不妊治療の先生に聞いてみた

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これはいい胚!そう考えられる周期こそ、ERA検査で着床の窓を調べることが大切です。
【醍醐渡辺クリニック 不妊センター 石川 弘伸先生】

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いい胚なのに、着床しない。それは、なぜ?

私たちのクリニックでは、凍結融解胚移植の場合は、多くの方がホルモン補充周期で胚盤胞を移植しています。

これまで多くのカップルが体外受精によって赤ちゃんを授かり、そのなかには第二子、第三子も授かろうと、再び治療に訪れるカップルもいます。

第一子の治療方法やスケジュールに沿って、第二子の体外受精をはじめますが、ななかな妊娠せず、何度か胚移植を繰り返す人もいます。

凍結されていた胚盤胞のグレードもよく、ホルモン補充周期で子宮内膜の状態がいいにも関わらず、妊娠反応が陰性、または生化学妊娠を繰り返してしまうのです。その理由は、いったい何だろう?と考えたときに、着床の窓が大きな要素となっていることがわかってきました。

着床の窓が大きな要素だと考えられるわけ。

ERA検査によってわかった着床の窓は、2、3年は変わらないといわれています。

しかし、なかにはズレが生じる人もいます。わかりやすい3人の症例を紹介しながら、話を進めていきましょう。

1人目は、29歳で1回目のホルモン補充周期の凍結融解胚盤胞移植によって妊娠、出産し、31歳で第二子目の治療を再開した人です。

この人は、保存されていた凍結融解胚盤胞を第一子と同じスケジュールで移植しましたが、1回目は陰性、2回目は生化学妊娠でした。3回目の移植前にERA検査を行い、着床の窓が後ろにズレていることがわかりました。検査結果に従って、ホルモン補充を行い凍結融解胚盤胞移植を行ったところ妊娠反応は陽性になりましたが、その後、流産になりました。胚盤胞は、グレードの良いものから移植をしますので、保存されていた胚のグレードは先に移植したものよりも低く、流産に至ったのではないかと考えられます。

4回目は再度採卵を行い、ERA検査の結果に従ってグレードの良い胚盤胞を移植し、妊娠、流産もなく出産に至っています。

2人目は、34歳、1回目の凍結融解胚盤胞移植で妊娠、出産し、36歳で第二子を希望し治療を再開した人です。第一子と同じスケジュールで凍結融解胚盤胞移植を3回行いましたが、いずれも陰性でした。4回目の胚移植前にERA検査を行い、その結果、着床の窓が前にズレていることがわかりました。しかし、この結果に従ってホルモン補充、胚移植しましたが、妊娠反応は陰性でした。これは胚の質の問題かもしれません。そのため5回目は再度採卵を行い、4回目と同様のホルモン補充と胚移植のタイミングで、妊娠し、出産に至っています。

3人目は、36歳で1回目の凍結胚盤胞移植を行い、妊娠、出産した人です。

第二子を希望して、39歳で治療を再開し、第一子と同じスケジュールで凍結融解胚盤胞移植を行いましたが、陰性でした。2回目の体外受精は採卵を行い、ホルモン補充周期で凍結融解胚盤胞移植を行いましたが、これも陰性でした。3回目の胚移植前にERA検査を行い、その結果、着床の窓が前にズレていることがわかりました。この結果に従ってホルモン補充を行い、凍結融解胚盤胞を移植し、妊娠、出産に至っています。

3人それぞれ、第一子の凍結融解胚移植と同じタイミングで胚移植を行っていますが、第二子目を目指した胚移植では妊娠反応陰性という結果が続きました。着床の窓は、その人固有のもので変化しないというのが通説ですが、それはすべての人に当てはまるというわけではないことの結果だと思います。また、一度、妊娠、出産したことがある人は、妊娠の経験がない人よりも着床しやすいといわれますが、それもすべての人に当てはまるわけではありません。

このようにERA検査によってわかった着床の窓は、2、3年は変わらないといわれていますが、例をあげた3人のように変わってしまうこともあります。もしも、着床の窓が変わっていないのであれば、第一子と同じタイミングで胚移植しているわけですから、ERA検査も「受容期(Receptive)です」という結果が返ってくるはずです。

もちろん胚の質、染色体の問題などもありますが、ERA検査後の胚移植で妊娠、出産していますから、もっと早い時期にERA検査を行っていれば、もっと早くに第二子を授かっていたのではないかと考えらえます。

着床の窓にズレがあった3人の例

着床の窓がズレる要因は?

