不妊治療の先生に聞いてみた

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公開日

赤ちゃんを授かるまでは平坦ではなかった。でも、今、伝えたいこと
【絹谷産婦人科 絹谷 正之 先生】

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医師の思いと患者の思い
笑顔と涙の座談会


絹谷産婦人科は、1981年に先代の院長だったお父様が開院しました。

「産婦人科の待合室で妊婦さんに囲まれて肩身が狭く、つらい気持ちを抱えつつ不妊で悩んでいる方たちのために、不妊治療を専門にしたクリニックを広島に作りたい。そして一人でも多くの方の力になりたい」というお父様の思いを受け継ぎ、2000年から絹谷先生が院長として、日々努めています。

今回、絹谷産婦人科で体外受精を受け、第一子を授かったMさんと一緒に、絹谷先生とアイジェノミクス・ジャパンのみなさんとお話をする機会ができました。

治療をする医師の思い、治療を受ける患者の思い、どのように治療を受けてきたかなどの話の中に、今、治療を受けている皆さんへのアドバイスやヒントがありました。

治療をはじめるきっかけは?
病院を選ぶポイントは?

Mさん

私は、結婚が遅かったこともあり、早く子どもが欲しかったので、体外受精をすることもあるかもしれないと思っていました。

ただ、結婚後、流産になってしまいましたが、割と早く妊娠したので、30代で1人産みたい、そのためには何月までに妊娠しないとならないなど、逆算をしながら計画を立てました。その時は他のクリニックで、タイミング療法を受けていたのですが、30代で1人産める予定の月までに妊娠することができなかったので、年齢のこともあり、早めに体外受精をしようと考えを切り替えました。

体外受精は、毎日注射に通うことや、頻繁に診察があることなどがわかっていたので、職場から近く、通院しやすい絹谷産婦人科を選びました。もう1つは、夫と参加する初診前説明会や体外受精説明会があったからです。

絹谷先生

そうですね。不妊治療は、どうしても通院回数が多くなりますし、仕事をされている方は、なかなか時間が取れないとよく聞きますので、通いやすいクリニックを選ぶというのは重要だと思います。

その上で、子どもを授かりたいという大切な思いを託すことになるので、クリニックのオフィシャルサイトを見たり、身近に不妊治療を受けたことがある人がいれば相談してみるのもいいでしょう。 もし、相談する人が身近にいなければ自治体の不妊専門相談センターへ相談するのもいいと思います。

何がなんでもすぐに妊娠したい
ちょっと診てもらいたい
じっくりゆっくり治療していきたい

など、カップルによって不妊治療に臨む気持ちや状況はさまざまです。

その時に、自治体ごとにある不妊専門相談センターなら、それぞれの病院の情報も持っていると思いますので、自分たちの思いを聞いてもらいながら病院選びをしましょう。できれば、2、3軒の治療施設から選ぶのがいいのですが、それぞれ地域によって事情も違います。1軒しかないという場合には、まずはその治療施設へ行って相談してみるのがいいでしょう。

私たちのクリニックでは、初診前説明会を必ずご本人とパートナーおふたりで受けていただき、妊娠のしくみ、不妊症の検査、治療、そして治療の終結などについて詳しくお話していますが、このような説明会や勉強会に参加されるのもいいと思います。説明会をふたりで受けることで、妊娠や不妊、また治療に関する全体像をしっかり知ってから通院を開始することができ、治療を自分たちのものと捉え、積極的に、また自発的に受けることができるようになると思います。

また、患者さんとクリニックとの関係構築にも良い場となっています。

実際に治療が始まってからはいかがでしたか?

Mさん

初めての採卵はショート法でした。方法については、初めてだったこともあり、よくわからないことも多かったので、先生にお任せしました。先生が、私に合う一番良い方法を選んでくれているという信頼もあり、あまり不安はありませんでした。1回目の採卵で良好胚が育ったので、その時にできた胚を全部移植しても妊娠できなかったら、もう諦めようと、終結も考えて移植に臨みました。でも実際は、移植しても移植しても妊娠できず、【治療を始めるより終わるほうが勇気がいる】と感じました。

結局、妊娠できるまでに採卵6回、移植7回を受けました。

2回目の排卵誘発ー採卵からは、PGTーAも受けて移植に臨みましたが、妊娠するまでの間には移植できる胚が育たない時期もあり、その間に、年齢も上がり、ほかの道もあるんじゃないのか? と考えつつも、胚を移植しないで治療は終われない『先生、何とかして!』という思いでいっぱいでした。

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移植ができなかった時期は、なにを考えていましたか?

