安全な診療をバックアップする取り違え防止システム、そしてスタッフの熱い思いと実績が自慢です。
【おくのARTクリニック 奥野 幸一郎 先生】
今回取材のおくのARTクリニックは、不妊治療の保険適用元年(2022年)に新設された、不妊治療専門のクリニックです。
病院の歴史は長く、外科医の父と産科婦人科医の姉が、外科診療と妊娠から分娩までを行っていた、地元でも慣れ親しまれた病院でした。そして前身となる父と姉の病院を幸一郎先生が、いま、日本が直面する少子化社会へのソリューションとなる不妊治療専門の病院として引き継がれています。
先生が目指す医療とはどのようなものなのかについて、じっくりとお話をうかがいました。
おくのARTクリニックとして新規開業をしています
私は、不妊治療の専門施設を新設することで病院を継承しました。それには、時代に合った不妊治療を目指したいという自分の考えがあったからです。
そして、引き続き地元で愛され、貢献できる診療を考えたときに、不妊治療の持つプレコンセプションケア、そしてリプロダクション(生殖医療)に重きをおいて患者さまに接することが大きな意味を持っていると思いました。プレコンセプションケアとは、将来、子どもをもうけて家族を形成するのに、まずは妊娠に向けて女性が自分の健康を考え、夫婦、カップルが自分たちの生活や健康に向き合うことです。つまり新しい命をさずかること、コンセプション(受胎)に向けて多角的に準備をすることを意味します。
開業に向けての方針や思い
● 方針
お産においても、ありがたいことに「奥野先生のところに行けば安心だ」とおっしゃっていただいていました。それは不妊治療専門のクリニックになっても同じで、「奥野先生のところに行けば安心して専門的な不妊治療を受けられる」という信頼ある診療所を作りたいと思って開業し、今でもその思いは変わっていません。
そして、スタッフ皆がこの思いを共有できるよう、話し合い、意見を出し合い、すべきことを掲げました。その方針が次の4つになります。
1つ目は、「患者さまを大切に、丁寧に、専属の医師が診療すること」
2つ目は、「医療設備を整えて最新の環境を提供していくこと」
3つ目は、「患者さまとスタッフの安心と安全を提供する最新の取り違え防止システムを導入すること」
4つ目に、「お子さんのいらっしゃる患者さまにも優しいキッズルームを設置すること」でした。
実際に開業してみると、不妊治療の保険適用がスタートした時期と重なったこともあり、多くの患者さまが来院してくださいました。そして、患者さまからも、「地元にここまで診てくれるクリニックがあってよかった」とのお声をいただいたときが、スタッフ一同の思いが伝わったと実感できた瞬間でした。
● 診療で大切にしていること
不妊治療に関わらず、医療においては患者さまとの対話や説明がとても大事です。それは自分が医学を目指し、学んでいた頃から強く感じていたことです。医師として、患者さまに正しい治療を提供するのは当然のことですが、まずは治療の前後にしっかりと説明をして、納得と理解を十分にしていただいた上で治療を受けてもらうことが大切です。それをしてはじめて患者さまに安心を提供できていると思います。
医師が「言う事を聞いておきなさい」という感じで患者さまに接しているのを時折見聞し、同じ医療に携わるものとして心苦しく思うこともありました。それは不妊治療に限らず、どの分野においてもいまだに残っています。ここで感じた切ない思いが、当院の治療方針のきっかけにもなっています。
実際に、当院に来ていただいた患者さまに「治療では、こういう目的のためにこういう事をしていたのですよ」と説明を差し上げると、改めてこれまで受診してきた治療の意味をご理解いただいたり再認識していただくことも多く、今までの治療経験もご理解を深めていただけるため、やはり丁寧な説明は欠かせないと思っています。ただ、説明するためにはどうしても一人当たりの診察時間がかかってしまいます。患者さまが増えれば対応にさらなる工夫や調整が必要になってしまいます。患者さまが増えれば課題もありますが、患者さまは治療を受けるのに、「今、自分が何をしているのか」「何をされているのか」がわからない治療は受けたくないと考えます。
● 充実した設備とスタッフ
また、不妊治療を行う上では、体外受精をはじめとする生殖医療に対応するための最新設備と、仕事に対する意識高い優秀なスタッフが必要です。これに関しては、開業当初から万全の体制で患者さまをお迎えしないといけないと思っていましたから、そこは最高の設備を整えて優秀なスタッフにも恵まれたと自負しています。特にスタッフの意気込みは強く、患者さまの大切な卵子や精子、受精卵やその培養に携わる仕事に患者さまの願いが届くように精魂を込めています。私は、そういう姿勢にこそ、受け継ぐべき安心や信頼、安全があると感じています。
