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不妊治療のために仕事を辞めるよりも両立する方法を一緒に見つけましょう。
【佐久平エンゼルクリニック 政井哲兵先生】
不妊治療に専念したいからと仕事を辞めないで!
自然妊娠は、排卵と性生活のタイミングが合った延長線上にあります。不妊治療でも、卵胞の発育やホルモン環境、排卵などに合わせて治療を進め、その流れはタイミング法、人工授精、体外受精であっても同じです。そのため、治療周期は卵胞発育の都合などに合わせて通院が必要となってきます。
しかし、一人ひとりの生活環境、職場環境は違いますから、卵胞の都合に合わせたくても、なかなか難しいのが現実です。通院する回数が多くなれば仕事も休みづらいでしょうし、もう無理を言えないなど、何かと職場に迷惑をかけたくないと考えることと思います。これは専業主婦にとっても同じことです。
では、仕事を辞めて治療に専念すれば良いか? といえば、そうとも限りません。
治療を途中でリタイアするカップルの理由には経済的な負担が大きいことがあげられているからです。生活をしていくにも、治療を続けるためにもお金を稼ぐことは大切なことです。それに、仕事を通して得られる達成感や自己肯定感を高め、人から必要とされることの充足感などもあります。
一方、仕事でストレスを抱えることもいろいろあると思いますが、治療にもストレスはかかります。両方からストレスを受けることでストレスが増大すると思うかもしれませんが、仕事は仕事。治療は治療。プライベートはプライベートと切り替える方法を見つけることでストレスと上手く付き合っていけるのではないでしょうか。
心身ともに疲労させてしまうストレスなら、そこから離れることも大切です。確かに、ストレスのない生活はありませんから、むしろストレスと上手に付き合えるように、ストレスはスパイスぐらいに考えるのがよいかもしれません。
治療のスケジュールを確認しましょう。
タイミング法や人工授精の場合は、毎周期治療を受けることができます。体外受精の場合は、毎周期ではないので仕事に集中する期間、治療に集中する期間、とメリハリをつけることをおススメします。
そして、治療スケジュールをある程度把握しておくことで、シフトの都合や休暇の申請についても目処が立てやすくなると思います。
タイミング法の場合
通院のペースにこだわる必要はないと思います。クリニックに来るのが難しい場合は、無理をせず、とにかくタイミングだけはしっかりとるようにしましょう。
排卵が順調な人は、自己流でタイミングをとるのと病院で排卵を確認するのとでは、そこまで大きな違いはないと思います。しかし、排卵が順調でない(排卵誘発剤の適応)人は、治療周期中は2回の通院が必要です。
1、月経1~5日目あたりの診察(排卵誘発剤の処方)
2、月経12~14日目あたりに卵胞の大きさを確認
どうしても2回目の通院ができない場合は、自己タイミングに切り替えて性生活を持つようにと私は伝えています。
人工授精の場合
治療周期中は2~3回の通院が必要です。
1、月経1~5日目あたりの診察(排卵誘発剤の処方)
2、月経12~14日目あたりに卵胞の大きさを確認
3、人工授精当日 精液も必要
タイミング法、人工授精とも排卵誘発剤を用いる場合は、多胎妊娠を避けるために多くの卵胞が発育、排卵する方法は選択しません。
しかし、体外受精になると少し話が変わります。
体外受精の場合
卵胞の大きさとホルモン値(E2、LH、P4)によって適切な採卵時期を決めています。
たった1日ずれるだけでも成熟卵子が確保できなくなることもあります。そして、成熟卵子が確保できない=受精しない原因となります。
特に自然周期法で排卵誘発を行う場合は、1日の違いで排卵済みで卵子を確保できないという事態を避けるために、採卵までの診察が非常に重要になってきます。そのため通院回数が多くなるでしょう。
佐久平エンゼルクリニックでは、体外受精を行う際、仕事との両立やスケジュールが立てやすい工夫をしています。
たとえば、自己注射ができる薬を用いて、通院回数を減らしても順調に卵胞が発育する方法や、凍結融解胚移植ではホルモン補充周期を行うことでスケジュールの調節ができるようにするなど、仕事をしながら治療をやり遂げられるよう工夫をしています。
体外受精を検討される場合は、仕事の調整が必要にはなってきます。もちろん100%の治療を目指さなくても80%ぐらいの治療でもよいという考え方もありますが、費用がかかる治療なので、できれば短期間に集中的に取り組み、短い期間で最大限の結果を出すことを考えていただいたほうが良いと思います。
「私には仕事が忙しいから体外受精は無理だ」と考えている人もいるかもしれませんが、とにかく相談してみてください。
私は、患者さんに「仕事を辞めようかなと考えています」と相談された時には、「私も頭をフル回転させて、なにかしら方法をひねり出すように努力します。だから、治療費を賄うためにも仕事は辞めないでほしいと思っています。一緒に前に進みましょう」とお伝えしています。
女性が妊娠できる期間は限られています。
女性が妊娠できる期間は限られていて、妊娠適齢期は、だいたい20代前半~30代前半の約10年間と考えたほうがよいと思います。
仕事が好き、生きがいと考えている人にとっては、まさにこの頃は、仕事をしたい!キャリアを積みたい!と考えているかもしれません。仕事は人生にハリを、そして生活にはゆとりをもたらしてくれます。
では、赤ちゃんが欲しい! でも妊娠しない…と悩んだ時、治療か仕事か、どっちを取るの? と考えた時にはどうしましょう。
これについては、本来どちらを優先すべきか選べるものでもなく、自分が悔いのない人生を送る上で両方が必要だったとしたら、両方とも自分の手に収める方法を考えましょう。このように患者さん一人ひとりの思いに1つでも多く、また理にかなった提案ができるかどうかを考えることも、私たちクリニックのスタッフに求められていることで、これも私の仕事の1つなのだと考えています。
昨今、有名人の高年齢出産の話題などの影響もあってか、40歳を過ぎても妊娠できると考えている人も多いように見受けられますが、私たち専門家と一般の認識には相当のズレがあります。
時間を巻き戻すことはできません。ただ「あの時、治療をしておけばよかった」とか「もう少し早く治療を始めていればよかった」と後悔してほしくありません。
仕事があるからなどと、治療ができない理由を見つけるのはやめて、自分が大切なものを諦めずに治療を受け、赤ちゃんを授かる方法を一緒に見つけましょう。
佐久平エンゼルクリニック 政井哲兵 先生
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
経歴
1997年 鹿児島ラ・サール高校卒業
2003年 鹿児島大学医学部卒業
2003年 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)研修医
2005年 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)産婦人科
2007年 日本赤十字社医療センター産婦人科
2012年 高崎ARTクリニック
2014年 佐久平エンゼルクリニック開設(2016年法人化)