不妊治療の先生に聞いてみた

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妊娠の基本を知ること
自分のからだに興味を持つこと
【佐久平エンゼルクリニック 政井 哲兵 先生】

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月経や妊娠のこと
年齢と妊娠の関係を知る

治療を必要とするカップルに大切なのは、不妊治療をするための基本となる月経や妊娠のことを知っておくこと、年齢と妊娠の関係を知っておくことです。

なぜなら、治療の目的は、自分の病気を治すためではなく、新しい命を授かるための治療だからです。不妊治療は一般的な病気治療と違い、どこかに痛みや痒み、湿疹や腫れなどの症状があるわけではなく、受診するカップルのほとんどが健康体です。

よりよい治療を受けるためには、月経や妊娠などの基本を理解しておくこと、自分の体に興味を持つことが妊娠しやすい体づくりへも繋がっていくのだと思います。

それが、妊娠しやすい体づくりの第一歩となると考えています。

年齢が高いと妊娠が難しくなること

保険診療が始まって1年が過ぎ、歳以下など比較的若い年齢層のカップルが増えました。保険診療による体外受精の治療回数制限は、歳未満の女性は6回(胚移植の回数)、その回数制限内に妊娠成立するケースが多いです。ただし、そのなかでも年齢が高くなるに従って妊娠が難しくなる傾向があります。歳以上の女性の治療回数制限は3回(胚移植の回数)で、その間に妊娠成立するケースもありますが、着床しないケースや流産するケースも少なくありません。

私たちのクリニックの2023年1〜5月までの妊娠率を見てみると、全体の妊娠率は38.9%でした。保険診療による凍結融解胚盤胞移植の妊娠率は62.9%、凍結融解分割胚移植の妊娠率は17%でした。

自由診療による凍結融解胚盤胞移植の妊娠率は44.3%、凍結融解分割胚移植の妊娠率は0%でした。

年齢分布と分母にバラツキはありますが、保険診療による凍結融解胚盤胞移植を受ける患者さんは、年齢が若く、得られる卵子の数も多く、胚盤胞へ発育する胚の数も多い傾向があり、妊娠率が高くなっています。

得られた卵子の数が少なく、発育した胚の数も少ない場合は、胚盤胞まで培養せず、分割胚で凍結することもあります。凍結した胚が分割期であっても、患者さんの年齢が若いケースでは、分割期の胚移植あたり約20%の妊娠率が出ています。しかし、年齢が高く、得られる卵子が少なく、胚盤胞まで発育しない患者さんたちは妊娠率が低く、結果的に凍結分割胚移植の妊娠率は17%となっています。

自由診療の凍結胚盤胞移植については、私たちのクリニックで第1子を授かったカップルの第2子に向けた治療というケースが多く、第1子と同じ内容の治療を希望するため保険診療ではなく、あえて自由診療を選択することが多いです。第1子を授かった際に凍結保存した胚を用いているケースがほとんどで、比較的若い年齢の胚であること、妊娠した実績があることなどから妊娠率も良いです。

自由診療での凍結分割胚移植の妊娠率は0%ですが、ほとんどが43歳以上です。なかには治療回数制限を超えたケースもあり、非常に難しい症例といえます。

保険診療による排卵誘発ー採卵周期については、排卵誘発剤の量、エコー検査の回数、ホルモンチェックの回数などに制約があり、成熟した卵子を獲得するためには難しいこともあります。たとえば、卵胞の発育程度を確認し、途中で薬の種類を変更したほうがいいと判断しても、保険診療では同一周期に用いることができる薬の用い方にも制限があり、それを超えて処方することができません。あと少しの工夫で!と考えても、保険診療という枠の中で治療を続けるには、まだまだ課題があります。

このような年齢と妊娠の関係、治療方法と妊娠の関係なども踏まえながら、自分の体に興味を持って、妊娠しやすい体づくりを考えることも必要なのではないかと思います。

赤ちゃんを産む体として
自分の体を観てみる

月経や妊娠、妊娠と年齢の関係などの理解不足からなのか、妊娠や出産をする体として、自分の体はどうなのか?ということの観察や確認が足りていない患者さんが増えたように感じています。

美容的な観点でいくと、もう少し痩せたいとか、肌をキレイにしたいなどがあると思うのですが、妊娠や出産に関していえば、痩せはよくない状態です。

肥満は良くないということは、よく聞くと思うのですが、最近は肥満よりも痩せている人の方が多く、それに伴って必要な栄養素が不足していることが多くみられます。

自分が痩せているかどうかの自覚もあまりない人もいるので、一度は自分のBMIを確認してみましょう。

いわゆる痩せは、BMI18.5未満をいいます。女性の場合、月経が止まりやすくなりますが、なかにはそれ以前の数値でも月経が止まったり、周期が安定しないなどの問題を抱える人もいるでしょう。つまり、妊娠や出産は難しい状態になるわけです。

そこまでいかなくても、顔色が青白かったり、肌に艶がなかったり、虚弱に見える人もいて、そのような人たちを血液検査するとフェリチン(鉄結合性タンパク質:鉄の貯蔵および血液中の鉄濃度を維持する)不足という結果が出ることが多くあります。

