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何度も胚移植をしているのに、着床しないのなら。
妊娠率をあげる術として、着床の窓を知るERA検査をしてみましょう。
【亀田IVFクリニック幕張 川井 清考先生】
着床の窓、みんな同じくらい?
着床の窓は、自然妊娠の場合、だいたい排卵の4~7日目くらいになります。その頃、胚は胚盤胞となって子宮へとたどり着き、子宮内膜に接着し浸潤し増殖するという何個もの行程を経て、着床・妊娠継続していきます。
体外受精でもホルモン補充周期で胚盤胞を融解胚移植した場合は、黄体ホルモンの投与開始日を0日目とすると5日目あたりが目安になります。
また、凍結融解胚移植で受精から2日目の胚を移植する場合には、黄体補充から2日目の子宮内膜へ、胚盤胞の場合は、黄体補充から5日目の子宮内膜へと、胚と子宮内膜の時間を合わせ、それに合わせた子宮内膜になるようホルモン剤で調整して移植を行います。
こうした方法で胚移植を行うことで、体外受精に臨む多くのカップルの妊娠が成立しています。しかし、何度も良好胚を移植しているのに着床しないカップルもいます。このとき、考えられることの1つに着床の窓のズレがあり、このズレのあるなしはERA検査によってわかります。
ERA検査は、誰に必要?全員が検査しても良いのでは?
2回以上良好な胚を移植しても着床しない人、生化学妊娠になる人の中でも、ERA検査でズレが見つかるのは約3割であることが70カ国のクリニックで行われたERA検査データからわかっています。私たちのクリニックでも同じくらいの割合でズレている人が見つかります。多くの人にはズレがないので、通常の着床の窓にあたる時期の子宮に良好胚盤胞があれば妊娠できる可能性があります。なかなか妊娠しない人であっても、ズレが見つかるのは約3割なので、着床の窓がズレている人は多くありません。検査費用も高額ですし、誰にでも必要な検査、全員が必要とする検査ではなく、オプション検査の1つだと考えています。
ERA検査は、2回以上良好胚を移植しても着床しない人や生化学妊娠になる人を対象に提案し、希望があれば検査を実施して、次の胚移植に備えます。このほかでは、がん治療など病気のために卵子を凍結した人が体外受精で妊娠を目指す場合、また高年齢や卵巣機能低下で今後の採卵が難しく、この1個の胚で妊娠に臨む場合は、ERA検査を治療の選択肢の1つに加えて検討していただくことがあります。
ERA検査の役割とは?
体外受精で妊娠を目指すカップルは、性生活では妊娠が難しいために体外受精という医療に臨んでいるわけですから、妊娠が成立しないときには、妊娠効率の低下を補正するための医療が必要になります。
着床の窓のズレも、補正するべきことの1つです。ERA検査をすることで、着床の窓にズレがあるかないか、あるとしたらどのようにズレているのかを知ることができ、その結果からその人の着床の窓がいつ頃で、また最適な移植の日はいつなのかを検討することができます。
こうして胚移植を計画、調整することで、着床、妊娠成立することができた場合、「私の不妊原因、着床不全の原因は、着床の窓のズレだったのか」と考えがちですが、ERA検査がズレていたら100%妊娠しないと証明されているわけではありません。
着床の窓は、電池をオンやオフに切り替えるように一瞬で始まって一瞬で終わるというものではなく、通常は数十時間単位の幅があるとされています。また、人によって着床の窓が長く開いている人もいれば、短い人もいるでしょう。ヒトの身体や妊娠のメカニズムは、そんなに単純ではなく、もっと複雑で神秘的なのです。
ですから、ERA検査は着床しない原因を追求するための検査ではなく、着床が難しいカップルの妊娠効率を上げるためのオプション検査の1つで、それがERA検査の役割だと考えています。この検査から得られた情報をもとに、妊娠効率の低下を補正し、胚移植の計画ができれば、妊娠の可能性が高まることでしょう。
着床の窓はズレているかもと考えられる自覚症状はありますか?
