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何度、胚移植しても着床しないのは胚の問題?
それとも着床の窓の問題?
あなたの着床の窓は、ERA検査でわかります。
【佐久平エンゼルクリニック 政井哲兵先生】
なかなか妊娠しない。その理由は何か?
着床に関しては、胚の質、子宮内膜の厚さや環境、タイミングなど、さまざまな条件が必要です。この中でもタイミングには、着床の窓が深く関係しています。
着床の窓は、胚が子宮内膜に着床できる時期のことで、一般的に排卵の4~6日後といわれています。
体外受精では、これらの条件を合わせて胚移植をすることができます。特に凍結融解胚移植では、子宮内環境を整えること、ホルモン環境を整えること、そして胚と着床の窓を合わせることができます。このように条件を整えることで、体外受精-凍結融解胚移植の妊娠率は向上してきました。
私たちのクリニックでは、胚移植あたりの妊娠率は約50%ですが、中には凍結融解胚移植-良好胚盤胞を何度移植しても着床しない。よく言われるところの「かすりもしない」という人が数人います。特に高年齢の夫婦という偏りもなく、排卵誘発・卵胞成長も順調で、採卵数も多く、受精もし、5,6個の胚盤胞が育つという人たちです。なかなか妊娠しない理由として、子宮内膜の厚さや環境、タイミングのことよりも胚の質の問題のほうが多いと考えています。しかし、条件を整えて良好胚盤胞を移植しても、着床しないことが続けば、胚の質の問題と限らず、受け入れる子宮の問題も熟慮しなくてはなりません。
着床の窓の時期に胚盤胞が子宮にあること
凍結融解胚移植では、胚の成長と着床の窓を合わせることが重要です。
たとえば、受精から5日目の胚盤胞を移植する場合は、子宮内膜も受精から5日目の着床の窓の時期であることが大事で、移植後、まもなく着床が始まります。受精から3日目の胚を移植する場合は、受精から3日目の子宮内膜へ移植します。移植から2日後には胚盤胞へと成長し、着床を始める頃に子宮内膜も5日目を迎え、着床の窓の時期となり、胚を受け入れられるようになっているでしょう。
ホルモン補充周期で凍結融解胚移植を行う場合は、黄体ホルモンの投与を開始した日を排卵日として数え、5日目に胚盤胞を移植します。
着床の窓には個人差がある?
着床の窓は多くの人の場合、排卵から5日目頃、ホルモン補充周期では黄体ホルモン投与から5日目頃になりますが、「なかなか着床しない」「何度胚移植をしても、かすりもしない」という人の中には、着床の窓にズレがあることがわかってきました。そのため、それぞれの最適な時期がいつなのかを調べることが大切で、それにはERA(子宮内膜着床能)検査を使用します。
私たちのクリニックでは、2018年頃からERA検査を導入し、これまで200例以上を行ってきました。最近ではERA検査だけでなく、子宮内にラクトバチルス(乳酸桿菌)が90%以上あるかを調べるEMMA検査、子宮内に慢性子宮内膜炎の原因菌がいるかを調べるALICE検査も同時に行うことで、さらに子宮内環境を整えて胚移植に臨むことができるようになりました。
検査を受けたすべての人に着床の窓にズレが見つかったわけではありませんが、検査をすることで得られるデータは大切です。たとえば、ズレがあるという結果が出た場合には、それに従って胚移植をすることで着床する可能性が高まります。ズレがなかった場合は、やはり胚の質の問題ではないかと考えられます。
着床の窓は、なぜズレるのか?
着床の窓がズレる理由は、よくわかっていません。
たとえば、年齢が高くなると、胚の成長が遅くなる傾向があります。ストレスに弱いのか、卵子の質の問題なのか、5日目ではなく6日目に胚盤胞へと育つケースがよくあります。
着床の窓が排卵から5日目の場合、6日目に胚盤胞になっても、着床の窓は過ぎてしまい、着床しなかったり、ギリギリで着床しかけて生化学妊娠になってしまったりすることもあります。このような場合には胚を凍結することで、このズレを解消することができ、胚の質に問題がなければ着床し、妊娠成立することでしょう。
しかし、先ほどもお話したように人にはそれぞれ個性があり、着床の窓が、排卵から5日目ではない人、いわゆるズレているタイプの人もいることがERA検査からわかってきました。
このズレは、年齢とは関係なく起こると考えています。
ERA検査と凍結融解胚移植
私たちのクリニックでは、ERA検査はホルモン補充周期で行い、黄体ホルモン剤(プロゲステロン)の投与を開始した日(P+0)から5日目(P+5)が検査の日です。
検査は、内診台でピペールという機器を使って、子宮内膜を採取します。採取した子宮内膜組織は、専用の容器に入れて検査へ出し、結果は約2週間後に出ます。その結果を患者さんにお伝えし、凍結融解胚移植の治療計画を立てます。
凍結融解胚移植は、ERA検査と同じホルモン補充周期で行うことをおすすめしています。検査を行った周期と同じ条件でホルモン補充周期を行うことで着床の窓の時期を逃さないと考えているからです。
ERA検査によって着床の窓がズレていることがわかった人のなかで、その結果に従って胚移植をすることでおよそ3割の人が妊娠しています。
着床の窓がズレていなかったら?
良好胚を何度移植しても妊娠しない人の場合、確認しなければならないこととして、着床の窓と胚移植のタイミングがズレていないこと、子宮内のラクトバチルスが豊富にあること、慢性子宮内膜炎がないこと、またビタミンDに不足がないことなど、たくさんあげられます。
そのためERA検査で着床の窓を調べるだけでなく、そのほかのラクトバチルスや慢性子宮内膜炎の問題も、同様に検査しておくとよいでしょう。
また、一番大事になってくるのは、胚の質に問題がないことです。見た目は良好胚盤胞に見えても、実際には染色体に問題があるのかもしれません。
胚の染色体の数に関する問題については、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)をすることで、さらに得られる情報が増えます。
さらに突き詰めて考えると、胚の質は、染色体の数だけの問題ではなく、卵子の質、精子の質も関係しています。
卵子の質については、最近は加齢による質的低下の理解が広まってきましたが、精子の質に関しては卵子ほど注目されていません。
胚は、卵子と精子が受精してできます。ですから、卵子の質がよくても、精子の質が良くなければ、質の良い胚にはならないかもしれません。
もともと精子には、DNAに傷があっても、それを修復する能力がありません。そのため、受精から初期胚までは、もともと卵子が持っている力で精子のDNAの傷を修復しながら発育していきます。そして、精子のDNAに傷が多ければ、それが胚の質へと影響すると考えられます。
体外受精は、排卵誘発、受精、胚培養、胚移植とありますが、その過程はご夫婦それぞれ違います。卵子や精子に至っては、一つひとつが違います。
また、体外受精によって妊娠できない理由も、夫婦それぞれです。
その理由がどこにあるのか?なんなのか?を調べ、治療に活かすことが、とても大切なことだと思います。
ERA検査も、その1つです。
検査には、高額な費用がかかりますが、着床の窓がズレていることがわかり、同周期の採卵で2人のお子さんを授かったご夫婦もいます。
体外受精でお子さんを授かるために、その情報は、1つでも多い方がいいと考えています。
佐久平エンゼルクリニック 政井哲兵 先生
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
経歴
1997年 鹿児島ラ・サール高校卒業
2003年 鹿児島大学医学部卒業
2003年 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)研修医
2005年 東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)産婦人科
2007年 日本赤十字社医療センター産婦人科
2012年 高崎ARTクリニック
2014年 佐久平エンゼルクリニック開設(2016年法人化)