Mさん

移植が出来なかった時期は、円形脱毛症になったのをきっかけに鍼に通ったり、サプリメントを飲んだり、気分転換に主人と旅に出たりしていました。治療では、先生から提案を受けて、子宮鏡検査をしたり、着床時期を調べるERA検査などを受けたりしました。子宮鏡検査では、子宮内に癒着が見つかったり、ERA検査では通常より約2日間ズレているという結果が出て、『これが原因だったんだ。こんなことが起こってたんだ』と、とても驚きました。
しかし、それを解決しても、次の胚移植でも妊娠することができませんでした。その時は、すごいたくさんのことを乗り越えて、妊娠するんだなと改めて思いました。

子宮内の癒着はどのようなものでしたか?
その治療は?

絹谷先生

たぶん、最初に自然妊娠をされた時の流産手術で軽い癒着が起こったのではないかと思います。Mさんの場合は、子宮内に柱のようなものができていました。

ただ、子宮内に癒着があっても妊娠する人もいますので、癒着イコール妊娠しないということではないのですが、癒着はないに越したことはありません。

Mさん

癒着を剥がすために他の病院で治療を受け、癒着の問題が解決できたのは良かったです。

ただ、その後すぐ誕生日を迎え、40代に突入したこともあり、焦りと不安とストレスで心が病んでいくのが自分で分かりました。たとえば、友達の妊娠を素直に喜んであげられないとか、子どもの写真のある年賀状を見て辛く思ったりするなどがあり、そんな自分が嫌になってしまい、とても辛かったです。

ERA検査は、いつ行ったのですか?

絹谷先生

癒着の治療後に3回目の胚移植をしましたが、妊娠しなかったのでERA検査を行いました。検査の結果は、約2日間のズレという特殊なケースでした。

ERA検査と子宮鏡検査以外で受けた検査は?

Mさん

着床障害に関する検査は、ほぼ受けています。免疫検査では異常があり、タクロリムスを服用しました。癒着治療後の胚移植は期待していたのですが、妊娠できなかったので、今から思えば着床の窓が問題だったのでしょうね。ただ、その後も妊娠できず、稀なケースだったこともあり、1回目の検査の2年後に先生とアイジェノミクスの方に相談をしてERAの再検査をしました。

再検査の時には、1周期の間に検査のタイミングを変えて2回行いましたが、結果は同じように約2日間のズレがあることがわかりました。

着床の窓のズレは流産手術の問題でしょうか?

絹谷先生

2日のズレは、本当に稀なケースでしたね。なにが、そんなにズレを生じさせるのか、それはわかりません。流産手術の問題なのか、癒着したのが問題なのか、それ以外に何かあるのかもしれませんし、もともとズレていたのかもしれません。いずれにせよ原因を追求することは難しいです。

Mさん

とても珍しいと言われたので、『先生の患者さんでこれまでいましたか?』と尋ねたら、『いない』というお返事だったので、かなり不安になり、もう無理なのかな? 治療のやめどきも分からなくなってるし諦めるための出来事なのかな? とすら思いました。途方に暮れていましたが、検査会社のアイジェノミクス・ジャパンに連絡をして、私の検査結果について相談してみました。すると、とても親身にしてくださって希望の光が見えました。こんなにもお話を聞いてくださるとは思っていなかったのでとても感動し、心強く思え運命が動いた気がしたのを覚えています。移植に関するご提案もいただいたので、先生とも相談し、治療に活かすことができ、相談して本当に良かったと思っています。

アイジェノミクス・ジャパンさんは、SNSなどもあり、連絡が取りやすかったのも良かったです。

妊娠された胚移植周期は、どのような方法でしたか?

絹谷先生

妊娠成立された周期は、自然排卵周期で胚移植をしました。結果的には、それが良かったのかもしれませんし、たまたまだったのかもしれません。妊娠が成立するまでには、さまざまなことをクリアしていかなければなりませんが、体外受精を受けるカップルの多くは、そのクリアする方法が難しいことも少なくありません。

Mさんの場合は、PGTーAを行い、染色体の数に問題のない胚を移植しているのに着床しなかったことから、受け入れる子宮側に何らかの問題があることが考えられ、その問題や原因を探るために、さまざまな検査を行いました。結果から考えるとMさんは、ERA検査をしなければお子さんを授かっていただくことができなかったかもしれません。

妊娠された時は、どのようなお気持ちでしたか?

