不妊治療の先生に聞いてみた

funinclinic

公開日

着床の窓、子宮内フローラ、慢性子宮内膜炎。
よりよい子宮環境で胚をお迎えしましょう。
【ファティリティクリニック東京 小田原靖先生】

記事画像

なかなか妊娠しないその原因を調べるには?

体外受精で赤ちゃんを授かるためには、卵子の質、胚の質が重要であることは、よく知られています。

しかし、最近では胚を受け入れる子宮環境にも注目が集まっています。

これらについては、胚の染色体数を調べるPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)、その人の着床の窓を確認するERA検査、子宮内に慢性的な炎症がある場合、その原因菌は何かを調べるALICE検査、そして、子宮内フローラの状態を知るEMMA検査があります。対象となるのは、着床不全の人、例えば2回以上胚移植をしても妊娠が成立しない人に行います。

胚の問題、子宮の問題どちらが多いの?

胚の問題には染色体の数、子宮の問題には着床の窓、子宮内フローラ、慢性子宮内膜炎などがあります。胚と子宮、どちらが妊娠をしない要因として多いのかは、まさにこれから研究を進め、明らかにしていこうとしている段階です。

2020年1月から日本産科婦人科学会の臨床研究として始まったPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は、移植予定胚の染色体の数を調べる検査で、臨床研究として始まって1年ほどです。2回以上胚移植しても妊娠が成立しない人などを対象に、胚盤胞の胎盤になる細胞(栄養外胚葉)の一部を採取し、染色体数に過不足(異数性)がないかを調べ、問題のない胚(正倍数性)を移植します。

この検査によって妊娠率の向上と流産率の低下が期待され、私たちのクリニックも、この臨床研究の認定を受け検査を行っています。

これまでPGT-Aを実施してきた中で、年齢の高い40歳以上の人に対するPGT-Aの効果はあり、妊娠率も高いのですが、それよりも年齢が若い人たちの妊娠率はさほど上がっていないなど、だんだんとデータが出てきています。

どうして?と思われますよね。

それは、年齢の高い人は胚の染色体数の問題が妊娠を難しくしている大きな要因と考えられる一方で、若い人たちは胚の染色体数よりも妊娠を難しくしている要因がほかにあると考えられます。

PGT-Aを行っても、40歳以上の人の胚は染色体数に問題がある率が高く、若い人たちの胚はそれに比べて問題がある率が低いことから、子宮環境の要因で妊娠が難しくなる着床不全は、明らかに存在していると考えています。

これまで着床不全の検査はどうしていたの?

これまで何度も胚移植をしているのに妊娠しない理由として、胚の問題ばかりではないと考えられてきました。そして、着床はどのようにして起こるのか、また着床不全とは、どのようなことから起こるのだろうかという研究も、長年されてきました。

私自身も、20年以上前から着床に関して炎症の面から研究をしてきました。炎症の中でもいくつかの因子が着床に関わっていて、とくにMMPというタンクについては、論文も出しています。ただ、そうしたことがわかっても、検査の方法が複雑だったり、煩雑だったりして、実際の治療に活かすまでに至らなかったのです。

また、着床の窓についても着床時期に子宮内膜にピノポード(着床時期に現れる構造)が現れ、これが着床に関係していることはわかっていました。子宮内膜を採取して電子顕微鏡を使って観察すると、着床期には小さなキノコのようなピノポードがいっぱいに見え、この時期と胚移植にズレがあると着床が難しいということはいわれてはいたのですが、実際の胚移植周期に子宮内膜を採取して電子顕微鏡で診て検査をするのは難しく、基礎研究の域を出ませんでした。

それが今では、NGS(次世代シーケンサー:遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置)により、多くの遺伝子を見て、子宮内フローラの状態、慢性子宮内膜炎の原因菌、着床の窓を調べることができるようになってきました。これまでは着床しなければ「年齢もあるからね」と医師からいわれて、5、6回と胚移植を繰り返さざるを得なかった人もいたわけですが、子宮環境や着床時期の検査ができるようになり、よりよい治療が提供できるようになってきています。

着床に関わる3つの検査

EMMA検査とALICE検査の時期は、いつが良い?

検査の時期は、着床時期に行うのが良いでしょう。やはり着床期の子宮の状態がどうであるかを診て、胚移植へとつなげることが大切なので、同じ時期に検査をするのが望ましいと思います。着床の窓のERA検査と一緒にEMMA検査、ALICE検査を行う(*)場合は、ホルモン補充療法を行って、いわゆる着床期に検査を行います。

検査の結果、慢性子宮内膜炎の原因菌が見つかった場合は、抗菌剤を使って治療をするわけですが、抗菌剤を使い過ぎると子宮内の乳酸菌が少なくなってしまうこともあるので、バランスを考えながら治療し、乳酸菌が増えるようにサプリメントを2週間ほど続けてもらいます。

乳酸菌が少なかった場合は、乳酸菌が増えるようにサプリメントを2週間ほど続けてもらいます。

その後、できれば再検査をして確認します。その時、ラクトバチルス菌が90%以上あるのが理想ですが、70~80%くらいで、次の胚移植を考えるようにします。

検査は、みんなした方がいい?

