不妊治療の先生に聞いてみた

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実は、不妊かどうか、妊娠できるかどうかは検査だけではわからない。
【佐久平エンゼルクリニック 政井 哲兵 先生】

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検査で問題なしが、妊娠できるという根拠にはならないわけ

不妊の原因は、排卵の問題、卵管の問題、精子の問題などさまざまです。

とはいえ、実際に検査をすると、その中でもどのような原因が多いのか。そこで見つかった原因に対して治療をすれば、妊娠はできるのか。

保険診療が始まっているけど、保険の適用前と後では、原因の傾向や患者さんの様子などに、違いはあるのか、などなど。

今回のテーマ、不妊の原因については、私自身さまざまな疑問を持っています。そこで佐久平エンゼルクリニックの政井哲兵先生を尋ね、お話をうかがいました。

そして「検査だけではわからない原因があること」や「問題なしという検査結果からは、新たに浮かび上がる問題があること」などがわかりました。このお話は、これから治療を始めるカップル、そして治療をスタートしているけれど「何が原因なんだろう?」と不安に思っているカップルのみなさんにオススメです。

検査でわかること、わからないこと

実のところ、初診やブライダルチェックなどの検査結果からは、ふたりの体の状態が妊娠のプロセスの一部分に適合しているかどうかしかわからないのです。

たとえば女性は、月経周期に合わせて血液検査を行いますが、その結果から卵胞を育てるためのホルモンが十分に分泌されているか、排卵は起こりそうかどうかなどはわかります。

エコー検査では、卵胞が発育しているか、大きさはどうか、子宮内膜はどれくらい厚くなっているかがわかります。

男性は、精液検査から精子の数や運動する精子の数などがわかります。

もちろん検査の目的は、妊娠できるかどうか、また、どのような治療が必要になるかです。そして不妊症の場合、その原因は男女どちらか、あるいは両方にあります。ただし、将来の赤ちゃんはふたりの間に授かるわけですから、ふたりで検査を受けることが重要です。

それぞれが別々に受けても、カップルの問題まではわかりません。

ですから、ふたりで検査を受けることが大事。その結果から次にどのように妊娠に取り組んだらいいのかが見えてきます。ぜひ、ふたりで検査を受けに来てください。


妊娠のプロセスに問題がなければ、妊娠しているはず

妊娠するためのプロセスで必要なのは、射精、排卵、受精、着床です。これらのことが次から次へと問題なくクリアしていくことで妊娠は成立します。そのどこかに問題があれば、妊娠が難しくなります。

しかし一般的には、妊娠を目指す全てのカップルに検査や治療が必要なわけではありません。ご存知のように、妊娠する人は妊娠しているからです。そして、検査をするかどうかの目安になるのが妊娠に取り組んだ期間です。

不妊の定義には「避妊しない性生活を1年以上送っても妊娠しない」ことをいうとあります。その1年は、結婚してからというカップルもいれば、結婚以前からというカップルもいるでしょう。

つまり、妊娠のプロセスに何も問題がなければ、多くのカップルは1年くらいの間に性生活で妊娠しているのです。しかし、1年くらい経っても妊娠しないカップルは、どこかに問題があるのかもしれません。

その「どこに問題があるのか」を調べ、「どのように妊娠に取り組んだらいいのか」を知るのが不妊検査なのです。実際に初診やブライダルチェックでいらっしゃる患者さんの中には、すでに不妊の定義に当てはまるカップルが多くいらっしゃいます。

検査では何を見て、何を判断するのか

検査でわかるのは、「排卵に問題がある」「卵管に詰まりや細い箇所がある」「精子が少ない」などですが、検査によってそのどこかに問題が見つかった場合、それを補う治療(生殖補助医療)をします。排卵に問題があるのなら、排卵誘発剤を用いて卵胞を育て、排卵できるようにします。卵管に詰まりがあって自然妊娠が難しいようなら体外受精を行います。

精子が少ない場合は、その程度に応じて人工授精や体外受精を行うなど、検査の結果からどの方法であれば妊娠できるかが検討され選択できるようになります。 一般的に「不妊検査」といわれているため、検査をすることで「不妊かどうかがわかる」と考えているカップルは多いと思います。

しかし、妊娠のプロセスは大変複雑で、いろいろなことが絡み合っているため、検査でわかることもあれば、わからないこともあります。

では、何をどう見ていくのでしょう。たとえば、卵子や精子の質、卵管采の問題(ピックアップ障害)、胚の発育状況、着床の様子などです。もっと具体的にいえば、精子の数も運動率も問題ないけれど、実際に卵管膨大部で卵子と出会えているのかを確認する検査はないのです。

これらに問題があると考えられるカップルは、精子と卵子が出会えず、受精以降が起きていないものとして、体外受精で妊娠に臨むことが多くなります。

こうして検査で見て、判断した結果、治療方法として体外受精があります。

では、体外受精をしたら妊娠するかといえば、そうではありません。もしそうであれば、妊娠率は100%です。そこが難しいところです。したがって、検査でわからなかったところに、何か問題を抱えている可能性があると考え、そのために妊娠できなかったと判断します。