自覚症状から、「着床の窓がズレているのかな?」を見つけることは難しいでしょう。
なかには、出産経験があって子どもがいる人にも、ズレが起こる可能性があります。また数年前と今とでは着床の窓の時期が違う人もいると思います。数年前と今では違う場合、加齢によって子宮内膜に変化があったというよりも、年を重ねたことによるホルモンの感受性の低下、代謝の低下などが要因になっていると考えられます。感受性や代謝についての問題は、太ったり、痩せたりすることが関係することもあるでしょう。
そのほかでは、子宮の病気が関係すこともあります。たとえば感染性慢性子宮内膜炎は自覚症状がないことがほとんどで、検査をするまでわからない人も少なくありません。感染性慢性子宮内膜炎が重度の人は、これが要因となって着床の窓がズレているというよりも、着床の窓がちゃんと表示されない可能性があります。
しかし、軽度であれば子宮内膜炎があっても、ERA検査の結果は信用できると考えています。そのため子宮内膜組織検査、免疫染色(CD138)内膜組織診を行い、感染性慢性子宮内膜炎の有無を調べ、必要であれば治療を行ってから胚移植を計画する、または再度ERA検査を行うことが大切だと考えています。
ERA検査ができること
これまでは、子宮内膜が着床に適切な状態になっているかを調べる検査として子宮内膜日付診がありましたが、採取する内膜組織の部位によって違った結果が出たり、組織を診断する病理の先生によって見解に差があり、あまり普及しませんでした。ERA検査は、236個の遺伝子の発現からその人の着床の窓がいつかを知ることができます。その結果は、前にズレている、後ろにズレている、またはズレがないということがわかり、それが移植時刻をズラす範囲なのか、移植日をズラす必要があるのかもわかります。
ERA検査は、客観性をもって、患者さんにもわかりやすく伝えることができる素晴らしい検査だと思っています。私たちは、ERA検査の結果を用いた実際の胚移植において、カップルに妊娠・出産に近づいていただくためには、これら遺伝子の発現パターンから出た結果をどう読み解くか、どう解釈するかが大切になってきます。
それには、その人の情報を再度整理し、まとめ、現在妊娠に近づいていない不妊原因を紐解いていきます。それは、排卵誘発法、採取できた卵子の数や胚の評価、胚移植の方法とその結果だけでなく、これまでの病歴や妊娠歴・出産歴、生まれた赤ちゃんの体重、その妊娠が自然妊娠なのか、不妊治療、体外受精による妊娠なのか、また体重の変動、年齢などあらゆるデータから、その行間までも読み込み、そこから次回の移植方法を検討し、治療計画を立て、実際に治療を進めていきます。
ERA検査は、わかりやすく結果が示されますが、その結果をどれだけ紐解いていくか、治療計画に活かすかは、奥が深く難しいことも含んでいます。
このようにして、これまで私たちのクリニックでERA検査を行った患者さんたちの移植成績がどのように改善しているかをお話しながら、また次の患者さんに提案しています。
体外受精で赤ちゃんを授かるために
不妊で苦しむカップルにとって、赤ちゃんを授かるのは、簡単なことではありません。
私は、訪れる患者さんが赤ちゃんを授かるためには、どのようにしたらいいのか、何が必要か、本当に朝から晩まで考えて、勉強して、研究しています。一人ひとりの患者さんから得られる治療の情報は、細かくデータを取り、コメントをしながら管理して、次の治療周期へと活かしていきます。
ERA検査についても、データの積み重ねが、次の治療周期、次の人の治療へと活かされていきます。
ERA検査は、体外受精に臨むカップルのすべてに必要というものではありませんが、2回以上良好胚を移植しても着床しない、生化学妊娠になる人は、検討するべき検査だと考えています。
亀田IVFクリニック幕張 院長 川井 清考先生
専門医
医学博士(2018年、東京医科歯科大学附属病院大学院医歯学総合研究科博士課程修了)
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
経歴
2006年 旭川医科大学医学部卒業
2006年 春日部秀和病院
2008年 東京医科歯科大学附属病院/土浦協同病院
2010年 亀田総合病院産婦人科医師として着任
2014年 亀田総合病院不妊生殖科部長・不妊生殖センター長兼務
2019年 亀田 IVFクリニック幕張院長
亀田総合病院生殖医療事業管理部部長
東京医科歯科大学非常勤講師