不妊治療の先生に聞いてみた

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妊娠と不妊治療・年齢と妊娠 そして、年齢と子育て
【佐久平エンゼルクリニック 政井 哲兵 先生】

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年齢と妊娠との関係は、切っても切り離せない

長野県佐久市にある佐久平エンゼルクリニックの政井哲兵先生は、初診に訪れるカップルが治療に進む時に、最初にお話しすることがあります。

お話は「何歳までに何人の子どもを授かりたいと考えていますか」という質問から始まります。ただ、どの年代についても同じように質問されるわけではなく、年代ごとに少しずつ質問の内容を変えているといいます。

変えている内容が、まさに女性の年齢と大きく関係し、年齢ごとの治療スケジュールから妊娠した後にある育児までを見据えたもので、それぞれの家族計画や治療で予測される身体や生活の変化などの準備にもつながることだといいます。

赤ちゃんを授かりたいと考えるすべてのカップルに大切なことですので、早速ご紹介しましょう。

病院に来るきっかけはカップルごとにさまざま

不妊治療に保険が適用される以前は「妊娠したい。なのに、なかなか妊娠しない。病院に行ってみようかな」と悩みに悩んで、いろいろ自分たちで調べて勉強してから訪れるカップルが多くいました。

しかし、不妊治療が保険適用になってからは治療へのハードルが下がり、「とりあえず検査してもらおう」と気軽に訪れるカップルも増えています。不妊症とは「避妊しない性生活を持っても1年以上妊娠しないこと」と定義されていますが、避妊期間や年齢などに囚われず、「病院に行ってみようかな」「検査を受けてみようかな」と思った時が、それぞれのカップルのタイミングだと思います。そのため「とりあえず」という気軽さも、意外に大切だと考えています。

この検査がきっかけになって治療へ進んだほうがいいと診断されたり、避妊しない性生活を持った期間や年齢などについての説明を受けることで、それぞれのカップルがより具体的に妊娠に取り組めるようになるでしょう。

逆に「1年経っていない」とか「年齢は高いけど」と、いろいろ考えている時は、まだ検査を受けるタイミングではないのかもしれません。ただ、年齢も時間も取り戻せません。35歳以上のカップルは、避妊期間に関係なく、早めに受診して検査を受けていただきたいというのが本音です。

赤ちゃんがほしい、そう願った時に考えるべきこと

実際に治療をはじめるカップルには、家族計画に関して、どのように考えているのかをお聞きします。

たとえば、年齢が35歳くらいまでのカップルには「何歳までに何人のお子さんを授かりたいか」と希望を尋ねます。

何歳までに何人の子どもを授かりたいかは、ただ単に希望を尋ねているだけでなく、私たち医療者にとっては治療をどのように計画していくかにつながり、カップルには子どもを授かるために治療するというその意思決定とそれに基づいた行動へとつながっていきます。

30代後半から40歳くらいのカップルには、とにかく1人の子どもを授かるために、どのように治療を考えているかをカップルへ確認することが大切です。

たとえば、検査の結果、とくに妊娠を難しくさせている原因や要因が見つからなかった場合、妊娠という結果を大事にするのか、それとも妊娠という結果に結びつくまでのプロセスを大事にするのかによって、治療計画はだいぶ変わってきます。

治療の内容や結果によっては2人以上のお子さんを望める可能性もありますが、これには個人差もあります。

授かりたいと思う気持ちが治療のスピード感へ

いつまでに何人の子どもを授かりたいか? や、とにかく1人を授かるためにと希望を聞かれても、なかなかピンとこない人もいるでしょう。

そのため、どれくらい子どもを授かりたいと思っているか、その願いの度合いも一緒にお聞きします。

なぜなら、それがそれぞれのカップルの治療のスピードにつながっていくと考えているからです。ただ、年齢によって治療のスピード感が変わることはありません。若いからといって、ゆっくり治療していていいわけではなく、年齢が高いからといってやみくもに進めていいわけでもありません。

それぞれのカップルの状態や希望、思いに合わせて、ある程度のスピード感を持って治療に臨んで欲しいと思います。

また治療途中に、希望や気持ちが変化することもあります。1回の治療周期が終わった時に、ふたりで確認することも大切です。主治医と良くコミュニケーションをとって相談し、また論文で発表されているデータも参考にしてみると良いでしょう。

治療は教科書通りにはいかない

一般的な治療のステップアップとして、タイミング療法を6周期行っても妊娠しない場合は人工授精へ、人工授精を3~5周期行っても妊娠しなければ体外受精へなどと示されることもあり、これが治療のスピード感につながってしまうこともあります。しかし、これは一般的な目安であって、それぞれのカップルに合わせて考えられたものではありません。