「検査で問題なし」が問題な理由

みなさんもよく「検査結果には問題なかった」ということを聞いたことがあるかと思います。

検査結果が「問題なし」というのは、「妊娠のプロセスに何も問題がなかった」のではなく、「検査した項目については問題がなかった」ということです。

本当に何の問題もなければ、これまでの性生活で妊娠していた可能性が高いでしょう。しかし、実際には妊娠していない、またその期間が1年ほどになるという事実が「どこかに問題がある」という大切な情報となります。

そのため、卵子をピックアップできているのか、本当に受精が起こっているのか、受精後に胚が発育しているのか、着床が起こっているのかなど、「検査で明らかにならないどこかに、何らかの問題があるから性生活で妊娠ができていない」と考えることができます。

この場合は、年齢を考慮しながら、どのような妊娠への取り組み方をすればよいか、そのうえで治療を考えることが大切です。治療を受けるか、受けないかはカップルの選択になりますが、治療を受ける場合は「原因不明」として治療が始まります。原因不明の場合は、タイミング療法、人工授精、体外受精とステップアップをしながら治療することも多くありますが、多くのケースが体外受精まで進み、赤ちゃんを授かっています。

一般的な病気と違って「問題なし」という検査結果は「不妊ではない」と断定することも、「性生活で妊娠できる」との証明にもなりません。

つまり、「検査で問題なくて良かった!」にはならないのが不妊検査なのです。むしろ「検査で問題がないなら、なぜ妊娠しないの? そっちのほうが問題じゃない?」と考えていただきたいのです。

治療が不妊原因をみつけることも

治療がスタートし、その治療で妊娠できた場合、妊娠のプロセスにあった問題がクリアできたということになります。

しかし、妊娠しなかった場合は、治療周期の経過と結果から原因を推測し、次の治療周期の方法を考え、工夫したり、治療法をタイミング療法から体外受精へ変更するなどの治療計画を立てます。

すでに体外受精を受けている場合は、先進医療を併用して検査や治療を行うなどして妊娠を目指すこともあります。

最近多い原因について

男性不妊が増えたというわけではないのですが、以前に比べて精子に問題のあるカップルが多いように思います。

ただ、精子の数が少なかったり、運動率が低かったりすることが不妊の決定的な理由になるとはいえません。

精子の問題は、無精子症であればそれが不妊原因といってもいいのかもしれませんが、それ以外は不妊治療を進める中で対応できることも多くあります。

しかし、精子は、数を増やすとか、運動率を向上させる良い治療法というのはなかなかありません。日頃から食生活や運動などに気を配りながら、健康的な生活を送っていただきたいです。

そのほかでは機能性不妊、いわゆる「原因不明」のカップルが多いようです。先ほどから話に上がっている「検査で問題なし」となるカップルです。

妊娠に対する知識を深めてください

保険適用になってから、通院する患者さんは検査だけを求めてくるケースも含めて5歳ほど若くなりました。

実際に検査をしてみると、「問題なし」のケースも少なくありません。そして、その中には次に通院されるのが1年後というケースもあります。

「問題なし」に安心して1年ふたりで頑張ってみたけれど、やっぱり「妊娠しない」から不安になったので来ましたというカップルです。

そうしたカップルの多くは、最終的には体外受精で赤ちゃんを授かっています。やはり検査では明らかにならないところに不妊原因がある場合は、体外受精でなければ妊娠が難しいところに原因があると考えられるからです。

それでも、再来院からすぐに体外受精を始めるカップルは少数派で、タイミング療法、人工授精とステップを踏んで体外受精へ臨まれるほうが多いのが現状なのです。すると、検査に訪れる前の妊活期間も含めて2年や2年以上が経過していることもあります。30代前半で再来院された場合は、時間的な余裕もありますが、30代後半の場合は、卵子の質の低下などから妊娠が難しくなってしまうケースもあります。

佐久平エンゼルクリニックの累積妊娠率は、胚移植あたり約60%です。体外受精を受けるカップルの2組に1組以上は体外受精で妊娠し、赤ちゃんを授かっていますので、妊娠のプロセスと、検査を受けること、検査の結果をよく理解することが重要だとお伝えしたいです。

私たち医療者が、これから妊活を始めようとするカップル、また妊活中のカップルがより良い環境で検査を受け、妊活する、または治療を受けることができるように、妊娠の基礎知識を再度学ぶ講座や勉強会などを自治体などと協力し合って行うことも大事だと考えています。

ただ、保険適用になり患者さんが増え、通院される患者さんたちへの説明にも時間が必要で、なかなか声を広げていくことが難しい現実もあります。

通院されるカップルだけでなく、妊娠を希望し、赤ちゃんを授かりたいと願うカップル1組ひと組が妊娠や不妊に対する基本的な知識を持ち、深めていただきたいと思っています。

佐久平エンゼルクリニック 政井哲兵 先生

専門医

日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医

経歴

  • 1997年
  • 鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 2003年
  • 鹿児島大学医学部卒業
  • 2003年
  • 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)研修医
  • 2005年
  • 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)産婦人科
  • 2007年
  • 日本赤十字社医療センター産婦人科
  • 2012年
  • 高崎ARTクリニック
  • 2014年
  • 佐久平エンゼルクリニック開設(2016年法人化)

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