Mさん

信じられない気持ちでした。

病院で検査をする前に市販の妊娠検査薬を使って、まず検査をしていたのですが、その周期は結果を見るのも怖くて、夫に説明書を渡して、検査薬を見てきて欲しいとお願いをしました。説明書もちゃんと渡しているのに、『見方がわからない』と言われて、あたふたする夫のもとに見に行ってみると、2本の線があり『出てる!出てる!』と2人で喜びました。その後、クリニックで血液検査をしてもらい、先生からお話をいただいて、ようやく妊娠できたんだと嬉しくなりました。本当に、信じられないくらい嬉しかったです。

絹谷先生

長期間通院され、6回に渡る採卵、7回の胚移植で、ようやくお子さんを授かることができ、本当に良かったと感じています。

2018年に体外受精を始めて、妊娠したのが2021年8月でしたから、治療期間は2年10カ月になります。

私は、妊娠判定が出た時には、どの患者さんでも同じですが、嬉しいという気持ちよりも、責任が1つ果たせたかもしれないという思いです。

妊娠判定だけでは、喜べない。まだ、流産の心配もありますし、このまま無事に出産までいってほしいという心配の方が先に立ちます。妊娠判定でいい結果が得られた時には、『あぁ、よかった』というひとまずの思いです。

ふたり目治療もERA検査?

Mさん

無事に出産もでき、子どもは1歳半になりました。保存している凍結胚があるので、もう1人がんばりたいという気持ちで、そろそろと思っています。

帝王切開での出産でしたが、着床の窓は大丈夫でしょうか? ERA検査が、また必要になるのでしょうか。

絹谷先生

基本的には、妊娠が成立した周期と同じ方法で胚を移植してみてからでないと何ともいえません。また、一緒に進みましょう。

最後に、体外受精を受けられているカップルにメッセージをお願いします。

Mさん

私は、治療中『今が一番若い!』を合言葉にしていました。足踏みもしたくなりますが、年齢のこともあり後悔するよりも進みたいという思いでした。しかし世の中はコロナが大流行。ワクチン接種後に移植することにしたので、数カ月治療をお休みすることになり、その間も後悔しないようにサプリメントを飲んだり、デトックスで体質改善をしたりしました。今思えば、治療から開放されることも大切だったと思います。治療中は、体がというよりも心が一番しんどかったです。心の内を話せる人に、話を聞いてもらうだけで、スッと心が軽くなることが多々ありました。そして、一番近くにいる旦那さんと一緒に治療に臨んでいると思えること、これがやはり一番大事かなと思います。

絹谷先生

不妊治療は「時間との闘い」です。その時間を意識して、積極的にさまざまな検査や治療にトライすることをお勧めします。治療は、受け身にならず医師や看護師に、自分の気持ちをどんどん伝えてコミュニケーションを取ることも希望を叶えることにつながる大切なことだと思います。

また、私たち絹谷産婦人科は、JISARTに加盟しています。JISARTは、不妊治療を専門とするクリニックによって結成された団体で、子どもが欲しいと願うカップルに安心して、満足できる医療を受けていただくことを目的として活動しています。

高いレベルで生殖医療を提供するためにISO9001(品質マネジメントシステムに関する国際規格)を取得し、外部の先生や患者団体などJISARTによる施設審査を受け、それをクリアして日々の診療に努めています。

絹谷産婦人科
絹谷 正之 先生

経歴

  • 1989年
  • 愛媛大学医学部卒業、医師国家試験合格
  •  
  • 広島大学医学部産科婦人科学教室入局
  • 1997年
  • 山王病院リプロダクションセンター(東京)井上正人院長のもとで高度生殖補助医療研修、顕微授精修得
    広島大学医学部産科婦人科助手(体外受精部門担当)
  • 1999年
  • McGill大学医学部産婦人科(カナダ、モントリオール)、Toronto大学Toronto Centre for Advanced Reproductive Technology (TCART)(カナダ、トロント)、Diamond Institute(アメリカ、ニュージャージー)、Bourn Hall Clinic(イギリス、ケンブリッジ)にて高度生殖補助医療研修
  • 2000年
  • 絹谷産婦人科副院長
  •  
  • 博士号(医学、広島大学)取得
  • 2002年
  • 絹谷産婦人科院長

資格

医学博士
日本専門医機構 認定産婦人科専門医
日本生殖医学会 認定生殖医療専門医

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