不妊治療の先生に聞いてみた

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もう流産はしたくない。妊娠することが怖い。
そういう思いをしてほしくありません。
私たちができること。私たちが目指すこと。
【加藤レディスクリニック  黒田知子先生】

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小児科医として 臨床遺伝専門医として

私は、もとは小児科医で内分泌代謝が専門です。子どもの内分泌の病気となると、遺伝子の問題が関わってくることも少なくありません。

なかでも臨床遺伝専門医を目指す一番のきっかけになったのは、ターナー症候群の女の子への治療でした。

ターナー症候群は、2本ある性染色体の1本がなかったり、別の形をしていたりします。成長ホルモンを投与することで身長は伸びるのですが、第二次性徴が現れず、不妊になる人もいます。そうした説明に目の前で「どうして?」と泣かれても、うまく説明をしてあげることができませんでした。

この「なぜ?」を解明したいと思い、遺伝の道へと進みました。

流産してしまうその理由は?

流産が起こる理由は、子宮の形や不育症の問題以外で、赤ちゃんの染色体に異常のあるケースが約7~8割です。

実際には流産以前に染色体異常を原因として、受精が起こらなかったり、胚の成長が止まってしまったりして妊娠にも至らないケースも多くあります。その過程は、篩(ふるい)にかけていくイメージです。

篩にかけ、早い時点で落ちてしまった胚には重度の染色体異常があり、その後も胚の成長につれ、染色体異常が重度なものから落ちていきます。

篩にようやく残れる程度の染色体異常の場合は生化学的妊娠になり、染色体異常があっても軽度で最後まで残った場合は着床できることがあります。

しかし、染色体異常を持ちながら着床しても、それ以降に育たなければ流産になり、順調に育てば染色体の変化を持って生まれてくることもあります。

染色体は全部で46本あり、大きい順に1番から22番まで対になった常染色体(44本)と、最後の1対(2本)がXXか、XYの性染色体があります。

染色体の数の変化のなかでも、13、18、21番目の染色体を3本持つ子は生まれることができる可能性があります。

着床できる胚

卵子と精子が受精 → 胚となり成長 → 着床 → 妊娠の成立であれば、嬉しいことです。

けれど、流産になってしまった場合、それまでの過程を篩にたとえてみるとわかりやすいです。

早い時点で篩から落ちた場合には、染色体異常が重度である可能性が高く、だんだんと成長していく過程で染色体異常の程度の重いものから落ちていきます。

流産を繰り返すその理由は?

赤ちゃんの染色体が原因で流産を繰り返す理由としてあげられるのは、①胚の染色体の数に変化が起こった場合、②胚の染色体の形に変化がある場合、この2つが主な要因としてあげられます。

①胚の染色体の数に変化が起こった場合(図1)、人の染色体の数は46本で、卵子も精子も元となる細胞(卵母細胞、精母細胞)は、46本の染色体を持っていますが、そのまま精子と卵子が出会うと、染色体の数は過剰になりすぎます。そこで、減数分裂(染色体の数を半分に減らす)が起こり、23本(22本の常染色体と1本の性染色体)の卵子となり、同じように23本の染色体を持つ精子と出会うことで、染色体の数が46本になるようにできています。染色体の数がずれた卵子や精子が出会った場合、どこかの染色体の数が1本足りなかったり1本多くなったりと、45本や47本の染色体を持つ胚になります。こうした減数分裂時の染色体の数のズレは偶然起こりますが、夫婦の年齢が高くなるとズレが生じる回数が増えてきます。染色体異常があると、胚の成長が止まったり着床しなかったり、流産になったりすることがほとんどです。基本的には、染色体の番号が小さいほうに異常があるほうが重度です。また、1本足りない、つまり対になる染色体がないモノソミーの場合は、1本多いトリソミーよりも重度です。今年(2020年)に入ってから日本産科婦人科学会主導での臨床研究として始まったPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は、体外受精を前提とし、主に染色体の数に問題のない胚を移植し流産を予防することを目的としています。