紹介した3人の症例は、いずれも第一子を1回目のホルモン補充周期による凍結融解胚盤胞移植で授かっていることが共通点です。その1回目の移植方法に沿って、第二子目の胚移植をしているわけですが、1回目の胚移植周期と違う点は、年齢と出産経験のある子宮だということです。

ただ、年齢が着床の窓がズレる要因になるかといえば、これは要因にはならないと思います。

なぜなら、アメリカなど卵子提供による体外受精が行われている国では、30~45歳くらいまでの妊娠率に、あまり差はありません。卵子は若い女性から提供され、問題のある胚は少ないため、母体年齢が高くても妊娠率に差がでないわけです。つまり、受け入れる側の子宮の年齢が高くても、大きな問題はないのでしょう。

では、今回のように出産経験は、どうか?というと、これは着床の窓にズレを生じる要因になる人もいると考えられます。

例えば、帝王切開の場合は、着床の窓に関係してくるかもしれません。しかし、紹介した3人はいずれも経腟分娩で、子宮にメスは入っていません。それでも着床の窓がズレるということは、女性にとって妊娠・出産が、その後の着床の窓に変化をもたらす要因になりうるといえるでしょう。

残念ながら、今の時点では調べようがありませんが、今後は、第一子の体外受精のERA検査結果と、数年後の第二子のERA検査結果にズレがでる症例もあることでしょう。

ERA検査実施後の臨床成績

ERA検査をする人は増えている?着床の窓がズレている人が多いのでしょうか。

着床の窓については多くの人にズレはなく、ズレている人が30%ほどいるといわれています。そのなかには、数年前と今とでは着床の窓に違いがある人も含まれていると考えられます。

紹介した3人の症例は、第一子の体外受精時には、まだ私たちのクリニックではERA検査を導入し始めたばかりでした。国内での症例もあまりなく、患者さんにオススメするのは、2回以上胚移植をしても着床しない、生化学妊娠になるなどが対象でした。

現在、私たちのクリニックでは、月に150件くらい採卵があり、胚移植する人の3、4人に1人くらいの割合でERA検査を行っています。だいた月に20件くらいになります。着床の窓がズレている人が増えたというよりは、ERA検査によって着床の窓がわかり、妊娠する人も増え、そうしたERA検査による手応えからオススメする人が多くなっています。

なかには、最初からERA検査をオススメする人もいます。というのも、患者さんの平均年齢が40歳以上になってくると、採卵して胚移植を2、3回やってから「着床の窓がズレてるのかな?」では遅いのです。43歳、44歳になり、「胚移植をして妊娠しなかったら、また採卵しましょう」とは言っていられません。次に採卵できるかどうかもわからない、時間的猶予のない状態なのです。

さいごに

今は、できる検査も増えてきましたので、有効な検査は積極的に取り入れながら治療を進めるのがよろしいかと思います。

いろいろな検査や治療があり、迷われることもあると思います。私たち医師も、新しく出てきたものに対して、この検査は?この治療は?と迷うこともありますが、論文や学会発表を鑑みながら、日々の診療に生かし、取り入れています。新しい検査や治療方法などは何が残って、スタンダードになっていくかを見極め、よりよい医療が提供できるように努めています。

私たちクリニックには産科もあり、私もお産を担当することがあります。体外受精で授かった新しい命と出会うときは喜びも大きく、感慨もひとしおです。それが診療の励みや原動力となっています。

醍醐渡辺クリニック 副院長・不妊センター長 石川 弘伸先生

専門医
医学博士(滋賀医科大学大学院)
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医
日本生殖医学会認定生殖医療専門医
母体保護法指定医
日本受精着床学会評議員

経歴
滋賀医科大学卒業
滋賀医科大学附属病院産婦人科勤務
滋賀医科大学大学院卒業
泉大津市立病院副医長
水口市民病院産婦人科医長
野洲病院産婦人科部長
醍醐渡辺クリニック勤務

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