不妊治療の先生に聞いてみた

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高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液で
妊娠率向上に期待!(1)
【杉山産婦人科 新宿 中川浩次先生】

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2022年7月末に開催された第40回受精着床学会学術講演会のセミナーに「保険適用下でのART不成功症例への対策」という演題がありました。

発表したのは杉山産婦人科新宿の中川浩次先生です。

保険診療による体外受精には、年齢制限や回数制限があり、40歳以下は胚移植6回、43歳未満は胚移植3回までとなっています。

女性は年齢を重ねると妊娠が難しくなりますが、これは体外受精でも同じです。

その要因の1つに、卵子の質的低下があり、染色体の数などに問題がみられます。

卵子の染色体数の問題は、胚へも影響するため、年齢が高くなるにつれて胚移植をしても妊娠が成立せず、生化学的妊娠や流産が増える傾向にあります。

しかし、体外受精ー胚移植で妊娠が成立しないのは、卵子の質や胚の質の問題ばかりではありません。

その中には、着床をサポートする培養液を用いることで妊娠が期待できるケースもあり、今回のセミナーは、何度も胚移植をしているのに着床しないカップルに対して高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液を用いた胚移植に関する発表でした。

そこで、さらに詳しいことをお聞きするために杉山産婦人科新宿の中川浩次先生を訪ねました。

高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液は、どのようなものですか?

高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液は、体外受精治療周期において、胚移植の際に使う培養液で、ペタペタした性状をしています。

ヒアルロン酸は、もともと人の体にあり、保水性や粘稠性の高い物質で、化粧水や美容液などにも利用されているため、女性は身近に感じるのではないかと思います。肌へ使う場合は、保湿、みずみずしい、弾力性などのキーワードをよく目にすることでしょう。

体内では、眼球の内部の大部分である硝子体、骨と骨の間のクッションや細胞と細胞の間をくっつけるなど、体内のあらゆるところの保水性や弾力性などを保持するために働きます。

生殖医療でもヒアルロン酸は、関係しています。排卵卵子はヒアルロン酸に覆われていますし、子宮内膜の表面にもヒアルロン酸はあります。顕微授精時には、成熟した精子を選択するためにヒアルロン酸の入った培養液を使うことがあり、着床の際には、子宮内膜と胚をくっつける働きがあると考えられることから高濃度ヒアルロン酸を含んだ培養液を使って着床をサポートしています。

2022年4月より不妊治療、体外受精の保険診療が始まり、胚移植時の高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液も保険診療の対象になっています。

高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液は、
どのような人が対象ですか?

保険診療では、初回の胚移植を受ける人には使うことができませんが、2回目以降の胚移植を受ける人では使用する人が多くいます。医師からご案内することもありますが、最近では、患者さんから希望されることも多くなってきました。

保険診療では、年齢制限と回数制限があり、1子につき、40歳以下は胚移植6回、43歳未満は胚移植3回です。

杉山産婦人科新宿では、現在、約8割の患者さんが保険診療で体外受精を受けています。保険診療が始まってからは患者数が増え、特に36~37歳くらいの患者さんが増え、少し年齢層が若くなっています。患者さんの増加と若干の低年齢化は、これまで経済的な理由から体外受精を躊躇っていたカップルが治療を受けやすくなったことと、保険診療になり体外受精は国が認めた治療となった、という安心感などもあるかと思います。

保険診療になり、採卵までの診察や検査回数などの条件から、工夫が必要になるケースもありますが、医療の質を落とさず、そしてこれまでの妊娠率も下げずに医療を提供することが大切です。

その選択肢の1つとして、高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液があげられます。

高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液を使うことによって、
どのような効果が期待できますか?

子宮内のヒアルロン酸は、月経周期中に変化がみられます。ヒアルロン酸量は、卵胞期の中期に多くなり、排卵期付近には少なく、黄体期には卵胞期よりも多くなります。月経周期のホルモン分泌や変動に関係しているのではなく、生殖に関して必要に応じてヒアルロン酸量が変化する、それは生命のプログラムなのではないかと思います。人の体は、実にうまく、緻密にできているなと思います。

特に黄体期にヒアルロン酸量が増えるのは、着床と関係しているのでしょう。子宮内膜のヒアルロン酸は胚とくっつきやすい環境にし、着床を助けていると考えられています。

また、卵胞液や卵管液にもヒアルロン酸はあり、胚を保護していると考えられており、着床前後の胚盤胞の表面にもみられるようになります。この胚のヒアルロン酸を補い着床をサポートすることが高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液に期待されています。

実際に、私たち杉山産婦人科で胚移植をしても3回以上妊娠が成立しなかった人のうち、PGT-Aを行い、正倍数の胚を移植した428症例に高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液を使用した結果、臨床妊娠率は40歳未満で59%、40歳以上で約68%と、40歳以上は好成績でした。この結果から年齢の高い人の場合は、高濃度ヒアルロン酸含有胚移植用培養液を使うことで妊娠する期待が高まるといえるでしょう。

子宮内膜のヒアルロン酸量の変化

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杉山産婦人科 新宿 中川浩次先生

専門医、所属学会

医学博士
日本専門医機構 認定産婦人科専門医
日本生殖医学会 認定生殖医療専門医

経歴

1990年、自治医科大学を卒業。
徳島大学医学部産婦人科で体外受精の臨床・研究を重ね、愛媛県立中央病院、国立成育医療センターを経て、2008年より杉山産婦人科生殖医療科に勤務。
体外受精反復不成功例や習慣流産・不育症症例に対して、独自のアイディアで対策を講じ、数多くの成果を公表している。2018年1月より現職となる。

協賛:ヴィトロライフ(株)

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