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流産率を下げるPICSIは不育症の人に推奨しています

PICSIはヒアルロン酸を含有する培地を用いて、成熟精子の選択を行う技術です。妊娠率の向上というより、流産率を下げるというデータがあるので、当院では、これまで反復して着床・妊娠に至らない症例や不育症の方が顕微授精を行うときにおすすめしています。保険適用で不妊治療されている方は先進医療として受けられますが、自費で不妊治療を行っている方にも推奨しています。

流産を繰り返しているという条件なので、受ける方はそれほど多くいません。
「絶対ではありませんが、精子側の遺伝情報がおかしくて起きる流産が少し防げるかもしれません」とお話しています。

先進医療に関しては自費のオプションということで、費用はかかりますが、自治体によっては助成金が出たり、民間の保険を使える場合もありますので、事前によく調べて賢く利用していただきたいですね。

注目のPGTーAも、妊娠を約束する方法ではありません

先進医療Bとして認められた検査に、PGTーA(着床前胚染色体異数性検査)というものがあります。

これは体外受精で得られた受精卵の一部の細胞を取り出して生検し、胚の染色体の数に異常がないかどうかを調べる検査です。異常がない胚を子宮に移植することで流産を減らし、胚移植あたりの妊娠率を高めることが期待されています。

着床の段階でなかなか進まず、そこで時間をとられるのならPGTーAを受けて欲しいと思っています。

また、その方法が妊娠を100%保証する方法ではないと理解していること、費用にも納得していることも大切ですから、それらがクリアできる方にとってPGTーAはいい選択ではないでしょうか。

妊娠率は上がるけれど7割程度で、流産率は下がるけれど1割程度だとご理解いただきます。ただし、結果によっては、本当は妊娠できる胚を廃棄してしまうという可能性もゼロではありません。

PGTーAは、先進医療Aという一般のクリニックで行いやすい先進医療としては認められていないため、保険診療で得た胚を使うことはできません。

受ける場合は採卵から自由診療で体外受精を受ける必要もあります。

それでも特定の条件の方にとってはある程度の効果が見込まれる方法なので、受けたいと思っている方も多いのではないでしょうか。

希望される際はカウンセリングを受けることが必須となっているので、その時にメリット、デメリットを含め、詳しいこときちんと聞いてから決めていただきたいと思います。

不育症の検査や治療を受けて妊娠に対して前向きになる人も

今まで、先進医療のことをお話してきましたが、当院では不育症の治療にも力を入れています。不育症は、妊娠はするけれど流産や死産、新生児死亡などを繰り返し、結果的に赤ちゃんを得ることができない状態を言います。患者さんにとっては、とても辛いことです。

一般的には2回以上流産を繰り返す、妊娠10週目以降で原因不明の流産や死産を経験された方が不育症の定義に当てはまります。2回流産を繰り返す確率はカップル20組のうち1組くらいで、だいたい全体の5%程度ですね。3回連続だと100組のうち1組いるかいないか、1%を切る確率で症例数はそれほど多くありません。

条件に当てはまる方は、まず不育症のリスク因子の検査を行います。超音波で子宮の形状に異常がないかどうかを診たり、採血をして糖尿病や甲状腺など内分泌の病気や抗リン脂質抗体や血液凝固異常の因子の有無を調べます。あとはご夫婦の染色体に形の問題がないかどうかを調べます。

とはいうものの不育症は、まだまだわかっていないことが多く、4割くらいの方は原因不明と言われているのが現状です。わかっている原因の中で多いものとしては、胚の染色体異常や抗リン脂質抗体です。胚の染色体数の異常であれば前述したPGTーAを行うことで、1割程度、流産率を下げることが期待できます。

抗リン脂質抗体の場合、自己抗体ができると血液が固まりやすくなり、それが習慣流産を引き起こすと考えられているので、いわゆる血液をサラサラにする効果があるアスピリンというお薬を服用したり、ヘパリンという注射をおすすめして血が固まりやすい状態を改善していきます。

また、子宮の形状に異常があるという場合、その異常が流産のリスクになっているかどうか慎重に判断し、必要であれば外科的手術を行うこともあります。

流産を繰り返す人は妊娠に対して恐怖感が生まれてしまい、妊娠にトライすること自体消極的になってしまうこともありますので、まだまだわからないことも多い分野の不育症とはいえ、検査して治療することで、少しでも勇気を持っていただければと思っています。

最近ではPGTーAなど新しい選択肢も増えてきていますので、治療に前向きになってきている方も増えてきているように感じています。

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体外受精を目指す方のためには、ホルモン値検査が重要です。当院では、検査当日にホルモン値の評価ができるよう、院内に検査システムを導入しております。検査は採血から始まります。

峯レディースクリニック 峯 克也 先生

専門医

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
臨床遺伝専門医制度委員会臨床遺伝専門医
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)
東京都難病指定医
日本受精着床学会評議員

職歴

木場公園クリニック
新宿ARTクリニック

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