生殖医療のなかでも、比較的新しい検査なので、どこの治療施設でもよく検討しながら行っている検査だと思います。私たちのクリニックでは、2回以上胚移植しても妊娠しない人におすすめしていますが、EMMA検査、ALICE検査を行うと約6割の人になんらかの問題が見つかります。

子宮内環境のことなので、一般不妊治療から考えれば、誰でも検査した方がいいのでは?と考えがちですが、検査費用も高額なので、すべての患者さんに必要な検査とは思いません。また一般的な検査として行うには、まだまだデータが足りない、もう少しデータが必要な状況だと考えています。

検査と治療でどのくらい妊娠率は上がる?

たとえば、どのようなデータが必要かといえば、着床不全と子宮内フローラ、慢性子宮内膜炎の相関についてです。子宮内にあるラクトバチルスの割合が高いと着床しやすく、また低いと着床しにくいというエビデンス(医学的根拠)があり、慢性子宮内膜炎があると着床しにくいというエビデンスもあります。つまり、着床不全と子宮内フローラには関係があり、着床不全と慢性子宮内膜炎には関係があります。

しかし、子宮内フローラでラクトバチルスの割合が低い場合、ラクトバチルスが増えたら慢性子宮内膜炎もよくなるのかなどの関係は、まだわかりません。乳酸菌は酸なので、ラクトバチルスが増えることで炎症が抑えられて慢性子宮内膜炎がよくなるのではないかと考えられるのですが、子宮内にラクトバチルスなどの乳酸菌があり、そのバランスが着床に関係していることがわかったのも最近のことです。ですから、子宮内フローラと慢性子宮内膜炎、そして着床の窓も踏まえて、着床不全とどのような相関があり、どのようなメカニズムなのかなどをJISARTで検証していこうと、今、1000症例ほど集め、これからデータを解析し、検証していこうとしているところです。そのときに、妊娠率についてもお伝えすることができるでしょう。

着床不全と子宮内フローラと慢性子宮内膜炎の関係

着床不全と子宮内フローラと慢性子宮内膜炎の関係

  • 着床不全と子宮内フローラには相関がある。

     

    そのため、子宮内にラクトバチルス菌が少ない場合、ラクトバチルス菌が増えることで着床しやすくなることがわかっている。

  • 着床不全と慢性子宮内膜炎には相関がある。

     

    そのため、慢性子宮内膜炎で子宮内に炎症がある場合、抗菌剤が効果を示し炎症が治れば着床しやすくなることがわかっている。

  • 子宮内フローラと慢性子宮内膜炎の相関はわからない。

     

    子宮内にラクトバチルス菌が多ければ、慢性子宮内膜炎が改善する。または慢性子宮内膜炎が改善すると子宮内のラクトバチルス菌が増えるかは、まだわからないこともある。現在、これについて調査・検証が始まっている。

着床不全に悩むカップルへ

ここ最近になって、これまで無菌だと考えられてきた子宮の中にもラクトバチルスなどの乳酸菌がいることがわかってきました。子宮内の乳酸菌の数は、ほかの臓器と比べると大変少なく、腟にいる乳酸菌とも種類が違います。まだ、わからないこともたくさんありますが、これからさまざまな研究、検証から子宮、着床のメカニズム、着床不全のさまざまなことが明らかになっていくことと思います。

「あれがいい?これがいい?」と情報や治療法がいろいろある中で、患者さんたちは迷われたり、不安になったりすることがあるかもしれません。

私たちのクリニックでも、いくつも質問を持って診療にくる人もいます。

そのような場面では、医師とそれらひとつ一つを話し合い、整理し、相談しながら治療を進めていくようにしましょう。

また、検査をして、治療をしたから「これでもう完璧!」というわけではないことも理解して欲しいと思います。それでも、何かどこかに問題が隠れていたり、何か条件の整わないことがあったりするのが、妊娠の難しさです。私たち医師は、新しく出てくる検査や治療データを集め、何が良い方法か、何が効果的なのかを学術的にも検証して、良い医療を提供できるように、日々努力を重ねています。

ファティリティクリニック東京 小田原靖 院長

資格

医学博士(1986年、東京慈恵会医科大学大学院)
日本生殖医学会認定生殖医療専門医

経歴
1982年 東京慈恵会医科大学卒業
1986年 東京慈恵会医科大学大学院卒業
豪州メルボルン王立婦人科病院生殖生物学教室留学
PIVET Medical center、Murdoch大学留学
医療法人社団スズキ病院産婦人科科長として、日本初の顕微授精児(Zona Opening)誕生を主導
1996年 恵比寿にてARTクリニックを開業
現在に至る

関連記事

最新記事