検査の結果、原因が明らかになれば、それに適応した治療から始めますし、年齢や妊活期間によってはもっと早く進めたり、タイミング療法から体外受精へステップアップすることもあれば、初めから体外受精へ挑戦するカップルもいます。

本に書かれている内容やネットに出ている情報と違うと不安や心配になることがあるかもしれませんが、一般的な情報が個々のカップルに当てはまるとは限りません。それぞれのカップルの体の状態は、それぞれの主治医が知っています。主治医の説明をよく聞き、自分たちの状態を知り、自分たちに合った治療を受けましょう。

不妊治療のその先を考えることも必要

カップルが不妊治療に臨む目的は、子どもを授かることです。不妊治療は妊娠をするための手段で、妊娠することは子どもを授かることへの通過目標で、その先には子育てが待っています。

「何歳までに何人のお子さんを授かりたいか」「とにかく1人授かるためには、どのように治療を受けたらいいのか」を考えた時、実年齢と子どもを授かった時の年齢、その時に起こりそうな生活の変化、家族の状況を考えることも大切になってきます。

たとえば、体外受精を受けている30代前半のカップルでも第3子まで望んだ場合、第3子目を産む頃には40歳近くになっているか、40歳を超えているかもしれません。

40歳で体外受精をはじめたカップルが順調に妊娠がかなった場合、第1子を産む頃には42歳、43歳になっているでしょう。年齢が高くなれば妊娠は難しくなりますが、妊娠後のリスクは、母体年齢が高くなればなるほど高くなります。

35歳以上になると、流産、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの増加、分娩時に起こる合併症も増加傾向にあります。

そのため、どこで出産するかは治療中から考えておきましょう。高年齢の場合はNICU(新生児集中治療室:早産児や低出生体重児、または何らかの疾患のある新生児を集中的に管理・治療する集中治療室)やMFICU(母体胎児集中治療室:早産リスクの高い母体や妊娠高血圧症候群などの合併症を持つ母体と胎児に対して集中的に管理・治療する集中治療室)を視野に入れることが必要なケースもあります。

治療施設では、妊娠後の妊婦健診や分娩施設を紹介したり、分娩施設の希望がある場合も紹介状をお渡ししています。私たちのクリニックでも、全例お渡しし、分娩の結果や、母体と生まれたお子さんの状態、様子などは患者さん自身からも報告していただいています。

育児を考える

さて、お子さんが10歳になった時、あなたたちは何歳になっていますか? その時、カップルそれぞれのご両親は何歳でしょう。また、お子さんが20歳になった時は、いかがでしょう。

子育ては、子どもが独り立ちする時まで続きます。それまで守り育てなければなりません。

そのためには、子どもが独り立ちできるまで十分な体力、精神力、経済力を持つこと、保つことが重要です。

また、子どもが独り立ちするまでの間に、自分たちの両親の介護が必要になるかもしれません。助け合う兄弟や親戚がいればいいのですが、ふたりの肩にずっしりと乗ってくるようなら、親と子どもをダブルケアしなければなりません。

体力や精神力、経済力がいくらあっても足りないでしょうし、「子どもと遊んであげられない」「親のお世話が十分できない」などジレンマに陥ることもあるかもしれません。

これから起こるかもしれないことを、本当に起こるかのように心配しても仕方ないと思うかもしれませんが、人生100年時代といわれる今日ですから、他人事ではありません。

そして、親の介護の問題は、自分の子どもが、自分たちを介護するという問題にもつながっていきます。

年齢と不妊治療

年齢と不妊治療というテーマから「卵子や精子の質の低下」「胚の染色体数の問題」「流産の増加」などの問題にばかり目や考えが行きがちになります。

しかし、妊娠する方法も、子どもを授かる方法も、カップルごとに違いがあります。

たとえば、独身時代に卵子凍結していた女性がいるかもしれませんし、もしかしたら卵子や精子の提供を受けるカップルや、養子縁組や里子などで子育てを実現するカップルもいるでしょう。

でも、子どもは授かったら終わりではありません。「年齢と不妊治療」というテーマは、その後に続く妊娠生活、出産、育児へとつながっていくもので、漠然とでも先々を考えることは大切なのではないかと思います。

佐久平エンゼルクリニック 政井哲兵 先生

専門医

日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医

経歴

  • 1997年
  • 鹿児島ラ・サール高校卒業
  • 2003年
  • 鹿児島大学医学部卒業
  • 2003年
  • 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)研修医
  • 2005年
  • 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)産婦人科
  • 2007年
  • 日本赤十字社医療センター産婦人科
  • 2012年
  • 高崎ARTクリニック
  • 2014年
  • 佐久平エンゼルクリニック開設(2016年法人化)

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