貧血で治療が必要になるというほどではないにしても、慢性的に鉄が欠乏している、いわゆる【隠れ貧血】は、自覚するのは難しいかもしれません。

日に何度かは鏡を見る機会があると思いますので、顔色や肌の色艶などもよく観察したり、入浴の際には肌のハリや血管の見え具合、手足の細さ、太さなどもよく確認し、以前と比べた変化なども思い起こしながら、自分をよく観察してみましょう。

そして、それは美容的な観点よりも『赤ちゃんを産む体』としてどうか?を見ることが大切です。

フェリチンが不足すると

鉄は、卵子にダメージを与える活性酸素を除去する作用があり、鉄が不足すると卵子の染色体異常が増え、不妊や流産の原因になるといわれています。

女性の場合は毎月の月経により大量の鉄が失われるために慢性的な鉄欠乏状態になっていることがあり、高度貧血の方では、そもそも妊娠が難しくなります。

私たちのクリニックでは、初診検査にて希望者にフェリチン検査(血液検査/自由診療)を行っています。その結果フェリチン値30ng/ml以下だった患者さんには、それ以上になることを目標に鉄剤を処方することもあります。

保険診療になって、20代で検査に訪れるカップルも増えてきましたが、ヘモグロビンの値は正常でも、フェリチンがとても低い【隠れ貧血】の女性は、比較的若い年齢層に多くなっています。

痩せ型、青みがかった色白の人は、自分でも鉄分の摂取に気を配って欲しいと思います。

どのように気をつけるか
なにがポイントになるのか

これまでの話から、鉄やフェリチンが不足しないようにサプリメントを飲めばいいのかな?と考えがちだと思うのですが、フェリチンの話は、1つの例に過ぎません。実際に大切なのは、食事や栄養管理です。

たとえば、フェリチン検査の結果から食生活について尋ねることがありますが、値に問題のある人の食生活はバランスがあまり良くなかったり、朝昼晩と三食きちんと食べている人も少ないようです。

男女とも朝は食べないとか、昼はパスタやうどんなどの麺類、パンが多く、夕食が栄養摂取の中心になっているケースがよく見受けられます。お話から男性は特に、バランスの良くない食生活を送っている印象です。

みなさん、日々忙しいので食事も簡単に済ませる傾向があるかもしれません。夕食は作らずに、お惣菜に頼る、レトルト食品に頼ることもあるでしょう。

けれど、赤ちゃんを授かりたいと治療を受ける期間は、もう少し自分の体や健康、食事や栄養に気を遣った生活を送っていただきたいと思います。

お惣菜であっても、レトルト食品であっても、栄養が偏らないように肉も野菜も十分に摂取できるように工夫してみましょう。料理をする機会が少ない人は、少しずつ機会を増やし、食材と栄養について身につけていって欲しいと思います。卵子や精子を育てるためにも、少しずつ改善し、それが日常となるよう習慣づけられるようにしていきましょう。

保険診療がスタートする以前は、私たちのクリニックでは栄養や運動などについてもサポートしながら治療を進めることができましたが、保険診療になり難しいのが現状です。フェリチン以外にもビタミンDや葉酸なども重要です。

とくにビタミンDは、血液検査などからサプリメントなどで補っていると思われる人と、全く何もしていない人との二極化が最近の傾向です。これまでの私たちのクリニックを妊娠して卒業された人は、ビタミンDに問題のなかった人が多い傾向です。ビタミンDが充足しているから妊娠しやすいとは言えませんし、ビタミンDに不足があっても妊娠している人はしています。ただ、卒業者の中では、ビタミンDに不足がない人の方が多かったということが傾向として出ています。

日頃の食生活から
足りない栄養を見つける

日頃の食生活を顧みながら、足りていなさそうな栄養、摂り過ぎている栄養を見つけ、まずは食生活を改めてみることが大切です。

それでも不足しがちな栄養素はサプリメントを活用しましょう。私たちのクリニックでも、サプリメントを紹介していますが、サプリメントを飲用するにあたって大切なことは続けることです。同じサプリメントは続けて飲用することが大切です。

いいサプリメントだと思って飲み始めても、金銭的に続かないのでは意味がありません。成分もたくさん入っていればいいというものではなく、自分に不足しがちなものを不足している分だけ補うようにしましょう。そのため、1日の推奨量が4粒だったり3カプセルだったりしますが、それは自分の不足に合わせて2粒や1カプセルにしてもいいと思います。サプリメントは薬ではないので、その辺は自分に合わせて摂取しましょう。

また、毎日飲むものなので、粒やカプセルの大きさ、匂いなど苦にならないもの、飲みやすいものを選びましょう。

最後に、もう一度、まずは基本を理解してから、妊娠しやすい体づくりを考えていきましょう。

佐久平エンゼルクリニック 政井哲兵 先生

専門医

日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医

経歴

  • 1997年
  • 鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 2003年
  • 鹿児島大学医学部卒業
  • 2003年
  • 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)研修医
  • 2005年
  • 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)産婦人科
  • 2007年
  • 日本赤十字社医療センター産婦人科
  • 2012年
  • 高崎ARTクリニック
  • 2014年
  • 佐久平エンゼルクリニック開設(2016年法人化)

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