②胚の染色体の形に変化がある場合(図2)、夫婦のどちらかの染色体に形の変化(構造異常)があることから流産が繰り返し起こる場合があります。染色体の一部が入れ替わっているだけなので、生活する上では何の問題もありません。しかし、「赤ちゃんがほしい」と考えたときに、それが難しくなる場合があります。夫婦が持つ染色体の形の変化が引き継がれない場合もあれば、夫婦と同じく染色体の一部は入れ替わっているけれど生きていくには問題はない場合、生まれてくることができない場合(流産する)があります。残念ながら生まれてくることができない場合の方が多く、流死産を繰り返してしまうことも少なくないので、着床前診断(PGT-SR:日本では2006年から日本産科婦人科学会の申請、認可を受け実施)を選択肢のひとつとして考えても良いかと思います。

流産の原因は胚の染色体だけではありませんが、過不足のない胚を移植することで流産の一部を予防することが期待できます。

赤ちゃんからのメッセージ

医療機関で流産処置をした場合は、赤ちゃんの染色体検査(流産絨毛染色体検査)を検討することもできます。その検査によって、赤ちゃんが「なぜ流産することになった」のか、そのメッセージを受け取ることができるかもしれません。染色体の数に問題があったのか、染色体の形に問題があったのか、または染色体に問題がなかったのか、それによって次の妊娠に向けて、どうチャレンジしたらいいかもわかる場合があります。とくに、染色体の形の変化については、医療機関での流産絨毛染色体検査で、赤ちゃんの染色体の形を調べないとわかりません。

私たちのクリニックでも、この流産絨毛染色体検査で赤ちゃんの染色体の形の変化がわかったことで、ご夫婦が持つ染色体の形の変化に気付くことができ、PGT-SRによって元気な赤ちゃんを授かったご夫婦もたくさんいらっしゃいます。このように流産絨毛染色体検査は染色体の数や形の変化の両方の情報が得られるので、非常に有用なのですが、赤ちゃんの細胞を培養する必要があるため、自宅で流産してしまった場合には検査を行うことができません。

アイジェノミクスのPOC検査は、一般的な流産絨毛染色体検査とは検査方法が違うため、赤ちゃんの染色体の形の変化はわからない場合が多いですが、染色体の数に関しては検査・解析ができると聞いていますので、ご自宅で流産してしまった場合にはかかりつけの先生に相談してみても良いかもしれません。

卵子や精子のことを配偶子といいます。減数分裂でちょうど半分にできないと、配偶子の染色体が23本ではなく、22本や24本になることがあります。22本の染色体を持つ配偶子と23本の染色体を持つ配偶子が受精すると45本、24本の染色体を持つ配偶子と23本の染色体を持つ配偶子が受精すると47本の染色体を持つ胚になります。人の設計図には46本の大事な柱が必要です。1本足りなければ崩れてしまいますし、1本多くても、うまくいかない場合が多いです。

染色体の一部が入れ替わっていても、生きていくのに問題はありません。でも、赤ちゃんがほしいと考えた場合、一部が入れ替わっていることで、卵子や精子を作るときにいろいろな染色体の組み合わせが起こります。上の絵を見てみましょう。FとHの染色体の一部が入れ替わっています。この場合、A、EとC、Gの組み合わせには問題はありません。AとF、CとHの組み合わせは一部が入れ替わっていますが、ピンクとブルーの色の量が揃っているので親と同じく形が違うだけで問題ありません。しかし、AとE、CとHのピンクの量が多い組み合わせや、AとF、CとGのブルーの量が多い組み合わせなどは不均衡型といい、染色体の形によっては、着床しない、または流産や死産、生まれてきた後に亡くなってしまったりすることもあります。

楽しいマタニティライフを過ごしてほしい

私たちのクリニックでは、染色体の形の変化を持ち、流産を繰り返している夫婦に対して日本での臨床研究が始まった2006年度から、認可申請をしてPGT-SRを行っています。

