不妊治療の先生に聞いてみた

funinclinic

公開日

子宮内ポリープが着床を邪魔している?!
安全で安心できる方法:子宮鏡シェーバー
【山王病院:女性医療センター/リプロダクション・婦人科内視鏡治療部門 堤 治 先生】

記事画像

着床障害とは

体外受精において、良好胚を3回以上移植しているにも関わらず着床しないことを着床障害、または着床不全と呼んでいます。

着床障害と考えられる要因には、さまざまあります。大きく分けると胚側の要因と子宮側の要因の2つがあり、胚側の要因には染色体の問題が挙げられます。これについては、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)で染色体の数を調べ、正常と診断された胚を移植することで流産を予防し、移植あたりの妊娠率を上げることができます。子宮側の要因には、着床の窓、感染性慢性子宮内膜炎、子宮内フローラ、内膜の厚さなど着床環境の問題、また中隔子宮などの子宮の形の問題や子宮内膜ポリープ、子宮筋腫などの良性腫瘍の問題、胚を受け入れる免疫の問題などがあります。

それぞれ検査をして問題があれば、結果に合わせて胚移植をしたり、投薬治療や手術をして着床環境を整えます。

着床障害の要因の例

PRP治療からわかったこと。子宮内膜ポリープや子宮筋腫のある人が多い

山王病院リプロダクションでは、PRP治療を2019年より行っています。PRP治療は、子宮内膜が厚くならない人、良好胚を移植しているにも関わらず着床しない人などを対象に、子宮内膜を厚くする、または着床環境を整えることを目的に自分の血液から抽出した多血小板血漿(PRP:Platelet-Rich Plasma)を子宮へ注入する治療法です。PRPに含まれる成長因子の力を利用した再生医療で、厚生労働省「特定認定再生医療等委員会」の施設認定を受けた病院やクリニックでのみ実施することができます。

このPRP治療については、2019年に発足した産婦人科PRP研究会に参加する施設(2022年12月:41施設)の治療データを集積して、多施設の治療結果を分析、確認し、その効果を研究し検証ています。そこでわかってきたことの1つは、PRP治療を行う人の中に子宮内膜ポリープや子宮筋腫の手術既往がある人が多くいたことです。

子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫とは

子宮内膜ポリープは、子宮内膜にできるイボ(1cm以下から数センチのものもある)のようなもので、良性の腫瘍です。エコー検査で見つけることができますが、子宮鏡検査をすることでさらによくわかり、1個見つかる人もいれば、多数、見つかる人もいます。

子宮内膜ポリープができる原因はよくわかっていません。子宮内膜は、毎月経周期に増殖と剥離を繰り返すため、増殖膜の問題は月経期に剥離することで解消されることが多いのですが、子宮内の炎症、流産や中絶での内膜掻爬によってできた傷、ホルモン分泌の問題などによって、一部分の子宮内膜が増殖してイボ状のものができると考えられ、20代から閉経前の女性にみられます。

子宮筋腫は、子宮の平滑筋にできる良性の腫瘍で、①粘膜下筋腫(子宮内膜からぶら下がるようにできる)、②筋層内筋腫(筋層内にできる)、③漿膜下筋腫(子宮の外側の膜:漿膜にできる)などがあります。子宮筋腫ができる原因もよくわかっていませんが、女性ホルモンのエストロゲンの作用で大きくなることがわかっています。そのためホルモン分泌が活発になる30代以上の3~4人に1人にみられるといわれています。

子宮内膜ポリープも子宮筋腫も自覚症状のない人もいますが、不正出血や月経血量が増えたり、レバー状の塊が出るようになるなどの症状を訴える人や、子宮筋腫ではひどい月経痛や貧血になる人もいます。

赤ちゃんを希望する場合、子宮内膜ポリープや子宮筋腫が原因で着床しないと考えられるケースには切除術を行うことがあります。

子宮内膜ポリープは、比較的簡単な手術です。子宮鏡を使って腟から子宮の中にスコープを入れ、ループ電極で電気的に切除する手術が一般的ですが、山王病院リプロダクションでは、この手術を子宮鏡シェーバーを使って手術します。