そして、スタッフのチームワークも出来上がりました。
スタッフのチームワーク
患者さまを大切にして丁寧に診療を進めるためには、患者さまに対して専属の医師が診ることが重要だと考えています。ですから、当院では個人の患者さまに対して個人の医師(私)が診ています。そのため患者さまのことはよく把握できています。しかし、医師にはなかなか話せないことや相談しづらいこと、聞きそびれるようなことも出てきます。そこで、診察後の院内処方を行う時に、看護師が薬の説明をした後でお話を伺い、カウンセリングの時間を設けています。
看護師なら同性のため、話しやすいということもあるでしょう。そこで得られた情報は医師にも届き、共有が図れますから、その後に理解を深めた診療へと結びついています。
体外受精の患者さまでしたら、胚培養士にとっても患者さまのご意向が分かることで、卵子や精子、そのベストな受精と、その後の受精卵の管理にも結びつくこともあるでしょう。もちろん私の診察とリンクしていますから、患者さまの卵(受精卵・胚)の状況は詳しく私のところに報告され、さらに共有できます。
不妊治療は、まずは受付で患者さまと接するところから、あるいは電話で問い合わせを受けたり予約案内をするところから始まります。そのスタートから、我々スタッフのチームワークの良さも当院の自慢の1つです。それがあるからこそ、患者さまの困っていることや要望も共有しやすく、日頃の診療や今後に向けての治療計画が立てやすく、患者さまの思いに最大限寄り添えていると考えています。
安全監視システム
生殖医療において、取り違えは絶対あってはなりません。そのために当院では、患者さまが安心してサンプルを預けていただけるように、万全の設備を整えているつもりです。
また、培養室内の業務では、特に受精卵や配偶子の管理が必要です。検体に接する機会のあるスタッフにとって、ミスは避けなければなりません。日頃から複数のスタッフによる作業のダブルチェックを必ずおこなっているのですが、仕事の重要さを理解しているからこそ、その作業を間違えられないという重圧も感じています。そこで当院では、採取された検体情報は診察券に紐づけられ、お預かりした時から、誰が、どの工程でどのように扱い、治療がどのように進められているかを電子的に管理できるクーパーサージカル・ジャパン社のサンプル取り違え防止システム、RI Witnnessを導入しています。
もちろん、院内ではスタッフが患者さまへの確認を何重にも行っています。内診室に移動した時、受付に行った時、診察室に入った時などの作業ごとで必ずさせてもらっています。培養室でも作業ごとのダブルチェクがあります。それらは人と人が目視や口頭でのコミュニケーションでお互いが確認しあっています。
しかし、患者さまと対面して対話をしながら個人を確認をすることはできますが、体外受精で扱っているのは患者さまの大事な精子、卵子、胚なのです。この小さな細胞は、自分で話すことも答えることもできません。そこで導入したのが、このRI WItnnessです。
これは人による確認に加え、機械による電子的な確認となるため、人と機械のダブルチェックで人為的操作のミスを防止できるのです。
このシステムがあることで、何かあったときに知らせてくれる、教えてくれる、間違いが起きそうな時にすぐに修正できる、という安心感があります。
実際に間違いが起きたことはないのですが、これがある事で作業者全員の精神的重圧も軽減でき、円滑で安心できる業務進行に繋がっています。患者さまも安心して医療を受けることができます。その2つの安心感、つまり患者さまの安心感とスタッフの安心感がとても大事だと考えています。
不妊治療をしていての喜び
それはもちろん、治療が上手くいって患者さまが妊娠された時です。妊娠して卒業される事が、この上ない喜びで嬉しいことです。
しかし、全ての患者さまを妊娠させることはできていません。その場合でも、当院で治療した患者さまが当院を離れていかれる時に、「妊娠はできなかったけれど、色々な事をしっかり説明してもらい、できるだけのことをしてもらえたので、ここに来て良かった」と言っていただける時に感じる喜びもあります。
私たちが取り組んでいる「患者さまの声を聞き、しっかり真摯に説明する」という診療方針が間違いではなかったと実感できたときは嬉しいですし、励みになります。
それは私だけでなく、スタッフ全員が、そう感じていることだと思います。
おくのARTクリニック
奥野 幸一郎 先生
経歴
- 獨協医科大学 卒業
- 公立学校共済組合 近畿中央病院
- 石井記念愛染園附属 愛染橋病院
- 独立行政法人 労働者健康安全機構 大阪労災病院
- リプロダクションクリニック大阪
資格
日本産科婦人科学会 認定産婦人科専門医
日本生殖医学会 認定生殖医療専門医