第一例目の方(Aさん)は、流産を4回されていて、「妊娠すると怖くて寝られないんです。流産して、やっと寝られるようになるんです」と泣きながら話してくれました。

染色体の形の変化を持つご夫婦は、流産や死産を繰り返したり、生まれたお子さんを亡くされたりしている方が多く、赤ちゃんが欲しいけれども妊娠することが怖いと泣かれる方は後を絶ちません。

妊娠中は、不安や心配があっても、お腹で育つ赤ちゃんと暮らす楽しい日々でもあると思います。

それなのに、不安で眠れない、怖い怖いと思って暮らすのは、大変辛いことなのではないでしょうか。

そういう辛い思いをして欲しくないと、同じ女性として思い、また医師として何とか力になりたいと思っています。そのお手伝いのひとつに、PGT-AやPGT-SRがあります。怖い、怖いと言っていたAさんには、「染色体の形の変化があるところだけみましょう。

そうすれば、形の変化を持たない人と同じスタートラインで妊娠にチャレンジできるようになりますよ」と説明しました。その後、検査をして染色体の過不足がない胚を移植、妊娠し、経過は順調でした。

妊娠中の日々を数えながら、「こんなに妊娠できていたことないんです。日々更新中です」と喜びながら、一方では流産を繰り返した経験から無事に生まれるまでは怖さがぬぐい切れないと話されていたことを思い出します。

PGT-AやPGT-SRは、元気な赤ちゃんを作る魔法の杖ではありません。すべての人に必要な検査ではありません。その人その人に合わせて受けた方が良いのか、受けなくても良いのかは、よく考えなくてはいけません。

染色体に問題がなくても、病気を抱えながら頑張って生きている子どもたちもたくさんいます。生まれてからも、大きな病気を抱えるかもしれないし、ケガや事故に合うこともあるかもしれません。子育てに心配事はつきません。

でも、長い子育てに通じる一歩を楽しい気持ちで迎えられるようなお手伝いができればと思っています。また、流産したときに赤ちゃんの染色体に数や形の変化があった場合、自分のせいでと思う人も多くいます。染色体や遺伝子は治しようがないと嘆くかもしれません。

けれども、生涯を通して、遺伝子に何一つ問題のない人はいません。みんな、何かしら持っていて、知らないだけなのです。

もともと持っていたかもしれないし、年齢を重ねるに従って起こったことかもしれません。だから、自分を責める必要は何もないのです。

今は、いろいろな方法もあるし、赤ちゃんが育って大きくなった時には、もっと医学が進歩していることでしょう。

ですから、生まれた子どもたちが自分たちと同じように妊娠できないとか、流産してしまうのではとか悩まないでいいかもしれませんね。

もし流産を繰り返して辛い思いをしていたら、ひとりで抱え込まなくても大丈夫です。一度医師に相談をしてみてください。

アイジェノミクスのPOC検査

流産の原因が染色体の異数性によるものかどうかを調べる検査で、アイジェノミクスの検査の特徴は、検体が新鮮でなくても解析ができるようになったことです。

自宅で流産をしてしまっても、その組織が採取できれば検査が可能になりました。

詳しくは、アイジェノミクスのPOC検査実施施設か、アイジェノミクス・ジャパンまでお問い合わせください。

加藤レディスクリニック 黒田知子先生

専門医
日本小児科学会小児科専門医
臨床遺伝専門医・指導医

経歴
長崎大学医学部卒業、同大学小児科学教室入局、医学博士(いつどこで)
1995-2001年
Whitehead Institute for Biomedical Research, Department of Biology、Massachusetts Institute of Technology, Page Laboratory 留学
Howard Hughes Research Associateとして Human Genome Project (Y Chromosome Sequencing Project)、男性不妊症の遺伝子解析に携わる
2001-2006年
東京歯科大学市川総合病院リプロダクションセンター勤務
2006年より
加藤レディスクリニック勤務 着床前診断を中心とした遺伝カウンセリングや診療に携わっている

with igenomix

不妊治療のための遺伝子検査に特化した検査ラボ
株式会社 アイジェノミクス・ジャパン
患者さまの妊娠、出産をサポートする遺伝子解析サービスを提供しています。

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