子宮筋腫は、大きさや筋腫ができた場所によって開腹手術、腹腔鏡手術、子宮鏡手術と、子宮鏡シェーバーのいずれの方法かを選択します。子宮鏡シェーバーで切除できる筋腫は、粘膜下筋腫になります。今回は、このうちの子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫の治療として注目されている子宮鏡シェーバーについてお話しましょう。

子宮粘膜下筋腫

子宮内膜ポリープ

子宮鏡シェーバーによるポリープと粘膜下筋腫の治療

シェーバーとは、みなさんもよくご存知のようにヒゲ剃りやウブ毛剃りに使うようなもので、子宮鏡シェーバーもポリープや筋腫を確認しながら削る医療機器です。子宮鏡シェーバーは大変細く、腟から挿入して、ポリープや子宮筋腫を子宮鏡を使って確認し削ります。削ったものはシェーバーが吸い取るので、子宮内に散らばってしまうこともありません。そのため、ポリープが複数箇所あっても、ループ電極で切除するときのようにシェーバーを1回1回子宮から引き出すことなく、続けて次のポリープの治療ができます。このほか にも、シェーバーは大変細いものなので子宮頸管を拡張する必要もなく、ループ電極のように電気で切開しないため、内膜の熱損傷がないこともメリットになります。

山王病院リプロダクションでは、1泊2日で麻酔を使って治療を行っていますが、最近では無麻酔で日帰りで行う病院やクリニックもあります。体への負担も少なく、保険適用にもなる治療方法で、身体的にも、経済的にも、またその後の不妊治療の負担軽減、そして妊娠への近道にも通じる治療だと思います。

いくら子宮内膜ポリープや子宮筋腫が着床を邪魔していても、その切除の方法が良くないと子宮内膜を傷つけてしまい、さらに着床が難しくなってしまうこともあります。その後にPRP治療を行なって着床環境を改善しようにも、難しいと感じざるを得ないケースも出てきます。
しかし、子宮鏡シェーバーであれば子宮内膜の傷も少なく済むことでしょう。

この子宮鏡シェーバー治療後、着床環境が改善し、PRP治療などの高額な医療費のかかる治療を必要とすることなく体外受精による妊娠の可能性を高めることが期待できます。

子宮鏡シェーバー治療の今後の展開として、移植周期の見直しも考えています。

体外受精が保険適用となり、着床環境の改善方法の1つに子宮内膜スクラッチ(先進医療)があります。良好胚を移植しても着床しない場合、着床の前の子宮内膜にわざと小さな傷をつける方法です。子宮内膜を傷つけることによって、内膜は傷の修復の過程でインターロイキン(主に免疫に関与する細胞から分泌されるサイトカイン)などのサイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質)を分泌し、着床の促進と免疫応答の正常化が図られ、着床しやすくなると考えられています。この子宮内膜スクラッチは、保険診療と併用することができますが、先進医療なので子宮内膜スクラッチにかかる医療費は全額自己負担になります。子宮鏡シェーバーもポリープなどを削る際に、子宮内膜に擦過創ができ、子宮内膜スクラッチと同様の効果があるのではないかと考えています。

現在では、子宮鏡シェーバー治療と同一周期に胚移植を行っていませんが、子宮内膜スクラッチと子宮鏡シェーバーの効果を検討、さらに研究し、子宮鏡シェーバー治療と同一周期の胚移植の効果検討をしていきたいと考えています。

子宮鏡シェーバーと子宮鏡手術の違い


子宮鏡シェーバーイメージ動画

山王病院 名誉病院長
女性医療センター/リプロダクション・婦人科内視鏡治療部門長
堤 治 先生

経歴

東京大学卒、医学博士
前山王病院病院長
元東京大学医学部産婦人科教室教授
元東宮職御用掛
米国国立衛生研究所(NIH)留学
前日本受精着床学会理事長
元日本産科婦人科内視鏡学会理事長
元アジア・パシフィック産科婦人科内視鏡学会理事長
産婦人科PRP研究会代表世話人
日本生殖医学会代議員
中日友好病院(北京)名誉教授
国際医療福祉大学大学院教授

専門医

日本専門医機構認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医
日本内視鏡外科学会技術認定医
母体保護法指定医師

ホームページを開く

関連記事

最新記事